リアル店舗向けリテールメディア「AdCoinz」、既存のDOOH(デジタル屋外広告)との違いは?ポストサードパーティーCookie時代の新たな選択肢

リアル店舗の価値最大化に向けて小売業支援を行うLMIグループが新たに広告事業に参入。新たなリテールメディアが消費者と広告主、店舗(ロケーションオーナー)にもたらす価値とはどのようなものか。

» 2023年11月17日 10時00分 公開
[織茂洋介ITmedia マーケティング]

 店舗の価値最大化に向け小売業支援を行うLMIグループは2023年11月16日、新たなインストアリテールメディア(店舗内デジタルサイネージ広告)として「AdCoinz」をリリースした。同日に開催された記者向けの説明会では、事業責任者であるLMIグループ副社長共同創業者兼リテールメディア部部長望田竜太氏が登壇。「消費者、広告主、リテール(ロケーションオーナー)に三方良しの広告プラットフォーム」をうたうAdCoinzの提供価値について語った。

商空間事業、生活空間事業に続く第3の事業

 「レガシーマーケットイノベーション」をスローガンとして掲げるLMIグループは群馬県の看板工事会社から出発し、2019年8月に現在の社名にリブランディングしている。主力事業は商空間および生活空間のデジタル化の企画と実装、評価の仕組みの提供だ。具体的には、デジタルサイネージとAIカメラ(コンピュータビジョン)を活用し、設置したサイネージが入店や視認に寄与したかを計測。結果に応じて改善活動を行う。いわばデジタルマーケティングにおけるPDCAサイクルをリアル空間でも一気通貫で展開できることを強みとする。

 望田氏は、今回新たに広告事業を立ち上げた理由について「これまで小売業1200社、1万以上の店舗と直接取引を行う中で蓄積されたリアルワールドデータを使って、小売業のお客さまと一緒に何かビジネスを共創できないかと考えた」と語る。

消費者、広告主、小売業の「三方良し」を目指す

 AdCoinzが既存のDOOH(デジタル屋外広告)と異なるのは、消費者へのリワード(報酬)の提供を伴う点だ。消費者は店舗に設置されたデジタルサイネージに配信される広告に表示されたQRコードをスキャンすることで、アプリのダウンロード、フォームの記入などに誘導され、その対価としてクーポンなどのリワードを獲得できる。一方、広告主は広告を通じて消費者のアクションを促し、リード獲得と広告効果の評価に関するデータを収集できる。また、広告の表示媒体となるデジタルサイネージを設置する店舗は広告収益を得られる。店舗自体が広告主である場合は、消費者が得たリワードを活用した追加の購入促進施策を打つこともできる。

 「分かりやすく言うと、広告主にとっては、リアルでできるアフィリエイト広告。店舗にとっては、これを置くことで消費者が集まってくるかもしれない『ポケモン GO』のような仕組み。消費者にとっては、価値ある自分のデータに対してリワードをもらえる仕組み」と望田氏は語る。

AdCoinzのビジネスモデル(出典:LMIグループ)

AdCoinzの活用例

 例えばカラオケ店の受付に広告配信用のデジタルサイネージを設置し、AdCoinzを通じて某ファストフード店の広告を配信するとしよう。消費者は広告に掲載されているQRコードを読み取り、某ファストフード店のサービスに登録すると、カラオケ店で使用できる割引クーポンを獲得できる。消費者は獲得した割引クーポンをその場で使用できる。広告主である某ファストフード店は、自社のターゲットに近いユーザーがいるカラオケ店への出稿により、効果的なリード(見込み客)獲得が可能になる。カラオケ店は受付のデッドスペースを提供することで、広告収入の獲得と、リワードを使用した追加購入による売り上げ向上が期待できるという具合だ。

AdCoinzのサンプル

DOOHからEOOHへ

 カメラやIoTなどのテクノロジーを活用することで、店舗で取得可能な情報は増えている。入店した人の情報、さらにPOSで持っている個人のデータやトランザクションデータなどは、Webで取得可能なデータ以上に価値が高いと望田氏は考えている。

 望田氏がリテールメディアに期待する理由は3つある。1つ目は優れたパフォーマンスが出せること。2つ目がWebではリーチできないユーザーに出会えること、3つ目が、透明性だ。また、メディアの希少性という観点においても、流行の波があるWebと比較して店舗は安定していると見ている。

 技術的な観点では、LMIと資本業務提携を結ぶAnimoca Brands(アニモカブランズ)が持つエコシステムを活用している。Animoca Brandsは企業のWeb3領域進出を支援する世界的リーディングカンパニーだ。

 LMIグループは2023年9月にAnimoca Brandsの出資先でもある香港のリテールテック企業SmartRetail社と資本業務提携を締結している。SmartRetailが持つ、AIカメラを活用したEOOH(Engagement Out Of Home:視聴者のアクションを伴う屋外広告)ソリューションをAdCoinzに応用し、視聴者が広告を目にしたところからオンラインでアクションを起こすまでのデータ追跡がリアルタイムで可能になっている。今後はAIカメラによって消費者インサイトを獲得し、取得した消費者属性によって広告を出し分けるようなサービス、提供を許可したユーザーデータをマーケティングデータとして広告主・リテールに還元するといったセカンドパーティデータの提供サービスも視野に入れている。

 説明会に登壇したAnimoca Brands代表取締役でライフネット生命の共同創業者としても知られる岩瀬大輔氏は、「今まではリアルの世界がデジタルに移っていくのが大きな流れだったが、今後は広告効果の測定など、デジタル上で当たり前で行われてきたことが、リアルに返ってきているLMIの取り組みは世界の大きな流れを捉えている」とコメントした。

AdCoinzの提供価値(出典:LMIグループ)

サードパーティーCookie廃止で転機を迎えた広告主に新たなチャネルを

 望田氏は、このリアル空間における新たな広告媒体を、ポストサードパーティーCookie時代に広告主が目を向けるべきチャネルと位置付けている。従来、インストア型のリテールメディアというと、FMCG(日曜消費財)ブランドの広告が、ときにテレビCMと同様のクリエイティブで掲載されているケースが多かった。だが、LMIがAdCoinzの広告主として想定するのは、どちらかというとゲームアプリやストリーミング動画アプリ、クレジットカードなどだという。

 「リテールでモノを売っているメーカーは、消費者に広告を見せて商品を買ってもらうのが目的なので、リテール自身が運営してるメディアに販促的に出稿すればいいと思っている。AdCoinzの特徴が生かせるのは、QRコードを通じてWeb上でサービス登録やアプリのダウンロードなどを促す必要がある広告主。つまり、従来Web広告などに多くの予算を投下してきた企業ということになる」(望田氏)

 Googleが2024年中にWebブラウザ「Chrome」におけるサードパーティーCookieのサポートを終了することで、ターゲティングや効果計測というこれまでのデジタル広告の強みが失われることが懸念されている。一方で、GAFAと呼ばれるメガテック企業の巨大プラットフォームにますますデータが集中することに対して、若い世代を中心に不満も高まってもいる。そうした中で望田氏は、広告主の予算の使い方が変わってくると捉えている。

 「今後、広告予算が使われる可能性があるのが、プライバシーに配慮した他の広告ではないかと思う。消費者から同意を得て取得したデータを活用し、広告の出し方としてもしっかり消費者の文脈に沿ったものを出していく。そのためのデータを提供してくれる存在としてリテールが重要だと思っている」(望田氏)

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