話題のD2Cブランドとそこで生まれるコミュニケーション、ブランドの仕掛け人の思想について考察するこの連載。第3回は山西牧場代表取締役で養豚家の倉持信宏さんが展開する農場直送ブランド「三右衛門」を取り上げます。
自社で企画・製造した商品を自社のチャネルで販売するD2C(Direct to Consumer)のビジネスモデルが注目されている。D2Cの本質は、購入までのプロセスを通して、ブランドの価値を直(Direct)に体感してもらうところにある。それを後押しするのが、顧客の共感を生み出す「ストーリー」だ。この連載では、筆者が注目するD2Cブランドのストーリーとその語り手であるブランドオーナーに注目し、顧客の心をつかむコミュニケーションの在り方を考察する。
第3回で取り上げるのは、豚肉ブランド「三右衛門」とその加工品ブランド「3 è mon」、そして同ブランドを展開する山西牧場で代表取締役を務める倉持信宏さんだ。Twitterでは、ブランドや倉持さんの活動をよく知る人から命名された「豚野郎」と自ら名乗り、ブランドを広める活動にいそしんでいる。
茨城県で養豚業を営む山西牧場の3代目である倉持さんは明治大学農学部卒後、家業に従事していた。しかし、身体があまり丈夫ではないため、農場で働くのが向いておらず、居場所のなさを感じていた。
自らの役割を「現場(農場)に出て養豚業をすること」ではなく「自分たちが作るおいしい豚肉を世に広めること」に定めてから、自社サイトとECサイトを自力で製作し、精肉や加工品の直販をオンラインで開始したのが2018年5月のこと。
2019年3月には、サイトのリニューアルとリブランディングを目的としたクラウドファンディングを成功させ、2020年3月に三右衛門と3 è monという2つのブランドを立ち上げて、現在に至っている。
倉持さんがD2Cブランドを立ちげた理由は「商品をストーリーと共に、お客さまへダイレクトに届けよう」と考えたからだ。逆に言えばそこには、商品の魅力がうまく伝わっていないことに対するもどかしさもあった。
原体験となったのは2015年頃、豚肉の流通の透明性に疑問を持ったことだった。当時、山西牧場で生産された豚肉は出荷後、「茨城県産豚肉」「銘柄豚・山西牧場」として販売されていたのだが、自身の生産品とは異なる印象の豚肉が「山西牧場」の名で流通していたのを販売店で目の当たりにしたのだ。気になった商品を買って食したところ、自分たちの作る豚肉とは、肉の色や脂の質感、味などが微妙に異なると感じたという。
いくら商品にこだわっても、一般の流通システムに乗せる以上、国産/茨城県産という形でくくられてしまい、山西牧場が消費者から直接評価されたり指名されたりするのは難しいことを再確認した。
豚肉のおいしさには自信があった。だからこそ、山西牧場という名前を出すからには確実な流通経路で顧客のもとへ届いてほしい。そうした思いから、自社直売ブランドを新たに作ろうと決めた。「三右衛門」という名は家系26代の歴史の中で、倉持さんの曽祖父の代まで受け継がれてきた人の名前だが、祖父の代で途絶えていた。その名をブランドとしてよみがえらせることで、未来へとつなげたいと考えた。
三右衛門の魅力や生産者としての思いを伝えるため、まず取り組んだのがロゴやECサイトの刷新や梱包のデザイン制作だ。そのため2019年3月にはクラウドファンディングを実施。350人を超える支援者によって約370万円の資金が集まり、2020年3月に三右衛門/3 è monのECサイトをリリースして今に至る。
倉持さんは新商品開発や商品ページ準備、告知、広告運用、SNS(Twitter、Instagram、YouTube、LINE公式アカウント)、オウンドメディア(note)運用、梱包、発送、問い合わせ対応まで、ECサイト運用における全業務を担う。
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