旅行業界のデジタルシフトと「Go To トラベル」後の課題 びゅうトラベルサービスに聞く顧客理解とスピード感のある打ち手(1/2 ページ)

列車旅の拡大活性化を目指してデジタルシフトを進めるJR東日本グループの旅行会社びゅうトラベルサービス。同社のマーケティング課題とニューノーマル時代における戦略、今後求められるマーケター像などについて聞いた。

» 2020年11月24日 08時00分 公開
[北川真央ITmedia]
びゅうトラベルサービス Web販売戦略部 スペシャリストの沓名恵氏

 OTA(Online Travel Agent:オンライン旅行会社)の台頭で近年の旅行業界は大きく変わろうとしている、これまでオフライン(実店舗)をメインにビジネスを展開していた旅行会社も方針を見直さざるを得なくなっている。

 JR東日本のグループ会社のびゅうトラベルサービスも、デジタルシフトに取り組む1社だ。同社がデジタルマーケティングを本格化させるまでのいきさつと施策の成果、今後の展望について、Web販売戦略部 スペシャリストの沓名恵氏に聞いた。

システム、プロセス、人 何もないところからのスタート

 びゅうトラベルサービスは、関東、東北、信越エリア内の新幹線を利用した旅行を中心に人気の北陸・北海道への旅行商品を提供している。販売の主軸となるのは駅構内などにある「びゅうプラザ」だ。立地の良さもあって多くの人に慣れ親しまれているが、既存チャネルが強い分、業界全体で進むデジタル化にはやや後れを取っていた。転機となったのは2015年11月、オンライン販売専用の旅行商品として「JR東日本ダイナミックレールパック」の販売を開始したことだ。同商品は「ダイナミックプライシング」モデルを採用しており、列車ならびに宿泊施設の価格は購入する時期や季節、需要動向によって変動する。列車と宿を一度に予約できる点は従来のパッケージツアーと似ているが、利用者が目的に合わせて列車と宿の組み合わせを自由に選択できるのはデジタルならではの強みといえる。

 ただ、当初はいささか期待過剰な空気もあったようだ。沓名氏がびゅうトラベルサービスに入社したのは2016年。当時の社内には「インターネット上に掲載すれば何の工夫もなく売れる」という考え方が強く、どうやってWebサイト上で販促をしていくかという視点はほとんどなかった。びゅうトラベルサービスの従来の主要顧客は通勤途中などで駅を使っている層、つまりリアルで接触機会を持つ人がほとんどだ。オンラインで顧客とコミュニケーションを取るという発想がそもそもなく、それを実践するためのツールも十分にそろっているとはいえなかった。社内でデジタル領域に強い人材は皆無。そのような状況下で、前職でWebデザイナーの経験もある沓名氏が、デジタルマーケティング担当にアサインされた。

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