環境保護や多様性、公平性、包括性などを「パーパス」に掲げ、金儲けを超えた活動に取り組むブランドが増えている。しかし、そうした活動が強い反発を生むこともある。苦悩するマーケターはどうすればいいのか。
パーパスに基づくブランドの取り組みに対する反発はマーケターにもいくばくかの責任があるとブランディングの専門家は言う。流行に乗ってこの分野に飛び込んだが現在の荒波の中で後戻りしたり沈黙したりする者があまりにも多い。また、過去の栄光に安住し、2016年や2019年にうまくいったことが2023年にも同じように機能すると思い込んで、必要な調整を怠っている者もいた。
パーパスとは何であり誰がパーパスドリブンの取り組みを監督するのかという点で、社内の足並みがそろっていない。このことは、業界の最大の障害として専門家から広く指摘されている。CMO(最高マーケティング責任者)が対外的な窓口となっていることが多いが、コミュニケーションの断絶を防ぐためには経営幹部の全メンバーが関与すべきだ。
※編注:本稿は「フルボッコにされたバドライト、トーンダウンしたユニリーバ 意識高い企業は何を間違えたのか?」)の続きです。
Kantarでブランド戦略を専門とするマネージングパートナーのマーゴット・アクトン氏は「悪いエグゼキューション(具体的な施策)はこちらの弱点を突く機会を与えてしまう。問題はエグゼキューションのまずさにあるのであって、何か重要なもののために立ち上がるという決意そのものにあるわけではない」と言う。
メッセージ伝達の誤りがやり玉に挙げられているが、そもそもマーケターはこれまでブランドの特徴的な声を引き出せないパフォーマンスメディアを優先し過ぎていた。リテールメディアは現在、日常消費財への広告支出を最も促すものの一つだが、支出のほとんどは、購買を促進するためのスポンサー付き商品リストやディスプレイ広告に振り向けられている。独立系広告代理店Hothouseのクリエイティブ責任者であるブランドン・ロション氏には、AppleやNikeのように消費者に定着したイメージを持っている企業であれば、ブランドの強みとクリエイティブな活力のおかげで、論争を簡単に受け流すことができるかもしれないと言う。CMOが今日のマーケティングに待ち受ける落とし穴から身を守りたいのであれば、パーパスに関係あるなしにかかわらず、振り子をブランド構築の方に戻す必要があるかもしれない。
パフォーマンスマーケティングについてアクトン氏は、「購買意向のある人に最後の一押しをすることしかできない」と言い、「ブランドが何を意味し、何のために存在するのかということからアクセルを外してしまうと、最後の一押しのコストはどんどん高くなる。多くのマーケターが心配しているのはこのバランスだ。しかし、彼らが活動する組織は非常に短期的な目標を持っている」と付け加えた。
パーパスに対するあいまいなアプローチとブランド構築の遅れが、両極の党派からの鋭い反応を引き起こしている。ある人々は怒りの炎を燃やし、またある人々はかつて味方と見なしていたブランドから失望させられたと感じている。
小売業大手Targetのケースは後者に相当する。同社は2022年夏のプライド月間のプロモーションを一部取りやめた。同社の幹部は従業員の安全に対処するためだと主張したが、それにもかかわらずLGBTQコミュニティーの一部を動揺させた。従業員も参加するRedditのスレッドには、Targetがいじめっ子に屈して憂慮すべき前例を作ったと受け止めるユーザーもおり、裏切られたという感覚をあらわにしている。
ブランドは消費者の一般的な倦怠感や、それが大胆なブランド構築策への反応にどう影響するかを過小評価している可能性がある。Morning Consultの調査レポート(外部リンク/英語)によると、調査対象となった米国の成人の約3分の1(29%)が、企業は政治的・社会的問題に影響を与えるために権力を行使すべきだと考えている。この数字は2020年の調査結果よりは低いが、パンデミック前よりも高い。
また、世代間の格差は顕著に拡大している。Morning Consultのレポートは「政治的・文化的問題に対する企業の提言への米国民の興味は、2020年の大統領選のときとほぼ同程度だ。しかし、Z世代、ミレニアル世代、民主党支持層と、X世代、ベビーブーマー、共和党支持層といった具合に、世代やイデオロギーの隔たりがある」と述べている。
険しい課題があるにもかかわらず、パーパスは当分の間、マーケティングの論点であり続けるだろう。Morning Consultは「Z世代とミレニアル世代の調査対象者の41%がブランドアクティビズムに賛成しており、2019年の27%から増加している」と、その理由を強調している。若いコーホートは気候変動、職場の多様性、米国の人種問題について企業が発言することに強い感情を抱いており、特に人種問題についてはZ世代とミレニアル世代、およびその上の世代との間で最も支持の差が開いている。
2024年、現実と人工物の区別がますます難しくなる中で、具体的な問題に取り組むブランドの姿勢は(それがエビデンスと行動に裏付けられている限りにおいては)共感を呼ぶかもしれない。企業はまた、2023年に反発を生んだ怒鳴り合いが今後も続く可能性があるという事実と向き合う必要がある。パーパスにブレーキをかけること、そして長期的なブランド構築の仕事から逃げ続けることは、短期的には理にかなっているかもしれないが、長期的には企業の存亡に関わるリスクを伴う。
「問題が大きくなると、データは埋もれてしまう。私たちは目の前の反応ばかりを見て、長期的な影響を見ないことがある。好むと好まざるにかかわらず、企業はこうした会話にどんどん引き込まれていく」とライアン氏は述べた。
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