本田哲也×田端 信太郎:人の行動を変える情報戦略【連載】戦略PRが世界を動かす 第1回(1/3 ページ)

SNSで誰もが意見を発信できる時代。可視化した個人の声は、時に企業の炎上騒動にも発展する。この時代の情報戦略とは。戦略PRのプロとメディアのプロが語る。

» 2017年06月09日 07時00分 公開
[本田哲也ブルーカレント・ジャパン]

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 情報が飽和する現代において、単に商品のスペック推しや価格訴求だけでは、消費者に購買活動を促すことができません。消費者に「買う理由」を訴求し、行動を変容させるにはどうすればいいのか――。

 この連載では、『戦略PR 世の中を動かす新しい6つの法則』(ディスカヴァー・トゥエンティワン)を上梓したブルーカレント・ジャパンの本田哲也が、各界のプロフェッショナルと共に「戦略PRとは何か」を語り合います。

 第1回は、LINE上級執行役員 コーポレートビジネス担当の田端 信太郎氏と「人の行動を変える情報戦略」について対談します。リクルートで『R25』を創刊し、旧ライブドアではメディア事業責任者を担当するなど、メディアのプロとして歩んできた田端氏の目に、戦略PRはどのように映っているのでしょうか。

田端氏と本田氏 LINEの田端 信太郎氏(左)と著者(右)

本対談は、2017年5月9日に代官山蔦屋書店で開催されたトークイベント「本田哲也×田端 信太郎〜人の行動を変える情報戦略〜」の内容を再構成したものです。


戦略PRは万能? いや、できないことだってある

書影 広告宣伝が効かない時代の情報戦略について書かれた『戦略PR 世の中を動かす新しい6つの法則』(ディスカヴァー・トゥエンティワン)

本田 まず、田端さんが考える「戦略PR」についてお聞かせいただきたいのですが。

田端 まず、「戦略PR」って広報部やPR会社だけのものではないなと思うんです。身に付けておくと、多くの人が自分のビジネスに役立てることができる。あとは、「PR」と「マーケティング」と「ブランディング」って非常に近いところにあります。特に「PR」と「ブランディング」は距離が近く、「PR」と言っている場合も、ときに「ブランディング」を指しているのではないかと思うこともあります。

本田 その意味するところは何でしょう。

田端 分かりやすい事例を挙げると、例えばスターバックスコーヒー。初めてスターバックスが日本に上陸したときに驚きました。コーヒーの香りを楽しむために全席禁煙を宣言しているのですから。常連客になるかもしれない愛煙家の客層を排除しているのです。これ自体はニュースバリューもありますし、もしかしたら話題作りのためにPR戦略としてやるという選択肢もあるでしょう。しかし、スターバックスは別に話題作りのために全席禁煙にしたわけではないと思います。彼らにはもともと「コーヒーの香りを楽しんでほしい」という哲学があった。その本質と取った行動が一致していたから、スターバックスは一流のブランドになれたのではないかと思います。

本田 確かにそうですね。単なる話題作りのために「全店全席禁煙」の措置を取っても、今の世の中はすぐに企業の本音が透けて見えてしまう。

田端 PRに関わる人は、ニュースを作る前に事実を作らないといけないですよね。「話題になりたい!」と思ったところで急にファクトを作れるレベルの事実なら、大したことはない。

本田 逆もありますよ。ずっとこの仕事をしてきて思うのは、せっかく素晴らしい理念があって、それに即した素晴らしい製品やサービス、または取り組みがあるのに、ちゃんと発信できていない企業がいかに多いか。こういう企業は戦略的にPR活動を行えばいいと思います。

田端 自分たちではなかなか「強み」が分からないものなんですよね。観光地のPRなどでも、現地の人が薦めてくるものは案外ちゃちで、本人たちは「ふつう」と思っているものが何げにすごかったり。企業も一緒です。異邦人の目で、いかに自分を客観的に見られるかがキモですね。

本田 恋愛と似ていますよね。好きな異性にアピールしようとおしゃれをするんだけど、見当違いな方向に行ってしまって、本来の魅力を失ってしまったり。恋愛もビジネスも、主体である自分には見えにくいことが多い。PRでいうなら、いかに自社の優れたポイントを客観的に把握して、しかも独り善がりな発信ではなく世の中の関心に合わせて情報発信するかが大事です。しかし、実際には多くの企業が自社のことを客観視できずに、「当社比●%UP!」とか「これまでより▲ミリ軽くなりました!」とか、消費者には刺さらないメッセージを発信してしまっています。

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