市場関係者の間では、デジタルサイネージ広告市場はコロナ禍の落ち込みから脱却して再び成長期に入ったとの共通認識が生まれつつあるようです。
CARTA HOLDINGSはデジタルインファクトと共同で、デジタルサイネージ広告市場に関する調査を実施しました。
デジタルサイネージ広告市場は、過去数年にわたり、新型コロナウイルスの感染拡大に伴う外出及び移動規制などの影響を大きく受けました。しかし、市場全体としては既に十分な回復を遂げており、2023年の市場規模は同ウイルス流行前となる2019年時を超える見通しです。
同調査結果によると、2023年のデジタルサイネージ広告の市場規模は801億円(前年比119%)と推定されます。プログラマティック(運用型)広告への関心の高まりを受けて、デジタルサイネージ広告媒体の取引に特化した新規マーケットプレイスの立ち上げやヘッダービディング技術の採用などの動きも見られます。今後もさらなる成長が続くと予測され、2027年には1396億円規模(2023年比174%)まで達する見込みです。
デジタルサイネージ広告を、交通機関、商業施設・店舗、屋外(OOH)、その他の4つに分類した内訳は以下の通りです。交通機関が399億円で全体の49.8%、商業施設・店舗は171億円で全体の21.4%、屋外は136億円で全体の17.0%、その他は95億円で全体の11.9%を占めると推測されます。
これまで市場をけん引してきた鉄道やタクシーの車両内広告については、首都圏内の主な場所への設置作業がほぼ完了し、デジタルサイネージの標準装備化が実現しています。成長の鈍化を回避するために、消費者の生活様式や広告主の要望を踏まえた広告商品設計や販売方法の見直しを求める機運が高まりつつあります。
スーパーマーケットやコンビニエンスストア、ドラッグストア、小売店やショッピングモール、美容室、飲食店などではリテールメディア化への取り組みの一環として、デジタルサイネージ広告商品開発の検討が重ねられています。大手コンビニエンスストアチェーンが発表した大規模な設置計画が象徴するように、小売店舗における広告配信面数の伸び代はまだ大きく残されています。さらに総合スーパー(GMS)に代表される店舗形態においては、来店者の導線設計や通信環境の整備上などの観点から、商品棚前に設置されるタブレット型の端末への広告配信が高く評価されています。またこれまで全国的な拡大が予想されていた美容室サイネージ市場は、大手事業者が相次ぎ撤退した一方で、新規参入も計画されていることから、今後1年間で市場構造が大きく変わる可能性があります。
屋外広告は、渋谷、原宿、新宿といった人気地区の駅前などに設置される大型ビジョンの需要が高く、これらは常時満稿状況にあります。各地区の来訪者像が想像しやすく、また大画面で表示できるといったOOH媒体ならではの特性が高く評価されていると考えられます。こうした人気地区では、駅構内に設置されたサイネージも稼働率が高くなる傾向にあります。目玉となる特別仕様のデジタルサイネージの周囲に設置された媒体にも合わせて広告が出稿され、表示された大型広告がSNS上でも拡散されるといった相乗効果も報告されています。これらの成功事例を受けて、ごく一部の人気地区以外においても新規媒体開発の検討がより積極的に行われるようになりました。今後数年にわたり、大規模な再開発が計画されている駅が複数あることから、配信面の拡大が期待されます。
その他には、地方自治体の建物内や商業ビル、居住用マンションのエレベーター、映画館(シネアド)などが含まれます。今回の調査では、居住用マンションのロビーやエレベーターに設置されたデジタルサイネージの成長に期待を示す声が聞かれました。またゴルフカートやヘリコプター、公衆トイレといった様々な場所への新規媒体設置や広告配信が実施されており、生活空間のサイネージ化が着実に進んでいます。
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