「セミナー集客のためにプレスリリースを出したのに全く反応がない」は、広報業務を兼任するB2Bマーケターがこぼしがちな愚痴の一つだが、言っていること自体のおかしさに気付かないだろうか。そもそもプレスリリースの役割とは……。
広報担当者の主業務の一つであるプレスリリース作成は、業務の一環としてメールマガジンを作っているマーケティング担当者なら朝飯前に思えるかもしれない。だが、プレスリリースはメルマガとは目的も対象読者も全く違う。知っているつもりで無価値なプレスリリースを乱発しても、誰も得をしない。今回はマーケターには簡単そうに見えて意外と奥が深いプレスリリースについて解説しよう。
プレスリリースという言葉はマーケターにもよく知られている。だがその意味も含めて理解しているかというと、はなはだ疑問だ。こんな風に思っていないだろうか。
マーケターとプレスリリースについて話すと「集客」「メルマガ」という、広報担当者があまり使わない2つのワードが頻出する。ここが大きなズレになっているのだ。
セミナー集客のきっかけになることはあるかもしれないが、プレスリリースはあくまでも会社の公式発表を正式に外部に伝える手段だ。メディア向けに配信するタイミングでWebサイトなどへも公開する。必要に応じてプレスリリース配信サービスも使う。「発表」という文字からも分かるように「新しい内容を公開」するものでなくてはならない。
よって、セミナー告知サイト公開から時間が経った後に集客が芳しくないからとプレスリリースを出したり、セミナーの集客がうまく行かないから同じ内容を再度プレスリリースしたりするのは、そもそもお門違いだ。やるとすれば、目玉コンテンツとなるような追加講演者が決まったとか、何らかの新情報が必要である。そうでなければ、同じセミナーのプレスリリースを何度も送ったところで相手の迷惑になるだけだ。
ここでプレスリリースとメルマガの違いを整理しておきたい。簡単に表にすると以下のようになる。
広報担当者はプレスリリースを配信する際、多岐にわたる内容(ネタ)を、速報性を意識して「旬」のタイミングで、なおかつ多過ぎないように調整している。拙著「話題にしてもらう技術」(技術評論社)ではプレスリリースになり得るネタとして、以下のようなものを挙げている。
すぐに記事化を狙えるものもあれば、純粋にお知らせ程度の意味合いを持つものもある。単発のリリースを出しておしまいではなく、さまざまなタイプ、粒度の内容を出し続けることで、会社の向かう方向性や存在意義、コンセプトなどが継続的に伝わるようになっている。これらを受け手であるメディアの記者の置かれた状況に配慮し、多過ぎない頻度でタイムリーに配信することが肝心だ。
プレスリリースを継続的に出すことで、対面の機会を頻繁に持ちづらい記者にも適切なタイミングで想起してもらい、関連する記事を執筆する際に声をかけてもらえる可能性は高まる。今すぐではなくても、将来の記事化を後押しする情報手段として、きちんと機能しているのである。
加藤恭子
かとう・きょうこ ビーコミ代表取締役。アスキー、ソフトバンクで編集記者を経験後、米国ナスダック上場の外資系IT企業でのマーケティング/PRマネージャーを経て独立。企業向けセミナーやビジネススクール/大学などのゲスト講師を務める他、主に国内外のテクノロジー企業が適切な相手に情報を届ける仕組み作りと実務支援を行っている。青山学院大学大学院修士(国際コミュニケーション)、日本パブリックリレーションズ協会認定PRプランナー、日本マーケティング学会常任理事(PR担当)、サイバー大学客員講師(コミュニケーション論)。著書に「話題にしてもらう技術〜90.5%の会社が知らないPRのコツ」(技術評論社)、「デジタルで変わる広報コミュニケーション基礎」(宣伝会議、15章を担当)などがある。PR/広報について、「広報会議」「PR Week」などの専門メディアに寄稿している。
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