Xはコミュニケーションを担うチームをあえて置かないことで、逆説的に注目を集めようとしているのかもしれない。だが、そうだとするなら……。
Vox Media主催のカンファレンス「Code」(2023年9月27日開催)において行われたインタビューで、XのCEOであるリンダ・ヤッカリーノ氏は少々いら立っているように見えた。メディアは過去のことしか見ず、指標ばかりに注目し、Xが全く新しい地平を開拓し、この急進的な新しい方向性で驚くべき進歩を遂げているという大局を見逃している、と。
そうではないのだ。
編注:本稿は「X(旧Twitter)への疑心暗鬼が生まれる根本的な理由」の続きです。
Xは、より多くの動画エンゲージメント、インストリームでの支払い、ショッピング、金融サービスなどを盛り込んだ全く新しいプラットフォームになる野望を持っている。それがイーロン・マスク氏の「全部乗せアプリ」計画だ。しかし、これまでのところ、ヤッカリーノ氏が熱心に強調したXのイノベーションのほとんど全ては、実は以前のTwitterの開発チームによる古いプロジェクトであり、Xに残ったスタッフが単に古い開発棚を片付けて押し出しただけのものだ。
「コミュニティノート」は2021年から開発されており、ライブストリーミングはTwitter時代の2016年から配信していた。サブスクリプションパッケージはすでに「Twitter Blue」として販売されており、認証を追加して「X Premium」に名前を変えただけだ。
実際のところ、大規模なアップデートを最初から最後まで行うという点では、Xは全くと言っていいほど何もしていない。現在、Xの開発チームはより小規模な体制で運営されており、コードのばらつきやミスマッチに直面しているため、このようなアップデートはますます困難になっている。
例えば、Xの開発チームはXのリブランディングを徹底するために、残存する旧Twitter時代のリファレンスを全て取り除きたいだろうが、これは非常に難しい。大規模なビデオストリーミングのアップデートを展開するのも困難だ。なぜなら、Xは常に複数のサーバで、複数のレイヤーのコードを更新する必要があるからだ。
こうした問題のかじ取りが難しいことは分かるし、この点でXは確かに前進してはいる。しかし、少なくともユーザー目線で見れば、革新の進捗は天文学的なスピードというほどではない。UIはほとんど同じだし、アプリ内での体験もいつもと同じだ。ヤッカリーノ氏が進歩に対する称賛のシャワーを期待することはできないだろう。
それでも、繰り返しになるが、Xの進捗状況を伝えることができる正式なコミュニケーションチームがあれば、この全てが明らかになるだろう。ヤッカリーノ氏が矢面に立たされるのではなく、広報部門が公式のスタンス、利用状況、進捗状況、これら全ての情報を把握し、理想的にはマスク氏やヤッカリーノ氏がメディアの前に姿を表す前に、データで証明することができるだろう。
出たとこ勝負なマスク氏の性格を考えると、コミュニケーションチームの設置はできない相談なのかもしれない。広告に対してずっと嫌悪感を抱いていたマスク氏のやり方にそぐわないのかもしれない。
あるいは、これが計画の一部である可能性もある。全てはメディアゲームそのものであり、憶測を呼ぶようなアップデートがあるたびにメディアの報道が増えるという具合だ。
もしそれこそが狙いなのだとすれば、Xがいまだに多くのメディア(この記事も含む)の注目を集めている通り、間違いなくうまくいっている。しかし、特定の要素でCEOとオーナーの言っていることが食い違っているように見えること、ユーザー数が疑わしいこと、ヘイトスピーチに関する独自の公式報告書を公開しないことなどは、やはりマイナス面であるように思われる。
データを持っているというなら、Xはなぜそれを開示してメディアを黙らせないのか。Xがうまくいっているというなら、なぜ数字でそれを裏付けないのか。
マスク氏は、メディアの熱狂は良きにつけ悪しきにつけ、実はビジネスにとって良いことなのだと、それが彼のアプローチの一要素であることをほのめかしたことがある(外部リンク/英語)。
たぶん、それだろう。だからXは広報部門を必要としないのだろう。しかし、それならば、Xにまつわる多くの混乱は簡単に解決できていたように思える。そうなっていないという事実は、実際の数字はXが言い続けているほど良くないことを示唆している。
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