広報担当者の悩みあるある「取材を受けたのに思ったような記事にならないのは何故?」B2Bマーケターのための「広報」入門【第6回】

自社や自社の製品・サービスについて広く知ってもらうためにメディアの取材を増やすことは、広報の大事な仕事の一つです。しかし、取材を受けても思い通りの記事が出ないことがあるのも事実。今回は、そのような状況を回避する方法を紹介します。

» 2024年02月29日 07時00分 公開
[加藤恭子ビーコミ]

 皆さんは、メディアの取材を受けて記事が掲載されたのに、「ああ、こんなはずじゃなかった。想像していた記事と違う」という経験をしたことはないでしょうか。1時間も説明したことがほんの1行程度しか書かれていなかったり、実はライバル会社の記事がメインだったりするようなケースです。インタビューでは自社や製品への熱い思いを伝え、記者も何度も深くうなずいていたはずなのに、ネガティブな文脈で紹介されてしまったということもあるでしょう。長く広報業務に従事していると、そのような苦い経験をすることは珍しくありません。

広報の「こんなはずじゃなかった」4パターン

 何を隠そう、私も企業でマーケティングと兼務で一人広報を担当していた頃、あるいは独立したばかりの駆け出しPRコンサルタントだった頃には、そうした悔しい思いをすることがたくさんありました。

 思い通りの記事になっていない理由を分解すると、以下の4パターンに類型化できそうです。

  1. 記事の内容が間違っている
  2. 伝えたかった話の大半がカットされている
  3. 他者と比べて自社の取り扱いが小さい
  4. ネガティブな文脈で紹介されている

 一度出た記事は、基本的に取り消してもらうことはできません。ごく例外的なケースとして、大きな事実誤認があって媒体がそれを認めた場合、訂正文が出たり注釈が追記されることもありますが、元の記事を閲覧した人全員にそれが届くとは限りません。訂正前の記事だけが引用されてSNSなどで拡散し、一人歩きすることもあります。

 故に広報担当者には、意図せざる記事が出ることをできるだけ回避するための努力が求められます。

初級編:ストレートニュースの場合

 ものすごくざっくり分けると、記事にはストレートニュースとそれ以外があります。ストレートニュースは文字通りストレートなニュースで、速報性が命です。記者は企業の発表した内容を中心に記事を執筆するため、記事内容が企業の期待と大きくずれる可能性はほとんどありません。あり得るのは、取材時に口頭で説明した内容やプレスリリースに書かれた意味を記者が取り違えて、内容が間違ってしまうケースです。

 それを避けるためには、誤解の余地がない明快な説明ができるように、取材を受ける人への綿密なブリーフィング(事前打ち合わせ)とブリーフィングノート(取材対応用カンニングペーパー)が重要です。また記者に対しては、最新の公式情報をまとめたファクトブックなどを渡したり、相手の理解度に合わせて専門用語を解説するなどの配慮が求められることでしょう。記事を分かりやすくする図版なども、あれば提供しましょう。これらの工夫により、自社の伝えたい内容が掲載される可能性は高まります。

 記者はあなたの会社の専属ではありません。あなたの会社は記者が日々いろいろな企業を取材している中の1社にすぎません。記者が発表の内容を理解し、記事を書ける状態にして帰すのが取材対応の鉄則です。これにより「間違っている」「言いたいことが盛り込まれていない」「話の大半がカットされてしまった」という状況を回避できます。

中級編:メディアからの取材依頼の場合

 こちらからの発表でなくメディア側からの取材依頼があった場合、少し高度な対応が必要になります。取材したいと言ってくる記者の頭の中には、すでにある程度記事の構成が組み上がっているはずです。記者は足りないピースを埋めるために取材をしたがっているわけです。

 例えば記者が「電子メールが届かない?」という記事を書こうとしていたとしましょう。その際には、以下のようなあらすじを考えるはずです。

  • 電子メールのトラブルに関する現状説明
  • エビデンスとなるデータ
  • 実際に電子メールが届かないトラブルに見舞われた当事者の体験談
  • 電子メールに詳しい専門家の意見
  • 取るべき対策

 この流れで記事を各場合、記者が取材をするのは、主に3つです。

  • 電子メールの現状についての情報収集
  • 電子メールが届かずに困った体験をした人を探して話を効く
  • 専門家を探してコメントを求める

 このテーマで取材依頼があったときには、まずそれが何を目的とした取材なのか、どんな立場で取材されるのかを確認する必要があります。あなたの会社がセキュリティソフトやメール配信ツールを販売しているのであれば、専門家としてのコメントを期待されているのかもしれませんが、単に体験談を探しているだけかもしれません。依頼時には必ず目的を聞き、できれば取材依頼書(趣意書)をもらうようにしましょう。

 記者が欲している情報と自社が出せる情報に重なりがあるのか、あるとして、それを出すことが自社のビジネスにとってどんな意味があるのかと突き詰めていくと、自ずと対応の優先度が決まってきます。記事が載るのがどういう媒体か、誰が記事を書くのかもできる限り知っておきましょう。取材を担当する記者の過去記事や媒体資料を調べることで、書き方や記事のトーン、誰向けのメッセージにするつもりなのかといったことを推察できます。

 単に情報収集を想定した取材で、直接的に自社の製品や活動の紹介に結び付かない場合であっても、記者の意図をくんで「読者に刺さりそうな内容」が語れると、記事の中で引用されることがあります。取材の目的を理解して適切な応対者をアサインすることで「今回は記事化できないけどこの人は話が面白いし、知識も豊富なので別の機会にまた取材しよう」「コラムを寄稿してもらおう」などと、次につながることもあります。取材をきっかけに良い「爪痕」を残せると、記者とのコネクションも増えて、場合によっては何度も取材してもらえるような関係性になっていくきっかけにもなるわけです。

 もちろん、最初からネガティブ文脈で取り上げたり他社を際立たせたりする目的で取材を申し込んでくる記者もいます。取材依頼の内容やその媒体、記者の過去記事などからリスクが高そうな場合は、うっかり言質を取られないように文書で解答したり、自社がコメントする立場にない場合は、取材自体をお断りしたりするという選択もあり得ます。

上級編:自らメディアに取材を持ちかける

 では、自分が思い描いたストーリーに近い形で記事掲載をしてもらうにはどうしたらいいのでしょうか。まずは大原則として記事は読み手のために書かれるものであることに立ち返りましょう。その上で「今、こんなことが世の中で注目され始めていますよね。この分野について当社からご説明できるのですが」と、メディアに提案をすることが大事になってきます。例えば以下のような感じです。中高年の役職定年者や早期退職者にフォーカスした人材紹介会社の広報担当が、記者がイメージしやすいであろう、記者の再就職をフックにして話を進める想定です。

広報担当 企業側が社内エディターを採用する動きが加速しているのをご存じでしょうか。

記者 どういうことですか?

広報担当 ここにあるメディア記者の転職先一覧をご覧ください。このように早期退職したベテラン記者が企業の広報部門に所属し、社内編集者として自社コンテンツを編集する役職に就くケースが増えているというデータがあります。

記者 なるほど、この動きは知りませんでした。テレビのキャスターが自動車会社に入社して発信するのもこれと似ていますね。情報発信をしたい企業側の思惑と、早期退職の記者の思惑が一致したのでしょうか。まだ記事になるか分かりませんが、もっと詳しく話を聞けませんか。

広報担当 はい、もちろんです。弊社は専門知識を持った中高年の早期退職者や役職定年者と企業のマッチングに特化した人材紹介企業ですので、弊社の人材コンサルタントより詳しくご説明させていただきます。それで実際にはA社で社内エディターをしている元新聞記者の方と、B社で社内エディターをしている元専門紙記者の方に取材をしてお話を聞くこともできます。

(以下、話は続く)


 このように、記者がストーリーを組み立てる際のヒントになる素材を提供することで、自社が思い描くアウトプットとのギャップは少なくなります。

 書籍「話題にしてもらう技術」(技術評論社)では、もう少し踏み込んで、取材前や取材中、取材後にやるべきことについて解説しています。もしご興味がある方がいましたら併せてお読みいただければと思います。

執筆者紹介

加藤恭子

加藤恭子氏

かとう・きょうこ ビーコミ代表取締役。アスキー、ソフトバンクで編集記者を経験後、米国ナスダック上場の外資系IT企業でのマーケティング/PRマネージャーを経て独立。企業向けセミナーやビジネススクール/大学などのゲスト講師を務める他、主に国内外のテクノロジー企業が適切な相手に情報を届ける仕組み作りと実務支援を行っている。青山学院大学大学院修士(国際コミュニケーション)、日本パブリックリレーションズ協会認定PRプランナー、日本マーケティング学会常任理事(PR担当)、サイバー大学客員講師(コミュニケーション論)。著書に「話題にしてもらう技術〜90.5%の会社が知らないPRのコツ」(技術評論社)、「デジタルで変わる広報コミュニケーション基礎」(宣伝会議、15章を担当)などがある。PR/広報について、「広報会議」「PR Week」などの専門メディアに寄稿している。


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