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» 2020年02月07日 07時00分 公開

エキスパートが語り下ろすモダンマーケティングの論点:訪日インバウンド施策はなぜうまくいかないのか (1/2)

2019年は訪日外国人数が過去最多となった。2020年はオリンピックイヤーとして成長がさらに加速すると期待される。しかし、多くの企業や自治体が「訪日インバウンド」に向けて打つ施策には、何かが欠けていないか。

[宇陀栄次,Yext]

 オリンピックイヤーの2020年、コロナウイルスで多少の陰りがあったとしても、長期的には極めて有望な成長分野と考えられ、多くの国内企業にとって訪日インバウンドはまたとない大きなビジネスチャンスとなる。しかし、日本に住む日本人を対象としたマーケティング・セールスとは異なる難しい課題も山積する。

 海外から集客したいが、知名度のない自社ブランドをどうやったら海外で認知してもらえるのか。認知を獲得できたとして、実際に日本に来てくれた人に実際に来店してもらうにはどうすればいいか――。

 商機をうまくつかむために何ができるのか。元セールスフォース・ドットコム代表取締役社長で現在はYext(イエクスト)日本法人代表取締役会長を務める宇陀栄次氏が語る。

宇陀栄次さんプロフィール 宇陀栄次
うだ・えいじ Yext(イエクスト) 代表取締役会長。日本アイ・ビー・エム理事、ソフトバンク・コマース代表取締役社長を経て2004年にセールスフォース・ドットコム代表取締役社長に就任。日本におけるSaaSの浸透に尽力。2012年にはSalesforce本社のエグゼクティブバイスプレジデントも務めた。Salesforce創業者マーク・ベニオフ氏は著書『クラウド誕生 セールスフォース・ドットコム物語』(ダイヤモンド社)で宇陀氏を「ダイレクトセールスの天才」と評している。2017年より現職。

その「おもてなし」は届いているか

 JNTO(日本政府観光局)が2020年1月に発表したところによると、2019年の訪日外国人数は前年比2.2%増の3188万2000人でした。これは統計を取り始めた1964年以来最多となる数字だそうです。

 2019年はラグビーワールドカップがあり、観戦目的の訪日客が多数訪れましたし、2020年には東京オリンピック・パラリンピックがあるので、一層の成長が見込まれます。これを機に、日本の観光産業がもっと伸びていくことを私は心から望んでいます。

 なぜなら、日本国内の日本人だけを相手にしていては、今後経済が大きく伸びることはあり得ないからです。少子高齢化で生産力も購買力も縮小する中、国内だけで市場を考えていても、成長はあり得ません。厳しいようですが、それが現実です。だから日本というブランドをグローバルに発信して対象を広げ、外から人を呼び込んで経済を活性化させるための戦略は必須です。

 もちろん、その目的に向かって現在も日本企業や自治体はさまざまな取り組みを実施しています。デジタルの領域でも「越境」や「クロスボーダー」はホットなキーワードです。しかし、各企業や自治体が取り組んでいる施策が外国人が本当に望むものと本当に一致しているのか、一度立ち返って考える必要があると思います。

 私は前職のセールスフォース・ドットコムを退職した2016年から2年間、東京オリンピック・パラリンピック競技大会組織委員会のチーフ・テクノロジー・イノベーション・オフィサーとして東京2020大会の実現に向けて動いていました。他国の状況を知ろうと2016年リオデジャネイロオリンピックや2018年平昌オリンピックにも実際に訪問したのですが、平昌では自費で普通の観光客として回ってみました。そこで分かったのは、Googleマップが使えない地域があるなど、日本で当たり前のようにしていたことが意外とできないということでした。

 日本へやってくる外国人の方々の中にも、このときの私のような残念な体験をしている人がたくさんいると思いました。人々が情報探索のよりどころとするチャネルは国によって意外と異なります。外国人に向けて届けるべき情報は、それぞれの国で親しまれたソーシャルメディアや検索エンジンを通じて届けなくてはいけません。

 逆に、いくらGoogleマップの情報を充実させても、Googleを使う習慣のない国から来る人向けには、その情報はほとんど届きません。「おもてなし」は日本人の得意とするところといわれますが、最も外国人の目に付く場所に情報がなければ、もてなされている気分にはならないものです。このことはまず、きちんと認識する必要があります。

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