史上初のオンライン開催となった「カンヌライオンズ 国際クリエイティビティ・フェスティバル」で審査員を務めたI&CO Tokyo共同代表の高宮範有氏に、2021年の世界におけるクリエイティブの傾向を総括してもらった。
世界最大級の規模を誇る国際広告賞「カンヌライオンズ 国際クリエイティビティ・フェスティバル(Cannes Lions International Festival of Creativity)」(以下、カンヌライオンズ)は、マーケティングコミュニケーションの祭典として毎年6月にフランスで開催される。2020年は新型コロナウイルス感染症(COVID-19)拡大の影響でイベントのみならずアワードの審査も見送られたが、2021年は6月21〜25日の5日間、オンラインで開催された。
今回、モバイル部門の日本代表審査員を務め、自身も2021年度のカンヌライオンズのPR部門でシルバーとブロンズを受賞したのが、I&CO Tokyo共同代表の高宮範有氏だ。史上初のオンライン開催となったカンヌライオンズの様子や、コロナ禍でのエントリーの傾向、審査の視点を同氏に聞いた。
――前年の開催見送りやコロナ禍など、2021年はイレギュラーな状況での開催でした。審査を経て、まずは全体の感想をお聞きします。
高宮 審査員としては思った以上にストレスがなく、さすがの運営だと感じました。一方で一般参加者の方の動きを見ると、時差の壁があったと思います。例年であれば現地の高揚感がSNSのタイムラインからも伝わってきたりするんですが、オンラインではそうもいかないですよね。リアルタイムでフェスティバルの熱量が伝わってこない寂しさは感じました。
2020年と2021年の2年分を一気に審査したのも、例年との大きな違いでした。受賞枠は増えないので倍率が2倍になるわけですが、特にモバイルはテクノロジーの進化に伴って「モバイル端末でできること」があっという間に増えていくので、2〜3年前は新しかったことが肌感覚で新しいと思えなくなっていたりします。その影響として、2020年にエントリーされたもの(持ち越しで2021年に審査となったもの)は正直、不利な側面もあったのかなと。
例えばTikTokチャレンジは、今はもう世界中のブランドがやっていますよね。2019年であればTikTokチャレンジをいち早く取り入れたアイデアは評価されたと思いますが、今となっては新しさを感じることができなくて、そういった方向性のエントリーは不利になってしまったかと思います。ただ2020年のものが全て不利だったかというとそうではなく、テクノロジーやトレンドに依存しない、いわば本質的な施策はきちんと評価されていました。2021年はその点がより顕著になったのだと思います。
――コロナ禍ならではのエントリーも多かったのでしょうか。チャリティーや、世の中を良くするような要素はより濃く出ていましたか。
高宮 もともとカンヌライオンズではチャリティー要素の強いエントリーが多いですが、今回特に多かったわけではないと思います。エッセンシャルワーカーへの賛同を可視化するようなものはありましたが、顕著に増えたというよりは、社会に影響を与えていくようなアプローチがコロナ禍によって描かれやすくなっていたのかなという印象です。そんな中、同じコロナ禍を起点にしたエントリーの中でも受賞の有無を分けたのは「誰かの課題を解決しているか」という点だと思います。
モバイル部門ではないのですが、その観点で良いなと思ったのはハイネケンの事例です。取引先であるバーが軒並みクローズしてしまっている状況に対して、ハイネケンがバーのシャッターを広告枠として使った施策です。休業中だからこそ使えるシャッターで、苦境のバーを助けるために直接お金を出しながら、「今は家でハイネケン飲んでください。でも明日(未来)はこのバーで会いましょう」というメッセージを伝える。ハイネケンという企業の粋な印象を与えながら、取引先の課題を解決しているところがすてきだと思いました。
反対に、良いことをやっているように見えて課題解決につながっていない施策はやはり受賞に至りませんでした。例えば、マスクによる肌荒れに苦しみながらコロナ患者の対応に当たる医療従事者にばんそうこうを贈る施策がありました。オンラインで集めた「ありがとう」とか「がんばってください」とかのメッセージを印字して贈るというもので、確かに称賛の気持ちを可視化することはできるのですが、衛生面などを考えると、実は医療従事者に追加の負担をかけているともいえます。根本的な課題解決につながっているかどうか、そのあたりは審査でしっかり見られていたと思います。
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