インタビュー
» 2021年08月06日 08時00分 公開

「ナラティブカンパニー」だけがなぜ生き残るのか本田哲也氏×池田紀行氏 対談【後編】(1/2 ページ)

「物語的共創構造」を意味するナラティブ(narrative)は企業視点のストーリー(story)とは似て非なるものだ。消費者とともにナラティブをつむぐため、企業は今何をすべきか。

[北川真央,ITmedia]

 前編「これからの企業コミュニケーションを読み解くキーワード『ナラティブ』とは?」に引き続き、『ナラティブカンパニー』(東洋経済新報社)を出版した本田哲也氏とトライバルメディアハウス代表の池田紀行氏による対談をお届けする。

本田哲也氏(左)と池田紀行氏

「オーセンティシティ」が重要

――「ナラティブ」が注目されるきっかけの一つとなったコロナ禍で、マーケティングやPRの世界には具体的にどのような変化が生じたのでしょうか。

池田 実際には案外何も変わっていないんじゃないかと思っていますが、「リアル」が明らかにぜいたくなものになった印象はあります。これまでのマーケティングにおいてはまずオフラインが前提で、リアルの横にデジタルマーケティングがあるという位置付けでした。それが今ではむしろデジタルを活用しなければマーケティングが成立しなくなってしまったのですが、やはりそこに欠損があることが分かってきた。これまで漫然とやっていたイベントでのリアルな体験が、実はブランドにとってとても重要だったと、なくなって初めて見直されるようになったのだと思います。

――リアルの活動を生業とする企業・ブランドにとって、2020年は苦難の年でした。緊急事態宣言下で客足が遠のき、中には公的な要請で事業そのものを停止しなければならないケースさえありました。逆境にあって、ナラティブが果たした役割もあったのではないでしょうか。

本田 著書の中で紹介したサンリオ・ピューロランドの事例が、まさにそれです。YouTube公式チャンネル「purolandJP」に公開された動画「ピューロランド、休んでたって…」はTwitterでトレンド入りするなど、大きな反響を呼びました。休館中の館内の舞台裏を見せることで、お客さんと会えない状況を逆手に取って大きなエンゲージメントを獲得しました。

 ここで指摘したいのは、サンリオ・ピューロランドは以前からあらゆる方向でエンゲージメントを築いてきたということです。緊急事態宣言が出てから思い付きで動画を出したわけではありません。

池田 脈々と築いてきた行動規範が、コロナで休園という状況になって、ああいう形で現れただけですね。やっていることは一貫しています。

本田 コロナ禍でナラティブが重要になる理由の一つとして私は「自分らしさ」が問われていることを挙げました。企業・ブランドにとっての自分らしさを本の中では「オーセンティシティ」と呼んでいます。辞書には「信頼のおけること、確実性、真実性、信ぴょう性、真正性」などと書いてあります。オーセンティシティがない、うわべだけのメッセージは必ず見透かされてしまいます。だから、場当たり的にナラティブめいた施策を打っても意味がないし、炎上リスクさえあるといえます。

池田 オーセンティシティは今後キーワードになりそうですね。

――その企業・ブランドらしい、うそ偽りのない、ありのままのコミュニケーションですね。消費者の立場からすれば当然そうあってほしいものでもあります。

本田 コロナ禍における変化は、消費者のインサイトという点で顕著です。消費者が「本質的に必要だったもの」に気付いてしまった。「よく考えたら、なんてそんな高いもの着てたんだっけ」というような。実際、ファッションやコスメのラグジュアリーブランドでは、コロナ禍が収束しても需要が完全に元通りに戻ることはないと考えている人が少なくないようです。

 反対に、本質的なものにはきちんとお金を使う傾向も見られます。コスメでも、リップスティックなどが売れなくなった一方で、基礎化粧品は伸びている。自分自身を大事にしようという意味合いの「ご自愛」は2020年のキーワードの一つです。「世の中何が起こるか分からない」ということが分かった今日、5年後や10年後といった将来よりも今の自分のウェルビーイングを大事にしようという意識は確実にあると思います。

池田 巣ごもりを強いられているから自分磨きに走るといった一過性の話ではなく、価値観に本質的な変化が起こっているんですよね。今日一日を大切に生きよう、半径5メートルを大事にしようという人たちと共にナラティブをつむぐことができれば、この変化は企業にとってオポチュニティーにもなり得ます。

本田 ホッとしている人もいると思うんですよね。人と会わなくなってムダなお金を使わなくて済むようになったとか、会社の飲み会がなくなって良かった……みたいな。

池田 「コロナ後の」というのはビジネス誌やイベントでは引きのあるタイトルにはなりますが、最初に言ったように、実際にはそこまで大きな変化はないように思うんです。

本田 コロナが引き起こした変化というよりは、もともと起こりつつあった変化がコロナをきっかけにブーストされたイメージですね。中期経営計画に書かれていた方向性はそのままで、コロナで変化のスピードが上がっただけ。

池田 だから、準備をきちんとしてきた企業は右往左往していません。ナラティブについても同じことが言えますね。

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