アメリカンフットボールは米国の国民的スポーツだが、NFLでファン中心のマーケティングを実践する上で大きな課題となっていたのがデータのサイロ化だ。この課題をどう克服したのか。
北米4大プロスポーツリーグのうち圧倒的人気を誇るものとして知られるのがアメリカンフットボールのNFL(National Football League)である。現在の所属チームは全部で32。2020年はリーグ創設100周年の節目を迎える。
2019年11月22日に東京で行われた「Adobe Experience Forum 2019」では、NFLでファン中心のマーケティングを実践する部門においてリーダーを務めるアロン・ジョーン氏がゲストスピーカーとして登壇し、2013年からNFLが実践してきた取り組みについて語った。
NFLはリーグに所属する32チームの主要な業務を一元的に管理している組織であり、ファン向けのイベントをはじめ、さまざまなサービスの提供を通じて国内外のファン拡大に向けた活動をリードしている。リーグの主な収益源は、スタジアムでの試合のチケット販売と放送局への放映権の販売だ。日本のファン向けにはNHK BS1と日テレG+が一部の試合の放送を行う他、2016〜2017年シーズンからは「DAZN」での視聴も可能になっている。
公式サイト「NFL.com」では、ニュースや試合結果の提供に加え、個人向けのストリーミング視聴サービス「NFL Game Pass」や、実在の選手で仮想チームを作ってその選手の実際の活躍に連動したスコアを競うオンラインゲーム「Fantasy Football」などのコンテンツを提供している。観戦チケットやグッズの販売といったEC機能もある。
ジョーン氏の部門にとってのゴールとは、デジタルおよびリアルでの試合観戦体験を通して新しいファンを呼び込み、NFLのファンであり続けてもらう「ファン中心のマーケティングの実現」だ。そのためにはファンのカスタマ―ジャーニーを理解し、正しいセグメンテーションを行って施策を最適化することが重要になる。
そこでNFLは、ファンのデータを集約したデータマネジメント基盤を構築し、これを活用してデータドリブンで適切な意思決定とアクションを行っている。しかし、実際に運用を軌道に載せるまでには数年の年月を費やしたという。
ジョーン氏のチームが取り組みを始めた2013年当時の最大の課題が、データのサイロ化だった。データ収集を優先し過ぎたために、視聴サービス、ゲーム、ECと、サービスごとにデータベースを管理しなければならず、一人のファンを統合的に見ることができていなかったのだ。
この課題解決のためにまず、100以上のデータソースからデータを集約するDWH(データウェアハウス)を構築した。続いてデータ監査とクリーンアップ(クレンジングおよび名寄せ)を行い、ファンとのコミュニケーションに使えるDMP(データマネジメントプラットフォーム)を整備した。具体的には「Adobe Audience Manager」を導入してオンラインでの行動データとオフラインのCRM(顧客関係管理)システム内のデータ、個人の収入データなどのサードパーティーデータを統合し、「フットボールファンで高収入の男性」などのオーディエンスセグメントを作成できるようにした。
ジョーン氏はこれでファンとのパーソナライズしたコミュニケーションを実現できると考えた。だが、新しい課題に直面する。新しいプラットフォームは整ったものの、各チームがそこにアクセスできる仕組みにはなかったのだ。
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