日本ではX(旧Twitter)からの大規模なユーザー離れは起こっていないことから、企業は引き続きXへの投資検討を続けるべきと言えます。ただし、今までと何もかも同じでいいわけではありません。
前回ご紹介したアライドアーキテクツによる「Xユーザーの利用実態調査2023」の結果から、日本においてはイーロン・マスク氏による買収以降もX(旧Twitter)からの大規模なユーザー離れは起こっていないことが分かりました。このことから、企業は引き続きXへの投資検討を続けるべきと言えるでしょう。
ただし、Xのさまざまな変化により、これまで鉄板だった「Twitterマーケティング」の手法がXにおいては有効でなくなる可能性はあります。つまり、Xの変化のスピードに合わせて戦略・施策をアップデートできない企業は、Xマーケティングの成果が減少するリスクがあることに留意する必要があります。
特に、「アルゴリズムの変化」および「広告メニューの変更」により、「フォロワー数」だけをKPIとした運用ではマーケティング効果が減少する懸念があり、注意が必要です。
2023年3月、Xは「おすすめ(For You)」タイムラインに関するアルゴリズムを公開しました。おすすめ(For You)タイムラインは、以下3段階のプロセスを経て表示されるポストとその順番が決定されます。
つまり、数多くのポストの中から推奨すべきものを集めてきて、その中でランク付けし、さらに除外・フィルタリングがかかったものが、最終的にユーザーのおすすめ(For You)タイムラインに表示されるようになっています。
着目したいのが、1段階目に候補となるポストが絞り込まれる時点で「フォロワー」のポストは半分になっており、さらにはその中でも「リアルグラフ(両社間のエンゲージメント)」の高いポストが抽出されている点です。また、2段階目においては、抽出された1500のポストからフォロワー数やエンゲージメント数、認証バッジの有無などによって投稿のランク付けがされる点です。
過去、タイムラインはフォロワーの投稿が時系列で表示されていたため、Twitterマーケティングにおいては「フォロワー数をできるだけ多く獲得して、情報を届ける相手を増やそう」といった考え方が広く採用されていました。しかし、現在のアルゴリズムによって表示されるタイムラインでは、フォロワーは依然として重要ではあるものの、フォローされれば投稿が届けられる訳ではなくなっており、「フォロワー数」のみをKPIとした運用では通用しなくなってきているのです。
さらに2023年8月、Xは「フォロワー獲得広告(フォロワーを獲得することに最適化された広告メニュー)」の提供を終了したことを発表しました。
Xは、アルゴリズムのアップデートによりタイムラインに表示されるおすすめ比率や、エンゲージメントによる重みづけを以前より高める中で、フォロワー獲得広告が今後の目指す方向性とは異なる商品になったために提供を終了したものと考えられます。
以上の「アルゴリズムの変化」や「フォロワー獲得広告の終了」から、現在のXマーケティングにおいては、
が重要と言えるでしょう。
今後も引き続きXマーケティングで成果を出し続けていくために大切なポイントを以下にまとめておきます。
フォロワー数という「規模」を表すKPIが良くないとなると、「質」を表すKPIとして「オーガニック投稿のエンゲージメント率」に極端に切り替えようとする傾向がありますが、これらは本来どちらか「一方のみを選択」するものではなく、「質を伴った規模拡大」を図るべきと言えます。
また、分母を「インプレッション数」とした「エンゲージメント率」はアルゴリズムによる影響が大きく、投稿質の改善だけでは大きな変化を得づらいため、PDCAを回すことが難しい指標です。インプレッション数の向上を目指してコンテンツに力を入れる戦略をとる企業もいますが、Xに注力するクリエイターが増える中で競争に勝ち続ける必要があり、難易度が高いと言えます。
では、どのような戦略や指標が「成果」に繋がるのでしょうか。
その解の一つとして、「UGC(ユーザー生成コンテンツ)」へ着目することを推奨しています。「自社アカウントの発信」だけでなく、顧客に対し積極的に問いかけを行って「会話(返信や引用ポスト)=UGC」を増やすことにより、フォロワーとのエンゲージメントを引き上げる効果に加え、自社のニュースやポジティブな情報がUGCを経由して認知される効果や、UGCから元の自社投稿まで辿って閲覧・フォローしてもらえる効果を狙うことができます。Xマーケティングでは、UGCが持続発展的に拡大する状態をいかに戦略的に構築するかが鍵になります。
UGC、会話の創出には「Xキャンペーン(Twitterキャンペーン)」の活用も有効です。ヤマザキビスケットのクラッカー「ルヴァンシリーズ」は、「フォロー&リポスト(リツイート)」型のキャンペーンに加え、Wチャンスキャンペーンとして「あなたのおすすめルヴァンレシピ」の引用投稿を促し「#おすすめクラッ活」のUGCを創出しました。
さらに、企業アカウントからUGCを引用してリアクションしたことでインプレッションが大幅に拡大。UGCの創出に加え、ユーザーとの対話によりUGCの影響を拡大することに成功しました。
一方で、UGCの質と量を高めることはフォロワーを増やすことに比べて複雑なため、社内理解が得られず推進できないケースもあるでしょう。そういった場合は、いかに活動を「販促効果」に繋げるかが求められます。
カルビーは、人気商品を決める企画「カルビー総選挙」において、マストバイキャンペーンを実施。企画の認知拡大とマストバイキャンペーンへの送客を目的に、X広告とXキャンペーンも併せて実施しました。
Xキャンペーンにおいては「フォロー&リポスト(リツイート)」後、抽選結果を確認するためにマストバイキャンペーンの応募サイトへ遷移する仕組みを導入。Xから大規模なユーザーをマストバイキャンペーン応募に繋げることに成功しました。
本事例は、X広告に加えて自社のフォロワーを資産として生かしつつ、ユーザー参加型のテーマで会話を広げ、マストバイキャンペーンで販促に繋げる一連の流れを仕組み化した点がポイントです。
Xでは今後もさまざまなアップデートが想定されるため、Xマーケティングに取り組む企業は、最新情報のキャッチアップが欠かせません。企業にとっては変化が大きく扱いがやや難しい一方で、うまく活用できれば競合企業に対して自社が優位に立つ機会にもなり得ます。変化の把握だけではなく、変化への「適応」、つまりは自社の取り組みへの影響を正しく理解し、適切な打ち手を講じて仕組み化していくことが何よりも重要と言えるでしょう。
Xをマーケティングに活用されている方は、今回ご紹介した、UGC、会話を創出する戦略やXを販促につなげる施策と事例をぜひ参考にしてみてください。
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