Googleは2024年後半からサードパーティーCookieのサポートを段階的に終了する。まずはそれまでのロードマップと、今後訪れる変化にマーケターがどう対応すべきかを解説する。
Googleは2024年後半からサードパーティーCookieのサポートを段階的に廃止する。サードパーティーCookieは、今日のデジタルマーケティングの興隆を支えてきた基盤技術の一つであると言っても過言ではない。
当社マイクロアドは2004年より現在に至るまで、このサードパーティーCookieの技術を活用したデジタルマーケティングの各種サービスを提供してきた。同時に数年前からサードパーティーCookieの廃止に向けて、いち早く各種代替技術の導入を進め、現在は実顧客を交えたさまざまなテストを開始している。
こうした活動を通じて得た知見を基に、実顧客によるテスト事例を交えながら、複数回に分けてマーケターがポストCookie時代に取り組むべき施策について解説する。
今世紀にデジタルマーケティングがここまで主要なマーケティングの手段として興隆した背景には、サードパーティーCookieを活用することで「ターゲティング」と「広告効果の可視化」を実現したことが挙げられる。2000年代初頭から「行動ターゲティング」と呼ばれる、消費者のWeb上での行動をトラッキングすることで、その興味関心を捉え、最適な広告をピンポイントで配信するターゲティング技術が普及しだした。同時に、その広告経由で、顧客の成果を可視化する、広告効果計測の技術も発展し、従来のマーケティングの費用対効果を劇的に改善することが可能になった。これらを実現しているのがサードパーティーCookieであり、現在までのデジタルマーケティングの進化を支えてきた。
しかし、サードパーティーCookieは元来このような用途を目的にブラウザに実装された技術ではなく、インターネット上でのユーザー体験をより向上させる目的で実装されたものである。そのため、プライバシーに配慮した設計になっていないことが、かなり以前から問題視されており、インターネットの世界では何度かプライバシー保護を目指した適切なCookie利活用の実現にチャレンジしてきた。
2000年代初頭においては、「P3Pポリシー」と呼ばれる共通仕様によって、Cookie利用に対して規制をする仕組みが提供されていたが、これは広く普及することはなかった。その後「Do-Not-Track」というCookieによるトラッキングをユーザー自身が拒否表明する仕組みが各種ブラウザに実装されたが、これも同様に普及することはなかった。サードパーティーCookieを活用する事業者自身がユーザーから発せられるシグナルを基に“任意”に対応するという仕組みであった事が、普及に至らなかった要因である。そのような失敗の歴史や、昨今のプライバシー保護の意識の高まりを受けて、サードパーティーCookieそのものを廃止するしかないという結論に至ったのが現在の状況になる。
サードパーティーCookieの廃止に向けたスケジュール自体は何度か延期を繰り返しており、業界内ではそのスケジュールに対していまだにさまざまな意見が飛び交っている。だが、歴史的な背景から見ても、サードパーティーCookieの廃止はインターネットの健全性を高めるために避けては通れないテーマであり、廃止論自体は不可逆なものであると考えられる。
現時点でGoogleは、2024年の第3四半期(7〜9月期)から段階的にサードパーティーCookieを廃止するというスケジュールを公表している(外部リンク)。ただし、このスケジュールを予定通り履行するためには、Googleとして越えなければいけない制約が存在している。それが、英国の競争・市場庁(以下、CMA)とのコミットメントの履行だ。
GoogleはサードパーティーCookieの廃止に向けて、デジタルマーケティングにおけるさまざまなユースケースを代替する新たな手段として「プライバシーサンドボックス」という機能をChromeブラウザに実装する。当社はこのプライバシーサンドボックスにおいてもGoogleと直接ディスカッションをしながらサービスへの組み込みを行っている(外部リンク)。この機能の詳細は次回以降の記事で解説をするが、概要としてはサードパーティーCookieを利用せずに、ユーザーのプライバシーを保護しながら、広告のターゲティングや効果計測を実現する手段になる。
代替手段としてのプライバシーサンドボックスの機能提供と引き換えに、サードパーティーCookieの廃止を開始するというのが計画の全体像になる。ところが、この計画に対してCMAが競争上の懸念を表明した。プライバシーサンドボックスが実現するユースケースが市場参加者にとって十分な機能を満たしていない状態でサードパーティーCookieの廃止が実行されてしまうことを疑問視しているのだ。さらに、Googleが自社の広告サービスを優遇するなど、市場参加者の公平な競争を阻害し、消費者にとって不利益を与える可能性などを指摘している。そこで、2022年2月にGoogleとCMAの間で法的な拘束力を持ったコミットメントが締結された。
最終的にこのコミットメントに基づいて、プライバシーサンドボックスが市場の競争を阻害することなく十分な機能を備えていることをCMAが評価・確認できない限り、GoogleはサードパーティーCookieの廃止を実行することができない。CMAの評価のプロセスとスケジュールは下記のように予定されている。
2024年の1月からすでに全世界のChromeブラウザのトラフィックの1%において、サードパーティーCookieが利用できない状態がスタートしている(およそ3200万人が対象)。これはあくまで、プライバシーサンドボックスの性能や機能を、市場参加者がテストするための期間である。このテストを経て、その結果を2024年第2四半期末までにCMAへ提出する。CMAはそのテスト結果を受けて、60〜120日の期間にプライバシーサンドボックスの評価を実施する。なお、この評価期間中にGoogleはサードパーティーCookieの廃止自体を開始することができない。
つまり、サードパーティーCookieの廃止が開始するのは、最短で2024年の8月末、最長で10月末であると予想される。ただし、最終的にこの評価期間においてCMAの懸念が払しょくされない場合、サードパーティーCookieの廃止を実行することができない。
また、当社を含めた世界中の企業がプライバシーサンドボックスのテストを実施(外部リンク)しているが、この市場参加者の中からも現在のプライバシーサンドボックスの機能やスケジュールに対したさまざまな意見が飛び交っている。代表的なところでは、米国のデジタル広告の業界団体である、IAB Tech Labがプライバシーサンドボックスのデジタル広告におけるフィットギャップ分析のレポート(外部リンク/英語)を公開した。その中では、プライバシーサンドボックスの技術面に加え、将来的なガバナンスや運用面においてもさまざまな懸念や指摘が記されている。それを受けてGoogleからそれらの指摘に対する反論に近い回答(外部リンク)も公表されている。
また、プライバシーサンドボックスのテストに参加しているRTB Houseは公式ブログ(外部リンク/英語)において、現在のサードパーティーCookieが制限された1%のトラフィックでは十分なテストを行うことが困難であり、さらなるテストを行うためにはこのトラフィック量を10%まで増やす必要があると述べている。また、その後の段階的廃止プロセスにおいても、10%、20%、50%と新たなマイルストーンを設定して、各マイルストーンにおいて問題の特定、解決策の議論と実装を行いながら、100%までの適用を段階的に進めるのが望ましいと提言している。
サードパーティーCookieの廃止スケジュールに関しては、まだ不確定要素も多い状況ではあるが、テストが始まったことで業界関係者の中でもその議論がさらに活発化している。また、先述した通り、インターネットを取り巻く環境や過去の歴史からも、その廃止論自体が後戻りすることはないと考えられる。
今回は、プライバシーサンドボックスを軸とした廃止プロセスの全体像を解説したが、プライバシーサンドボックス以外にも、サードパーティーCookieの代替手段は他にもいくつか存在している。当社では、これら複数の代替手段を実際のサービスに導入し、顧客を交えたテストを開始している。次回以降は、これらの代替手段に関して一つ一つその仕組みを解説し、実際のテスト事例を交えて紹介する。
この連載を通じて、ポストCookie時代の新しいルールをいち早く理解し、自社のマーケティングにどのように生かしていくかを検討するための一助になればと考えている。
松田佑樹
まつだ・ゆうき マイクロアド 執行役員。2005年よりマイクロアド入社。創業当初よりシステム開発・プロダクト開発を歴任し、現在は経営企画・人事部門を管掌。
マイクロアドは、ビッグデータを基盤としたデータプラットフォーム「UNIVERSE」を軸に広告配信プラットフォーム「UNIVERSE Ads」と媒体社の広告収益化プラットフォーム「MicroAd COMPASS」を展開している。ポストCookie時代へ向けた対応として、Cookieを代替する各種ソリューションを自社のプラットフォームへ順次導入している。
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