フルボッコにされたバドライト、トーンダウンしたユニリーバ 意識高い企業は何を間違えたのか?Marketing Dive

Bud Lightのキャンペーンは炎上してCMOの辞任にまで発展し、Unileverは先進的な姿勢をトーンダウンさせた。2023年、「パーパスドリブン」を掲げたマーケターは何を間違えたのか。

» 2023年12月21日 13時00分 公開
[Peter AdamsMarketing Dive]
Marketing Dive

 2023年の米国ではパーパスドリブンマーケティングが炎上し、有名ブランドが数カ月にわたって論争に巻き込まれた。ネット上での騒動にとどまらず、実際に売り上げや収益に打撃を与えた騒動は、既に経済的制約と戦っている業界全体に萎縮効果をもたらした。「パーパス」の意義は引き続き力強く主張されており、多くの研究が収益への潜在的なメリットを宣伝している。だが、こうした失敗は、ブランド構築の弱さという、より根本的な問題の表れと言えるのかもしれない。

中途半端な覚悟で時流に乗ろうして残念な結果に

 専門家によれば、CMO(最高マーケティング責任者)は短期的な成果に結びつけなくてはならないというプレッシャーが高まる中でパフォーマンスメディアへとかじを切り過ぎているという。結果、ブランドのポジショニングが明確でなくなり、失敗に対する回復力が低下しているというのだ。同時に、広告主や代理店も、生成AIの台頭がもたらす存亡の危機と闘っており、これによって明確なブランドアイデンティティの欠如がより大きな責任となる可能性がある。マーケターは2023年の大半を、自分たちの仕事が自動化によって危機に瀕しているのではないかと懸念しながら過ごしてきたが、パーパスには複雑さとニュアンスが伴うため、それを成し遂げるにはまだ人間の力が必要かもしれない。

 しかし、Kantarでブランド戦略を専門とするマネージングパートナーのマーゴット・アクトン氏は「パーパスドリブンマーケティングの重要性は、かつてないほど高まっている」と言う。「アルゴリズムは人を見つけるが、重要で意味のある違いを持つブランドとして消費者の目にとまらないのなら、そのブランドは実際にはかえって問題を抱えることになるだろう」

 米国が激しい選挙戦の時期に突入し、一方でインフレがなかなか沈静化しない中、ブランド構築は「Woke」(※)に対する猛攻の中で、最も脆弱な戦術の一つであるパーパスとともに、卵の殻の上を歩くような環境で試されることになる。

※編注:「目覚め」を意味する俗語。差別や人権問題などに意識が高いリベラル派を揶揄(やゆ)する意図で使われる。

 パーパスにはさまざまな定義があるが、一般的には環境保護や多様性、公平性、包括性など、金儲けを超えてブランドが表す価値として理解されている。こうした大義のための努力の多くは、バズワードを多用した広告キャンペーンとして表れるのではなく舞台裏で行われる可能性があり、CMOだけでなく経営幹部のあらゆる側面に関わる機能である必要があることを物語っている。長期にわたる大義にコミットする準備ができていないままパーパスの時流に熱心に飛びついたマーケターは、結果としてさまざまな面で消費者を遠ざけてきた。2023年の終わりはマーケターにとって反省のときになるかもしれない。

 「基本的な理念や前提の一部が忘れ去られている。何らかの被害が出ている」と、Co:Collectiveの共同創設者でCEOのローズマリー・ライアン氏は述べている。Co:Collectiveは企業のパーパス実現支援に重点を置いた戦略コンサルタント会社だ。

吹き荒れた逆風

 2023年はさまざまな要因が重なってパーパスドリブンマーケティング活動が滞り、最終的にブランド構築の成果が低下した。景気は依然として不透明で、マーケターは四半期ごとの業績評価により重きを置くようになっている。批判されるような仕事をバックアップすることは、キャンペーンのたった1つの要素が全国的な議論の的になった場合に自分の仕事が危険にさらされるのではないかと懸念するCMOにとっては、難しい要求だ。

 「やっていられない。今はまだ無理だ」と独立系広告代理店Hothouseのクリエイティブ責任者であるブランドン・ロション氏は言う。

 この不安の根底には、政治的分裂の高まりがある。過去2回の選挙サイクルから冷めることはほとんどなく、2024年に向けて再び高まっている。オンライン上の安全策と礼節は、もろくも危機に瀕していると感じられる。X(旧Twitter)は、イーロン・マスク氏によるモデレーションルールの緩和で、ヘイトスピーチが増加していると報じられている。マスク氏自身も反ユダヤ主義的陰謀論への支持を表明したことで炎上している。

 有害性はXに限定されることはほとんどなく、偽情報はソーシャルメディア全体に広がり続け、AIやディープフェイクをめぐる懸念の高まりによって増幅されている。一方、プレミアムパブリッシャーは広告市場の弱体化に苦しんでいる。マーケターはブランドセーフティーの名の下、妊娠中絶や気候変動など、論争の的となるトピックからキャンペーンを遠ざけようとしているが、その過程でまともなニュースを通じたリーチまで損なわれている。

 この分断化された環境において、パーパスは企業への皮肉や反Wokeキャンペーンの格好の標的となりがちだ。2022年春にはAnheuser-Busch InBev(以下、AB InBev)が販売するライトビール「Bud Light」が不意打ちを食らったカルチャー戦争の火種にもなった。同ブランドはトランスジェンダーのインフルエンサーであるディラン・マルバニー氏をプロモーションに起用したことで保守派から強い反発を受け、不買運動を招いた。これにより、Bud Lightは長らく米国で最も売れていたビールの座を失い(関連記事:「米国で「バドライト」から売り上げ王座を奪ったビールブランド その戦略は?」)、11月にはAB InBevの米国CMOであるブノワ・ガルベ氏が辞任した。AB InBevは第3四半期の米国での売上高が13.5%減少しており、キャンペーンへの反動が引き続き同社のビジネスに苦境をもたらしていることを示している。広告主は、これと同じような形で、表面上何の問題もないように見えることで不意打ちを食らうかもしれないという不安を抱えたまま、2024年を迎えることになるだろう。

 「ブランドは物事を正しく行うためには努力と戦略的エネルギーが必要であることに段々と気づき始めている。あるべき成功の形に対して、かなりの覚悟が必要だと」とアクトン氏は言う。

 ブランド構築とパーパスを結びつけることで名声を得てきた企業でさえ、投資家からの圧力の高まりや消費者の嗜好の変化、世間の懐疑的な見方が交錯する中で、方向転換を迫られている。DoveやHellmann'sなどのブランドを保有するUnileverは、日用消費財のカテゴリーにおいてサステナビリティやボディポジティブに関する議論を先導する役割を果たしてきた。しかし、同社は経営陣の交代の真っ最中であり、最近は経営の焦点が定まっていないことを認めている。また、その広大なポートフォリオの全てのブランドがパーパスに基づいて構築される必要はないという考えを示唆した。

 Unileverの新CEO、ハイン・シューマッハー氏は、最近の業績報告の中でこう述べている。

 「Unileverのパーパス重視の姿勢は称賛に値する。多くの人々がUnileverに入社し、Unileverにとどまるきっかけになっている。しかし、全てのブランドに無理やりパーパスを押し付けることでパーパスの大義を前進させられるとは思わない」

(「炎上しても「パーパスドリブンマーケティング」から逃げてはいけない理由」に続く)

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