COVID-19で変わるCX(顧客体験)の価値 Adobe CEOが語るAdobe Summit 2020レポート(2/2 ページ)

» 2020年04月28日 01時00分 公開
[織茂洋介ITmedia マーケティング]
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CXM(顧客体験管理)には設計図が必要だ

 これまでの成功体験を捨て、デジタル経済圏で新たな市場を創造するのは簡単なことではない。だが、いち早くデジタル変革に挑み、それを成し遂げた企業もある。Adobe自身がそうだ。「Adobe Summit 2019」でナラヤン氏は、Adobeが提唱するCXM(Customer Experience Management:顧客体験管理)と、そのアプローチであるDDOM(Data Driven Operation Model)について語った(関連記事)。そして今回、自らの経験を形式知とすべく作成したのが、「Adobe CXM Playbook」だ。

 2020年1月よりAdobeのデジタルエクスペリエンス事業を統括するチャクラヴァーシー氏は前職Infomatica CEOの時代にAdobe Experience Cloudのユーザーでもあった。ユーザーの立場からAdobeをロールモデルとしてきたチャクラヴァーシー氏は「どの業界でどのようなビジネスをしていても、変革を成し遂げるためには設計図が必要になる」と語る。CXM PlaybookはCXMのための設計図であり、個々の企業に必要な計画策定を支援する。

アニール・チャクラヴァーシー氏

 CXM Playbookではテンプレートと自己評価、注釈、現在のビジネスにおける改善点の特定といった機能を利用できる。毎回自己評価を完了すると、学習リソースと次のステップを提案するカスタマイズガイド、同業他社と比較するための業界ベンチマークを入手できる。自社独自のCXM戦略ができたらドキュメントとしてダウンロードし社内で共有できるのだ。

 CXM Playbookは、以下の6つの項目で構成される。

  • デジタルファースト:デジタルリーダーシップが企業の戦略の中核に置かれ、顧客中心主義を推進する。
  • データとインサイト:広範囲にわたるデータアクセスを可能にし、ビジネスの意思決定に不可欠なインサイトを提供する。
  • スケーラブルコンテンツ:顧客一人一人の興味・関心に合ったコンテンツをチャネルの違いを越えて提供する
  • パーソナライズ最適化機能:顧客に最適なコンテンツを分析し設計する方法を提示する
  • カスタマージャーニー管理:自動化やAI活用によってパーソナライズとチャネルお運団の一貫した顧客体験を構築する方法を提案する
  • パーベイシブ(全方位)コマース:チャネルをまたぐショッピング体験を組み込み、売り上げとLTV(顧客生涯価値)を増大する方法を案内する

 チャクラヴァーシー氏は「CXM Playbookが提供する6つの項目を組み合わせることで、豊富な実績に裏打ちされた包括的な青写真を描くことができる」と語る。

次世代のCXMを支える「Adobe Experience Platform」

 CXMの出発点は顧客理解であり、「Adobe Experience Cloud」はそのためのツールといえる。Adobe Experience Cloudは毎日14兆件を超えるセグメントアクティベーションをサポートしている。毎日150億のwebページを処理し、1550億ドルの商取引をサポートする。

 Adobe Experience Cloudの各種アプリケーションの土台になるのが、Adobe Summit 2019で発表された「Adobe Experience Platform」だ。Adobe Experience PlatformはAdobe Experience Cloudのみならず各種社内データを統合するCDP(カスタマーデータプラットフォーム)としての機能を持つ。

 その特徴は「リアルタイムの顧客プロファイル」「AI&機械学習」「オープンエコシステム」の3つだ。企業が持つ何百万ものデータポイントから顧客の全体像を瞬時に捉え、AIや機械学習のトレーニングや実行に最適な環境を提供し、顧客インサイトを強化する。そして、オープンエコシステムにより得られたデータを他のシステムと連携して自由に活用できる。

 MicrosoftおよびSAPと共に進めるODI(Open Data Initiative)では、各社共通の顧客が自社所有データをフル活用してCXMを推進することを目指している。またこの度、Adobe Experience PlatformとODIのインテグレーションも実現した。

 Service Nowとの提携もオープンエコシステムの好例だ。「ServiceNow Customer Service Management」と双方向に連携することで、顧客獲得からサービス提供まで包括的にパーソナライズした体験を提供できるようになっている。例えば製品管理部門で問題が発生したという情報が挙がれば、即座に購入した人を特定してアクションが起こせるといった具合だ。

新たに追加された「サービス」レイヤー

 2019年のアップデートでAdobe Experience Cloudの構成は土台であるAdobe Experience Platformの上に「Adobe Marketing Cloud」をはじめとする4つのアプリケーションが載ったものとなった。プラットフォームレイヤーとアプリケーションレイヤーの間に新たにAPIファーストのアーキテクチャで構築される「サービス」レイヤーが加わったのは、2020年の特筆すべきトピックの一つといえるだろう。

Adobe Experience Cloudは3層構成に

 サービスは「アプリケーションサービス」と「インテリジェントサービス」に大別される。インテリジェントサービスはAIと機械学習のフレームワークである「Adobe Sensei」の予測分析をカスタマイズ可能にしたものだ。今回発表されたサービスを順に見ていこう。

  • アプリケーションサービス
    • Real-Time Customer Data Platform:顧客プロファイルの管理を簡素化する
    • Customer Journey Analytics:Adobe Experience Platformで統合されたデータを分析ワークスペースで分析し、オムニチャネルのインサイトをリアルタイムで提供する
    • Journey Orchestration:実際の来店や店舗での購入も含め、チャネルを横断した個人のアクションを起点とするイベントベースのインタラクションを自動化する
  • インテリジェントサービス
    • Customer AI:特定の顧客セグメントを正確に見つけ出し、そのセグメントにターゲットを設定できるようサポートする
    • Attribution AI:アーンドメディア、ペイドメディア、オウンドメディアそれぞれのコンバージョンへの影響を確認し、意思決定を支援する
    • Journey AI:数百万人もの顧客行動データを継続的に分析して最適なタイミングで体験を提供できるよう支援する(2020年後半以降リリース予定)
    • Content & Commerce AI:商取引のパフォーマンスにつながったコンテンツの有効性を測定する(2020年後半以降リリース予定)
    • Leads AI:インテリジェントなリード管理を実施して適切なリードを担当営業に渡すことで効果を最大化し、セールスパイプラインの流れを加速させる(2020年後半以降リリース予定)

Adobe Experience Cloudの新しくなったところ

 Adobe Experience Cloudの4つのアプリケーションに関する最近の注目アップデートは以下の通りだ。

  • Adobe Marketing Cloud:コンテンツ管理とデジタルアセット管理を担う「Adobe Experience Manager」のクラウド版「Adobe Experience Manager as a Cloud Service」をリリースした他、エンゲージメントマーケティングツールの「Marketo Engage」に対話型のUIを追加。チャット形式でWebサイト訪問者とやりとりし、PDFを表示させたり連絡先を取得できる他、顧客がセルフサービスで営業担当者と面会を予約できるようになった。
  • Adobe Analytics Cloud:新たなモバイルアプリをリリース。物理的なタッチポイントとデジタルタッチポイントを横断してカスタマージャーニー分析ができるようになった。データチームが作成したカスタマイズ可能なスコアカードを使えば個別のリクエストがなくてもユーザーに関連したインサイトを得られる。
  • Adobe Advertising Cloud:Adobe Analytics Cloudと連携を強化し、ペイドメディア(広告)のトラッキング、分析、アクティベートがしやすくなった。クリックスルーおよびビュースルー両方のコンバージョンを測定可能で、広告効果を正確に分析してキャンペーンの最適化が可能になった。
  • Adobe Commerce Cloud:Adobe Senseiを活用した商品レコメンデーションをMagento Commerceの全てのユーザーが利用可能になった。また、Magento Commerce用の新しいB2B購入ワークフローにより購入前の認証プロセスを効率化し、見積もりや注文の送信前に承認を受ける必要がある場合のルール設定をサポートする。
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