ゴルフダイジェスト・オンラインが取り組んだユーザー行動分析に基づくCX改善 PoCの成果は?勘や経験を超えて

変化する市場でいち早く勝ちをつかむために何をすべきか。ゴルフダイジェスト・オンラインがユーザー行動分析ツール「Amplitude」を活用してカスタマージャーニー分析と課題改善への示唆出し自動化に取り組んだ事例を紹介する。

» 2022年04月07日 07時00分 公開
[三ツ井香菜ITmedia]

 2022年2月2日、NTTドコモグループの戦略子会社であるDearOneとマーケティングツール導入支援などを行うディレクタスがウェビナーを共催。ゴルフ場予約やゴルフショップなどのサービスをオンラインで展開するゴルフダイジェスト・オンライン(以下、GDO)がユーザー行動分析ツール「Amplitude」を活用してCX(顧客体験)の改善に取り組んだ事例を紹介した。本稿ではそのハイライト部分を紹介する。

(出典:iStock.com/kzenon)

コロナ禍でゴルファーのニーズも目まぐるしく変化した

ゴルフダイジェスト・オンラインの志賀智之氏

 屋外で人との距離を十分に取りながらプレーできるゴルフは、「3密回避」の名の下に活動そのものを制限されがちな他のスポーツと異なり、コロナ禍でもニーズに大きな変化はなさそうに見える。しかし、実際にはやはり顧客行動は大きく変化している。

 例えば今までであれば、コースを回るときには途中で食事休憩を挟むことが普通だった。だが、コロナ禍では食事を挟まずにコースを楽しんで帰るという傾向が顕著になった。また、以前は1〜2カ月前からゴルフ場の予約が入っていたが、世の中の混乱で先の予定が不透明になり、1週間前や前日に予約をすることが珍しくなくなった。

 GDOでCMO(最高マーケティング責任者)とCIO(最高情報責任者)を兼務する志賀智之氏は次のように語る。

 「環境が激しく変化すると、それが顧客ニーズに顕著に出るタイミングが訪れます。そのときに、商品の品ぞろえや並べ方、それをコミュニケーションとして顧客に届けるところまで、素早く対応しなければなりません。対応が終わったころにはもうニーズが変化していたということにならないためにも、できるところは自動化し、マーケターは新しいシナリオやクリエイティブのスピーディーな開発に注力することが大切です」

 そもそも、開発したシナリオが全て思ったような効果を発揮するとは限らない。志賀氏はシナリオの成功確率について「現場の感覚では、10打席1安打程度」と表現する。故に、シナリオをMA(マーケティングオートメーション)に実装する上では、最初からうまくいくことを前提とするよりも、素早くテストを繰り返して仮説検証できる仕組みを用意することこそが重要になる。

ユーザー行動分析ツール「Amplitude」とは

 顧客の属性や行動に合わせたワンツーワンマーケティングは多くの企業が理想とするところであり、MAをはじめとするテクノロジーの普及によって、実現の環境は整いつつある。問題は、多様かつ目まぐるしく変化する顧客のニーズに対し、スピード感を持ってシナリオを柔軟に変化させていくことだ。

 そこでGDOが導入したのが、世界中で4万5000に及ぶサービスが導入するユーザー行動分析ツール「Amplitude」だ。Amplitudeを使うことで、例えば優良顧客が入会後にどのようなページを閲覧し、どのような商品を購入してきたかといったカスタマージャーニーの分析、優良顧客に共通する要素の抽出が簡単に実現する。Amplitudeの導入で、これまで人の勘や経験に依存していたセグメント抽出からMA実装の流れが自動化できるのだ。

 本格導入前に実施したPoC(概念実証)では大きく2つの評価を行った。一つは、分析ツールとしてきちんと有益な示唆が得られるか、求める分析が可能か、それが使いやすいかといった、ツールそのものの性能の評価だ。志賀氏は「伝票だけでなく、顧客の行動も含めてデータを取り込んで分析できるような専用ツールがあまりなかったので、Amplitudeにはそれを期待した」と語る。

 もう一つは、GDO独自の環境や要求に合わせた評価だ。具体的には、既に導入していた顧客データプラットフォーム「Treasure Data CDP」と「Salesforce Marketing Cloud」とのデータ連携が自動化できるか否かがポイントとなった。「他のツールでも、顧客分析からロジックを組んでセグメントを抽出することはできる。だが、それをMAに実装しようとすると、どうしてもSQL開発が必要になる。そこに時間や労力がかかってしまっていたので、セグメント抽出からMAへの実装までを自動化できるツールを探していた」(志賀氏)

数週間かかっていたデータ連携を5分に短縮

ゴルフダイジェスト・オンラインの大友広貞氏

 PoCの結果について、セグメントの抽出とMAへの連携では、もともとはCDPから取り出したデータをCSVの形に整えるクエリを書いてからSalesforce Marketing Cloudに連携させ、メール配信を行うというプロセスを踏んでいた。間にAmplitudeを挟むことによって、必要な分析やコホートの条件はAmplitudeの中で組み、直接Marketing Cloudに連携できるようになった。作業自体は数クリックのみで連携が完結するようになったため、もともと数週間かかっていた作業時間はわずか5分に短縮した。

 予測分析機能については、PoCの期間中に2つの施策を実行した。どちらも特定のセグメントに対してクーポンをメールで配布し、購買を促進できたかどうかを評価して、その効果を過去の施策や他の方法で同時に実施した施策と比較検証した。その結果、予測分析機能を使って効果が高いと判定されたセグメントにクーポンを配布した場合の購買率は、過去に同じくクーポンを配布した施策と比べて購買率の促進効果は180%と大きく増加した。

 GDOで実務を担う大友広貞氏(UXD本部 UX推進部 CRM企画チーム マネージャー)は予測分析機能について「専任の技術者が扱う専門のツールには劣るものの、Amplitudeでは10分程度操作するだけで、有効な結果が得られます。簡単に誰でも操作できる点は非常に有用だと感じました」と評価する。今後、若いチームメンバーにもAmplitudeを積極的に使ってもらい、たくさんの施策を打ちながらよりCX向上のための知見をためていきたい考えだ。

執筆者紹介

三ツ井香菜

みつい・かな フリーライター。マーケティングコンサル会社の制作部門を経て独立。マーケティングやビジネス分野を中心に、インタビュー取材やセミナー取材、原稿執筆を手がける。そのほか、グルメや演劇などでも取材執筆経験あり。

Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.