ベネッセの次世代コンタクトセンター計画、人とAIが完全共生するには?ベネッセの生成AI元年【前編】

ベネッセコーポレーションのコンタクトセンターにおける生成AI活用を活用した業務効率化の取り組みについて紹介する。

» 2023年10月30日 23時00分 公開
[織茂洋介ITmedia マーケティング]

 ベネッセコーポレーション(以下、ベネッセ)は2023年10月27日にメディア向けオンラインセミナーを開催。同社とパートナー企業による生成AIを活用した業務効率化について、現在の取り組みを紹介した。本稿ではその中から同社のコンタクトセンターにおける生成AI活用の進捗について紹介する。

ベネッセの生成AI活用の取り組み3ステップ

 ベネッセはこれまで、主力サービスである「進研ゼミ」や学校向けの教育DX化支援サービス「ミライシード」において、個別学習カリキュラム作成など、積極的にAIを活用してきた。それらは主に「予測」に関する領域でのAI活用であった。しかし、今日においては生成AIが急速に実用化されつつあり、それが今後、社員の働き方や仕事の在り方そのものを変える可能性がある。そこで、「社内業務において生成AIの活用を急速に進める必要があると考え、3ステップで生成AI活用を進めてきた」と、ベネッセホールディングスDigital Innovation Partners副本部長の水上宙士氏は語る。

 最初のステップとして、十分にセキュリティ対策を施した上でグループ社員1万5000人が生成AIを活用できる状態を整えようと、2023年4月に社内向け生成AI「Benesse Chat」を提供開始した。導入決定から2週間弱でのリリースとなったが、3カ月で約3000人が10万回利用している。具体的な活用例も企画の叩き台作りや契約書の確認、メールマガジンの作成など多岐にわたる。社内のコミュニティーの中でそれぞれの活用例におけるプロンプトを共有するなどの取り組みも進めてきた。

 ステップ2は社内業務の効率化だ。ステップ1での活用事例を基に業務効率化が期待できる領域を特定し、PoC(概念実証)を進めている。具体的にはデジタルマーケティングとコンタクトセンターに関する業務における生成AI活用を、ベネッセ社員だけではなくパートナー会社も共同して一気に進めている。

 最後のステップ3が顧客向けサービスの提供。こちらについては第一弾として2023年7月に小学生向けの生成AIサービス「自由研究お助けAI」を提供することができた(サービスはすでに終了)。

 

次世代型コンタクトセンタープロジェクト

 今回のセミナーで紹介されたのはステップ2の部分。次世代型コンタクトセンタープロジェクトのPoC成果とロードマップについては、パートナー会社であるTMJでベネッセ事業本部事業企画部部長を務める宮川正雄氏が語った。

 TMJは1992年にベネッセの前身である福武書店より分社独立したBPO(ビジネスプロセスアウトソーシング)サービス提供企業。2017年にはセコムの100%子会社となっているが、ベネッセの事業に造詣が深く、現在も多くの業務を受託運営している。主な業務内容は全国の拠点で運営している「こどもちゃれんじ」「進研ゼミ」のコンタクトセンターの運営企画およびバックオフィス業務だ。

 ベネッセのコンタクトセンターにおける現状の大きな課題の一つがオペレーターの採用だ。オペレーターの年間の稼働時間数をグラフ化してみると、繁忙期に当たる毎年4月の入学シーズン前後に突出しているのが分かる。この時期は毎年2500人の短期雇用オペレーターを採用しているが、その採用が年々苦戦しているという。また2〜4カ月ほどの契約期間では、育成にかけられる時間も限られ、オペレーションの品質維持も一苦労だ。さらに、育成コストがかかる割に会社として人的資産にならないという問題もある。

オペレーターの採用と稼働の現状(出典:TMJ)

 これらの課題解決に向け、ベネッセとTMJ、産業技術総合研究所発の音声認識ソリューションベンダーであるHmcommが3社共同で取り組んでいるのが、次世代型コンタクトセンタープロジェクトだ。

生成AIを活用した次世代型コンタクトセンタープロジェクトの座組み(出典:ベネッセコーポレーション)

生成AIで労働集約モデルから脱却へ

 次世代型コンタクトセンタープロジェクトが目指すゴールは、生成AIを活用して労働集約型のビジネスモデルを抜本的に転換していくことにある。また、商品サービスのパーソナライズ化が加速する中で1人当たりのオペレーターが蓄えられる知識には限界があるため、業務知識をAIでサポートしつつ人間のオペレーターを顧客対応の質の向上に集中できるようにする狙いもある。

 「このプロジェクトを通じて、人とAIが共生するコンタクトセンターのオペレーションメソッドを確立したい」と、宮川氏は語る。

 ベネッセのコンタクトセンターにおけるAI活用は2017年にさかのぼる。このときはLINEとWebでAI型のチャットbotを導入し、顧客の電話以外での自己解決率向上とそれに伴う入電率の削減を果たした。その後、2020年にはAI入電予測作成ツールを導入し、過去の入電トレンドから未来の入電を予測することに取り組んだ。2021年にはHmcommの支援で音声認識AIを導入し、本人確認を自動化して平均通話時間を約60秒削減した他、オペレーターの評価を会話テキストから読み取って自動評価を行う仕組みを構築し、オペレーターのスキル改善に貢献した。

 現在はこれらの取り組みで培った既存のアセットを生かしながら、そこに生成AIをプラスしてより効果を高めるために5つのPoC施策を進めている。

 1つ目は、チャットbotやFAQの生成AI化だ。従来のチャットbotやFAQは検索キーワードを入力して検索するか、メニューを選択して遷移する形だったが、これを自然文で質問し、自然文で回答を得られるようにする。2つ目は、チャットやメールの回答文の生成。3つ目は音声ボットによる応対をさらに進め、用件のヒアリングまで自動化する。4つ目は業務ナレッジツールの生成AI化。商品情報や業務マニュアル類に関しても自然文で質問し、自然文で回答を得られるようにする。5つ目が応対履歴の要約文生成。現時点ではクレームの応対に使用することを想定しており、クレームが発生して次の応対者に変わるときに引き継ぎのための履歴を生成する。

メール業務おける回答文生成は人力の約半分の時間で

 2つ目のメール業務における回答文生成では、すでに生成AIの効果が明確になっている。メールでの問い合わせ応対は、問い合わせ内容を確認してナレッジを検索するプロセスと、それを基にメール返信用の文書を作成するプロセスに大別できるが、生成AIにより後者を大幅に効率化できることが分かった。具体的には、Benesse Chatに顧客からのメール内容を引用し、その下に回答したい内容を記述し、最後に「このAの問い合わせに対してBの内容で回答するメール文を作成してください」という具合にプロンプトを入力。すると、返信文が自動生成される。若干の微修正は必要になることが多いが、これまで1件当たり約15分かかっていた作業を8分にまで短縮することができている。

 PoCは10月から始まっていて、11月下旬に全て完了予定。現時点での進捗は以下の通りだ。

PoCの現時点での成果(出典:TMJ)

次世代型コンタクトセンタープロジェクトのロードマップ

 現時点ではハルシネーション’(幻覚)と呼ばれる、AIが生成する誤情報などの課題に慎重に取り組み、じっくりとPoCを行うことを優先する。活用が拡大しそうなのは2024年で、ゴールとなる2025年には顧客接点のAI割合を6割にすることを目標に掲げる。

 次世代型コンタクトセンターが完成すれば、生成AI活用により業務量を圧倒的に削減しながらオペレーターの稼働を60%削減させ、人手不足に左右されない運営が可能になる。コンタクトセンター管理者はこれまでオペレーターの育成やフォローが主業務だったが、今後はAIを育てる側の人材になるためにリスキリングを行っていく。またオペレーターに関しても、今後は質を重視し、AIを使いこなせるオペレーターになっていくこと、さらには継続や入会促進などコンサル業務の機能を強化し、売り上げに貢献していけるようになってもらうということだ。

次世代型コンタクトセンタープロジェクトのロードマップ(出典:TMJ)

 後編では、「次世代型Webサイトプロジェクト」についてまとめる。

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