築地ROY良氏(BIRDMAN)×北村俊二氏(アウル)――クリエイティブとPRが連携しなければならない理由デジタル時代のPRとクリエイティブ【前編】(1/2 ページ)

デジタルプロモーション領域で先端事例を多数生み出しているBIRDMANとデジタルPRエージェンシーのアウルが提携。その狙いを両社のトップが語った。

» 2017年09月28日 06時00分 公開
[志田実恵ITmedia マーケティング]

 カンヌライオンズをはじめ国内外のデジタル広告賞において300を超える受賞歴を誇る異能のクリエイター集団、BIRDMAN。Webを中心にデジタルサイネージ、IoT(モノのインターネット)など、さまざまなテクノロジーを駆使し、リアルイベントも組み込んだ斬新な手法でインタラクティブ広告の概念を拡張し続けている。広告に携わる人はもちろん、そうでない人でも、日産自動車「Intelligent Parking Chair」(注1)やネスレ日本「Valentine Post」(注2)、NIKE「NIKE UNLIMITED STADIUM」(注3)などの話題作でその名を目にしたことはあるのではないだろうか。

 一方、アウルは独自のトレンド解析ツールとPR効果測定ツールを武器に「エディトリアルマネジメント」を提唱する、デジタルに強いPR会社だ。

 そんな両社が2017年7月に業務提携を発表した。PRとクリエイティブをワンストップで提供することで伝達力を高め、トレンドを創出していくことを目指すという。

 共にデジタルプロモーションの領域に関係しつつも専門を異にする両社がタッグを組む理由とは何か。BIRDMAN代表の築地ROY良氏とアウルCEOの北村俊二氏に聞いた。

(注1)日産自動車「Intelligent Parking Chair」(2016.2):日産の自動パーキング技術を搭載し、手をたたくと自動で所定位置に戻るオフィスチェアの開発という動画(視聴はこちら)の総再生回数は短期間で計2600万回超えを記録し、世界的な話題に。アジア最大級の広告祭「スパイクスアジア2016」デジタル部門でグランプリほか「Code Award 2016」「One Show Awards2017」などで多数受賞。

(注2)ネスレ日本「Valentine Post」(2017.4):相手に会わずに、SNSでバーチャルチョコを贈れる新サービス「バレンタインポスト」限定キャンペーンを展開。サービス利用者62万ユーザー、贈られたバーチャルチョコは500万個以上。ECサイトへも80万回以上、SNS150万シェア以上で高評価。「Code Award 2017」でベストイフェクティブ賞を受賞、他多数。

(注3)NIKE「NIKE UNLIMITED STADIUM」(2016.8):NIKEの最新シューズ「LUNAREPIC」の履き心地と軽さを体感できるプロモーションイベントを開催。フィリピン・マニラの特設会場で走ると、1周目のタイムを持つ自分のアバターと併走、ベストタイムを競える仕組み。「The Webby Awards」Winner、「One Show Awards2017」「カンヌライオンズ2017」多数受賞、「Code Award 2017」ベストクラフト賞、「AD Stars 2017」でも最多賞獲得など、2017年の国内外の広告アワードを総なめ。


クリエイティブとPRはなぜ連携する必要があるのか

築地Roy良氏。BIRDMAN代表、クリエイティブディレクター。1973年生まれ。インタラクティブを中心に、ソフトウェア/ハードウェアを問わず、あらゆる手法で人を動かす提案をすることができる。国内外にて300以上のアワードを受賞。審査員やセミナーの講師などを務める。

――両社が提携に至った背景をあらためて教えてください。

築地氏 今までは、代理店経由でもクライアント直の案件でも、PR会社の選定は最後でした。この常識を変えたいと思いました。アイデアが動き出してからPRを考えるのでは遅いのです。特に最近では、メディアプランニングはSNSを中心に考えられます。SNSでどれだけ拡散されるか、「いいね!」がどれだけ付くかといった「共感される」ことを重視するのです。従来のPR会社は「どれだけメディアに取り上げられたか」を成果としてきましたが、実際にはただメディアに載っても、いいね!がゼロでは意味がありません。載った記事に対する反応をいかに増やすかが大事で、そこはクリエイティブとPRが一緒に動かないと実現できないと感じたのです。

北村氏 クリエイターはもちろん、自分が面白いと思うものを作るわけですが、実際に話題になるかどうかは、やってみないと分からないところがあります。一方でわれわれPR会社には、何がトレンドかを常に見ているし、話題化するための動線設計のノウハウもあります。とりわけメディアとのリレーション作りにおいては、さまざまな蓄積があります。端的に言うと、メディアが取り上げやすいものが分かる。もちろん、断られる理由も(笑)。しかし、現実的にはキャンペーンの形が出来上がっていて、あとはプレスリリースを打つだけという段階で話を頂くことが多いのです。後工程から入ってもできることは限られます。企画の段階からしっかり関わることで「こういう機能を付けてください」とか「タレントならこういう方が注目されていますよ」などのアドバイスをPR目線で伝えることができます。

交わることのなかったクリエイティブとPRをワンストップで

北村俊二氏。アウル代表取締役CEO。ビルコムの創業に役員として携わった後、2006年に戦略PR会社アウル創業。話題の記事を1秒で見つける検索エンジン「RUNDA」の開発など、デジタル領域に強みを持つ。

――一緒にやろうと決まったきっかけは何ですか。

北村氏 ROYさんから「夢の中で思い付いたことがある」と、突然Facebook Messengerにメッセージがきて(笑)、その日の夜に会って即決しました。BIRDMANとアウルはそれまで何度も一緒に仕事をしてきて、お互いの強みをより生かす上で、一から一緒にやるのは理にかなっていると思いました。

築地氏 僕がPRを強く意識するようになったのは、2015年3月にCrocs Japanの「空中ストア」(注4)の企画を実施したときからなのですが、このときのPR会社がアウルで、BIRDMANとの初仕事でした。普通、こういう企画はイベント開催時にプレスリリースを出して、当日取材されればメディアに露出はするけど、基本的にはそれだけです。でも、このときは実施前から実施後まで取材が絶えなかった。各テレビ局のニュース番組だけでも合計1時間ぐらい放映されましたし、海外メディアにも注目されました。僕らだけでは、ここまではできない。

Crocs Japanの「空中ストア」《クリックで拡大》

――メディアの興味を喚起するため、例えばどんなことをやったのでしょう。

北村氏 メディアで取り上げてもらう可能性を広げるためには、企画の背景にある市場動向などのデータを用意して、番組や媒体に合わせた個別の切り口を用意するといった下準備が大事になってきています。空中ストアはドローンを使った企画だったので、まずメディアの方々にドローン自体のトレンドを理解してもらうことから始めました。Amazonがドローンによる配送を計画しているとか、セコムが警備用ドローンを開発しているとか、ドローンがいかに話題になっているか、数字を挙げて定量的に説明しました。

築地氏 いくら良いものを作っても、見られない拡散されないでは、業界ウケだけで終わってしまいます。それでは意味がありません。その後、オカモト「LOVERS研究所」の「ゼロワンベルト」(注5)でもアウルのおかげで、さまざまな雑誌やテレビから取材を受けました。コンドームという、本来メディアで取り上げにくい商材をいかに話題化するかがこのときの課題だったのですが、結果的には取材の申し込みが多過ぎて断らざるを得なかったほどです。SNSでの共感の声も本当に多く、情報を届けるべき人にきちんとリーチできていることを確認しました。アウルは独自の解析ツールを持っていて、SNSで話題になっていることが分かるのです。これは大きな強みです。

オカモト「LOVERS研究所」《クリックで拡大》

(注4)Crocs Japan「空中ストア」『Flying norlin project』(2015.3):超軽量のNorlinをドローンが手元まで運んでくれる世界初の空中ストアを東京ミッドタウンでオープン。iPadから商品を選ぶと、ドローンが空飛ぶ靴屋として空中ディスプレイから指定商品を手元まで届ける。開催前から、実証実験の様子も話題に。当日は国内外45社のメディアが集まり、全民放でO.A.、新聞、雑誌、Webで計500以上の記事掲載。1億2000万PRインプレッションを獲得して話題に。

(注5)オカモト「LOVERS研究所」『ゼロワンベルト』(2016.4):オカモトのコンドーム「オカモトゼロワン」プロモーション。日本のコンドーム着用率が先進国の中で低い理由をさまざまな仮説を元に検証。「持ち歩くのを忘れる」「出すタイミングが分からない」悩み解消としてウェアラブルコンドームデバイスを提案。その後もVRなどを駆使したさまざまなシリーズを展開して人気を集める。「Spikes Asia 2016」ヘルスケア部門でシルバー受賞など。

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