IBMが「巨大金魚鉢」で警告 生成AIがマーケターにもたらすリスクとは?Marketing Dive

IBMが、ラスベガスの球体型アリーナ「Sphere」を、奇妙な魚が泳ぐ金魚鉢に変えた。テクノロジーや広告の世界で旋風を巻き起こしている生成AIをマーケターがより幅広く試し始めた今、ネガティブな影響を予防するために何が可能かを実証するためだ。

» 2024年05月13日 07時00分 公開
[Chris KellyMarketing Dive]

 IBMは「Trust What You Create(自分の創造したものを信じよう)」キャンペーンにおいて、生成AIが誤った方向に進む可能性があることを示している。

 このキャンペーンはIBMのAIプラットフォーム「IBM watsonx」とAdobeのクラウド製品を訴求するもので、2024年3月に米ラスベガスで開催されたAdobeの年次イベント「Adobe Summit 2024」でいくつかのアクティベーションが行われた。イベントが開催された4日間、ラスベガスの球体型アリーナ「Sphere」の外壁に30分ごとに出現した90秒間の映像もその一部だ。

Sphereの巨大な球体型スクリーンに出現したIBMのキャンペーン映像(画像提供:アドビ)

”ほとんど十分”は不十分

 このキャンペーンは、生成AIが広告業界で広く採用され始める中、管理されていない生成AIの悪影響について、ブランドマネジャーやCMOに教育的メッセージを提供することを目的としている。「IBMは以前、『Adobe Firefly』とのコラボレーションでIBMの社内ベンチマークを26倍も上回るソーシャルメディア広告を作成した。このキャンペーンはその延長線上にある」と、IBMのマーケティングコミュニケーション担当シニアバイスプレジデント兼最高コミュニケーション責任者のジョナサン・アダシェック氏は Marketing Diveと共有した声明の中で説明している。

 「Trust what you createは、このコンセプトをさらに一歩推し進め、AIがうまくいかないときに何が起こり得るかを示している。IBM watsonxやAdobe Fireflyのようなツールを使用することで、当社のクライアントは信憑性と信頼性の高いAIの革新的な力を活用できる。アセットを複製する場合、それが1つであろうと数千であろうと、”ほとんど十分”であるだけでは不十分であることをこの広告は示している」(アダシェック氏) 

 Adobe Fireflyで制作されたキャンペーンビジュアルは、バイアス(偏見)、コンプライアンス違反、サイロ化され管理されていないデータ、ハルシネーション(幻覚)などの生成AIに潜む落とし穴をシュールな手法で表現している。金魚をモチーフとし、それらに奇妙な形態やデジタルエラーを施すことで、生成AIがもたらす潜在的な問題を具現化したのだ。例えば、「ド漂流魚」と名付けられた金魚は、一見水生生物のように見えるが、よく見ると魚ヒレを付けたハムスターであることが判明する。この奇抜かつ不安定なイメージは、キャンペーンを担った広告代理店Ogilvyのクリエイティブチームが生成AIを実際に使用し、その可能性と限界を経験したという実体験に基づいている。

キャンペーンビジュアルは、AIの誤りをシュールな表現手法を用いて表現している。偏見、コンプライアンス違反、サイロ化され管理されていないデータ、幻覚などを、奇妙な形態とデジタルエラーを施した金魚として具現化した(画像提供:IBM)

 IBMのグローバルエグゼクティブクリエイティブディレクターであるデニス・ズリルゲン氏は「私たちは皆、既にAIを使って何ができるかを目にしてきた。しかし、AI活用に対する熱狂がある一方で、AIが信頼に足りるものかどうかについてはあまり議論されていない。このメッセージを分かりやすく伝えるため、私たちはキャンペーン全体を遊び心にあふれ、教育的であると同時に、魅力的なものにしたいと考えた。ここではAIの誤りをシュールに表現しているが、それは決して恐怖や嫌悪感を抱かせるものではなく、ただブランドにとって望ましくない結果を示している」と述べた。

 Adobe SummitではSphereを使った大規模な屋外でのアクティベーションという流行のマーケティング手法に加え、IBMのメインイベントブースを占拠してインタラクティブなモバイル体験が可能なデジタルポスターやタブレット端末なども披露した。

 生成AIの台頭により、マーケティング組織は雇用不安や新しいマーテク(マーケティングテクノロジー)を学ぶ負担など、多くの課題に直面している。だが同時に、AIがクリエイターエコノミーを後押しする可能性を秘めた技術であるとして、強気な姿勢も見せてもいる。

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