B2Bマーケティングにおける「ハイブリッド施策」の意味を誤解していませんか?中小企業にこそB2Bマーケティングを【前編】

B2Bマーケティングの取り組みは、大企業やデジタルネイティブのスタートアップ企業だけではなく、“普通の中小企業”でも広がっている。中小企業のB2Bマーケティングを成功に導く鍵は何か、エキスパートが解説する。

» 2023年09月08日 06時00分 公開
[早川友樹Sansan]

 Sansanは2023年6月に「B2Bマーケティングに関する実態調査」の結果レポートを発表しました。同調査で対象となった900人のビジネスパーソン(法人向け商品・サービスを提供する企業で自社のマーケティングに関わる人々)に対し、B2B事業におけるマーケティングの重要度をたずねたところ、「非常に重要だと思う」が38.6%、「やや重要だと思う」が52.3%という結果になりました。つまり、全体の9割以上の人がB2Bマーケティングの重要性を認めていたのです。この結果は企業規模にかかわらず、同様の傾向が見られます。

B2Bマーケティングの重要性は中小企業も認めている(出典:Sansan「B2Bマーケティングに関する実態調査」、以下同)

アフターコロナで全てがオフラインに回帰するわけではないから

 これまでの日本のB2B企業、中でも中小企業にとって、客先への訪問や展示会などで実際に会って話す活動は、新規開拓や顧客との関係づくりが基本だったと思います。しかし、2020年に世界中がコロナ禍に見舞われる中で、状況は一変しました。突如として対面の営業活動ができなくなり、リード獲得や商談といったあらゆるプロセスで対面活動が封じられ、好むと好まざるとにかかわらず、デジタルチャネルに移行せざるを得なくなってしまったのです。

コロナ禍をきっかけにB2Bマーケティングへのニーズが拡大

 B2Bマーケティングの中でも、特に重要度を増していると考えられるのがデジタルです。すでにB2Bマーケティングを始めている企業は「展示会への出展」や「オフラインセミナー開催」といったアナログの手法に加えて、「Web広告」や「ウェビナー開催」という施策も実行しているとの回答が多く見られました。

展示会以外ではデジタル施策に関心が集まっている

 2023年5月に新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の感染症法上の位置付けが「5類」に変更されたことに伴い、現在は行動規制が大幅に緩和され、対面の営業やオフラインの展示会、セミナーなどもほぼ完全に再開しています。展示会に関しては、特に中小企業の場合、リード獲得という目的に加えて業界内における自社のプレゼンスをアピールするため出展している面も少なからずあると思われるので、人の流れが戻って展示会が開催されるようになったからには、今後も出展を継続する企業は多いでしょう。故に、そこで最大限効果的にリードを取っていくことは引き続き重要です。

 しかし、オンラインに移行したプロセスの全てが完全に元に戻るかと言えば、必ずしもそうではありません。わざわざ現地に行かなくてもオンラインで情報が得られるならその方が便利だと考え、もうアナログには戻らない人、デジタルでしかアクセスできない人たちは確実に生まれてきています。もともと展示会へ行くハードルが高かった地方企業のバイヤーなどの中には、コロナ禍でウェビナーなどの情報収集手段が発達したことにむしろメリットを感じていた人も少なくないはずです。

 情報収集がデジタルメインになる流れは止まりません。そういう人たちを取り逃さないために、これからもウェビナーやメールなどオンラインの施策は続けていく必要があると思います。広告の領域では、テレビを見ない人へのリーチをインターネットの動画広告で補完するという考え方が生まれつつありますが、それと同様に、B2Bにおいても行動の中心がオンラインになっている層を逃さないための工夫が求められるのは当然です。これからはオフラインとオンラインのハイブリッドなマーケティング体制を整えていくことが、B2B事業の生き残りの鍵になるでしょう。

ハイブリッドとは「全部を両方やること」ではない

 ハイブリッドなマーケティング体制というと、セミナーをオンラインとオフライン同時で開催するようなイメージで捉えられますが。必ずしもそうではありません。私もオンライン・オフライン同時開催セミナーをやったことがありますが、結局現場には誰も人が来なかったということがあります。コストもかかりますから、全ての施策においてオンラインとオフライン両方の施策を用意する必要はなく、よりニーズの高い方に絞ってもいいでしょう。

 例えば顧客との接点づくりはオフラインの展示会やセミナー、オンラインの展示会、ウェビナーと、オフラインとオンラインの両輪で行います。続いて、興味喚起や顧客育成(ナーチャリング)は、DMやメール、オウンドメディアでのコンテンツ発信といったオンラインを通じて行い、営業や商談につなげていきます。

中小企業におけるハイブリッドなマーケティングモデル

 オンラインはオンラインだけ、オフラインはオフラインだけの施策でもかまいませんが、それぞれの接点で情報が閉じてしまうことは絶対に避けなければいけません。そのような「情報のサイロ化」を防ぐ上で重要になってくるのが、顧客データベースの整備です。各接点から得られた情報をデータベースにしっかりと蓄積し、一元管理する。そして、そこからいろいろなインサイトを得て、次の施策につなげる仕組みづくり。これこそが真のハイブリッドなマーケティングモデルと言えます。


 後編では、中小企業がB2Bマーケティングを実施する上での課題や顧客データベースの活用法について解説します。

寄稿者紹介

早川友樹

早川友樹さん

はやかわ・ゆうき Sansanビジネス統括本部SMB営業部部長。大学卒業後、大手専門商社に入社。生産財部門にて営業を担当。その後、B2Bデータベースサイトを運営する事業会社に入社し、営業を7年担当。営業部長、海外事業部長、人材採用部長などに従事し、事業の成長に大きく貢献。前職のフリマアプリを運営する事業会社にて営業マネージャーを経て、2020年にSansanに入社。現在に至る


構成:三ツ井香菜

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