企業のPR活動に利用されることも多い「エイプリルフール」という風習。しかし、B2B企業が取り組む必要があるかというと、筆者は懐疑的です。その理由を説明します。
4月1日はエイプリルフール。その起源には諸説ありますが、一般的には何かたわいもないうそをついてもいい日と理解されています。もともとは海外から伝わった風習で、この日の新聞にはわざとうその記事をのせる国もあるようです。近年は日本でもエイプリルフールにユーモアあふれるニセの情報を発信する企業が増え、PR活動とも結びつくようになっています。
例えば、以下は日本マクドナルドのエイプリルフール投稿です。X上で多数シェアされたために見かけた人も多いことでしょう。わざわざ解説するまでもありませんが、マックと幕(の内)を掛けているわけです。
この弁当をネタ元に一般消費者が「こんな豆のメニューがあったのか」「自分でマックのうち弁当を作ってみた」など、自発的にコラボレーションする好意的な投稿も多く見られました。いわゆるUGC(ユーザー生成コンテンツ)を多数獲得できた点で、成功したPR施策と言えるでしょう。
これを見て「ああ、うちの会社も何か面白いことを発信しておけば良かったのに」と考えた広報担当者もいるかもしれません。でも、筆者はお勧めしません。特にB2B企業やそれほど知名度のない中小企業に至っては「むしろ何もしない方がいい」と言いたいところです。
毎年エイプリルフールにバズる企業ネタの多くは、ネットユーザーの日常生活と関係性の深い大手のB2C企業によるものです。彼らは、かなり前から丁寧に準備をしてきている、いわばエイプリルフールのプロです。ネット上にはもともとファンがたくさんいて「今年は何をやってくれるんだろうか」と心待ちにしています。彼らの年に一度の晴れの舞台に、ぽっと出の無名ブランドが素人芸で対抗しようとしても太刀打ちできるわけがありません。
プレスリリースの配信代行を手掛けるPR TIMESは、2015年にエイプリルフールネタに限ってプレスリリースを無料で配信するというサービスを始めました(通常は1本3万円)。これもエイプリルフールにプレスリリースを出すことがブームになるのに一役買ったと思います。もちろんメディア側がエイプリルフールの面白ネタをこぞって取り上げていたからこそ、そのようなサービスが存在したわけです。
しかし、エイプリルフールが恒例行事となるにつれて、段々と弊害も出てきました。「無料で記事になるチャンスが増えるのなら乗っかろう」「流行だからやってみよう」と、内容が練り込まれていないプレスリリースが大量発信されるようになったのです。
ただでさえ数が増えれば、受け取るメディアの側は飽きてきます。それがそろいもそろって面白くないとなると、なおさら記事化される可能性は低くなります。ニュース性の高い本当のプレスリリースがエイプリルフールネタに埋もれて見つけにくくなっていることを快く思わない記者もいます。
あるネットメディアの編集者は4月1日0時に大量のエイプリルフールネタがメールボックスを埋め尽くす様を「レッドオーシャンに皆が集団でダイブしている感じ」と形容しました。準備したネタによほど自信がありそれが自社に有益であると確信しているならまだしも、無名企業が思い付き一つで競争の激しい場に飛び込むのは無謀です。
ネットのヘビーユーザーと親和性の高いファストフードを中心とした外食産業や一般消費財メーカーなどにとっては、エイプリルフールに乗っかったコミュニケーションは引き続き選択肢の一つですが、特定分野向けにサービスを提供するような顧客ターゲットが狭い企業は、全くやる必要がありません。むしろ、以下のような理由から、やらない方がいいとさえ言えます。
ではニッチなB2B企業は4月1日に何をしたらいいのでしょうか。
ズバリ「プレスリリースを出さないこと」。これに尽きます。
先述したように、4月1日はエイプリルフールの面白ネタに止まらず、とにかくプレスリリースの多い日です。事例紹介や調査レポートなど、特に急いで発表する必要のないものは、リリース日を変えた方が得策です。ちなみに、ある記者は「4月1日を避けたせいか、2日も大量にプレスリリースが届く。一方で3月31日は年度末ということもあってリリースがとても少ない」と言っていました。
せっかく丹念に準備したプレスリリースを少しでも有効に機能させるためにどう行動すべきか。広報担当者は、じっくり考えてみるのが良さそうです。
加藤恭子
かとう・きょうこ ビーコミ代表取締役。アスキー、ソフトバンクで編集記者を経験後、米国ナスダック上場の外資系IT企業でのマーケティング/PRマネージャーを経て独立。企業向けセミナーやビジネススクール/大学などのゲスト講師を務める他、主に国内外のテクノロジー企業が適切な相手に情報を届ける仕組み作りと実務支援を行っている。青山学院大学大学院修士(国際コミュニケーション)、日本パブリックリレーションズ協会認定PRプランナー、日本マーケティング学会常任理事(PR担当)、サイバー大学客員講師(コミュニケーション論)。著書に「話題にしてもらう技術〜90.5%の会社が知らないPRのコツ」(技術評論社)、「デジタルで変わる広報コミュニケーション基礎」(宣伝会議、15章を担当)などがある。PR/広報について、「広報会議」「PR Week」などの専門メディアに寄稿している。
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