広報を迷わせる5つの理由とその解決方法B2Bマーケターのための「広報」入門【第5回】

広報業務はマーケティングとは似て非なるものです。故にその効果測定のあるべき形に悩む人は少なくありません。課題解決のヒントとなる考え方を紹介します。

» 2024年01月15日 07時00分 公開
[加藤恭子ビーコミ]

 マーケティングの世界にはさまざまなツールがあり、効果を数値化する仕掛けが普及してきています。しかし広報となると、どう測っていいか分からないという人が大半ではないでしょうか。前回は筆者が薦めている正統派のやり方を紹介しましたが、実際に効果測定に取り組むとなるとさまざまな壁があります。今回は実際に起きがちな問題と、その解決案を見ていきましょう。

「広報迷子」にならないために

 広報効果を測る際に「迷子」になる典型的な理由は以下の5つです。

  1. 思考停止して前任者のやり方を踏襲している
  2. 測定方法が分かっていない
  3. 記録が継続しない
  4. 比較対象がズレている
  5. ゴールが明確でない

 それぞれの解決方法について、順に考えてみましょう。

 まず1つ目。「前からこのやり方だから」「過去と比較したいから」と、変化を嫌う勢力が障害になるケースでは、従来のやり方を継続しながらも新しい方法を「チラ見せ」していくのが有効です。例えば、広告換算を続ける一方で掲載記事のスコア化(前回の記事参照)も始めてみるようなことです。

 2つ目。今まで何も記録してこなかったのは、そもそも何をどうすればいいのか分からないからということもあるでしょう。測り方が分からないだけで掲載記事はあるならば、日付や記事タイトル、媒体名だけでも記録しておけば、後で記事数を比較したり掲載メディアの変遷を追ったりすることができます。できれば掲載理由(こちらから働きかけた、プレスリリースがたまたま拾われたなど)や執筆した記者名、取材に対応した人なども書きとめておきましょう。これは次の手を打つ際の大事な資料になります。ある程度記録が蓄積されたら、スコアを出してみるといいでしょう。「掲載が多いと思っていたけれど実は記事が出たのはターゲット外の媒体ばかりだった」「特定の人物の取材ばかりだった」「特定のメディアにのみ依存していた」などの課題が見えてきます。

 3つ目。記録が大事だからと、やたら情報を書き込んだり細かい数字を算出したりすると、今度は手間がかかり過ぎて継続が難しくなります。高額な費用が発生する企業認知度調査などにいきなり着手するのもお薦めできません。予算が削られればストップしてしまうからです。また、外資系企業やベンチャーなどでは担当者が頻繁に変わることがよくありますが、その度に情報が引き継がれずに記録が途絶えたり指標が変わったりということが起こり得ます。担当者が何度変わろうと、とにかく必要最小限の記録は維持できるよう、無理のないやり方で記録を開始しましょう。記録を仕組み化するためには少額で実施できる外部のクリッピングサービスの活用をお薦めします。外資系企業の場合はそうしたサービスにグローバル契約をしていることもあるので、日本法人でも使えないか確認してみるといいでしょう。

 4つ目。競合を正しく捉えなければ、いくら比較分析しても無意味です。当該分野でのメディア露出のシェアを競合と比較することをSoV(シェアオブボイス)などと呼ぶことがありますが、知名度の低い新興企業の広報担当者が有名企業と比較して「SoVで負けた」「メディア露出が全く足りない」などと嘆いても仕方がありません。もっと自社に状況が近いところと比較しましょう。同業他社をベンチマークにするなら、自社を少し先行しているくらいの企業がベストです。明確な競合がない場合は前年の自社と比べるところからスタートしましょう。

 5つ目。ゴールを明確にしたくても、プランニングのタイミングで全社の方向性が見えていないということは、現実に起こり得ます。普通に考えれば、それが決まった上で広報プランを策定するのがセオリーですが、なかなか理想通りにはいかないものです。とはいえそこで活動がストップしてしまうと、年度の最後に一気に何かを成し遂げて無理やり目標を達成するようなことになりかねません。そうした場合はひとまず前年の数字を基に広報の目標を先行してざっくりと作り、後で調整をかけましょう。

「分かっちゃいるけど変えられない」をどうするか

 ここで見てきた通り、まずは現実を直視して今できる最善の手を打つことが重要です。高い理想を掲げても、取り組みが続かなければ成果は望めません。

 ある会社(仮にA社とします)の広報部門では、従来の広告換算に代わる新しい指標を取り入れようとしたものの「前年との比較が必要だ」と担当役員に突っぱねられ、諦めムードが漂っていました。そこで、広告換算をすぐにやめることは難しいという現実をいったん受け入れて、それも継続しながら、並行して新しい測定方法として、記事の内容にまで踏み込んだスコアを出すこともスタートしました。現在A社の会議では「今期は前期と比べ、ポジティブな文脈の記事が20%増加」「そのタイミングでSNSのネガポジ分析結果も変わってポジティブなものが増加している」など、新しい指標による測定結果をサマライズしてレポートするようになり、分かりやすくなったと評価され、広報部門も少しずつ手応えを感じるようになっています。

広報の効果測定指標は状況によって変えていい

「話題にしてもらう技術〜90.5%の会社が知らないPRのコツ」(技術評論社)

 また、そもそも広報効果の測定方法や設定すべき目標には、絶対的な正解があるわけではありません。むしろ、自社が置かれた状況によって柔軟に変えていいのです。

 別の会社(仮にB社とします)では、広報活動をスタートした当初、「前年度の掲載記事数を10%超える」という目標を設定していました。始めた年はもちろん軽くクリアできました。前年度は活動していないので当たり前です。しかし、2年目、3年目と、時間が経過するほどに達成が難しくなってきました。そうなると現場では「いっそ、あまり記事を増やし過ぎない方が、翌年楽になる」「単に社名だけでも、どんなメディアにでも載ればそれで評価される」と、目先のことしか考えない雰囲気がまん延するようになってしまいました。この指標ではもはや成果を正しく測定できないと考えたB社は、掲載記事の記録は続けつつも目標を量から質に転じました。さらに、営業部門とも協議の上、掲載されたいメディアリストを作成。それらを最重要メディアと位置付け、そこに単なる社名のみでなく、「会社として出したいメッセージが掲載されること」を新たな目標として掲げるようになりました。

 似たようなケースは、もしかしたら皆さんの周囲でも起こっているのではないでしょうか。広報効果の測定方法は、自社の置かれた状況に合わせていろいろ工夫していいことをぜひ理解してほしいと思います。もっと詳しく知りたい場合は、拙著「話題にしてもらう技術」(技術評論社)を手に取ってもらえたら、うれしいです。

 次回は、これまたマーケティング担当者にはなくて広報担当者にはよくある悩みである「取材を受けたのに思ったような記事にならないのは何故?」について取り上げます。

執筆者紹介

加藤恭子

加藤恭子氏

かとう・きょうこ ビーコミ代表取締役。アスキー、ソフトバンクで編集記者を経験後、米国ナスダック上場の外資系IT企業でのマーケティング/PRマネージャーを経て独立。企業向けセミナーやビジネススクール/大学などのゲスト講師を務める他、主に国内外のテクノロジー企業が適切な相手に情報を届ける仕組み作りと実務支援を行っている。青山学院大学大学院修士(国際コミュニケーション)、日本パブリックリレーションズ協会認定PRプランナー、日本マーケティング学会常任理事(PR担当)、サイバー大学客員講師(コミュニケーション論)。著書に「話題にしてもらう技術〜90.5%の会社が知らないPRのコツ」(技術評論社)、「デジタルで変わる広報コミュニケーション基礎」(宣伝会議、15章を担当)などがある。PR/広報について、「広報会議」「PR Week」などの専門メディアに寄稿している。


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