駅の女子トイレに掲示されたあるまんががじわじわと話題になっている。制約の多い施策がリアルとネットで結び付き、課題解決の一助となるには何が必要なのか。制作チームに話を聞いた。
駅のトイレと聞いて、何を連想するだろうか。「混んでいる」「汚れている」など、マイナスのイメージを持つ人も少なくないのではないか。特に乗降客数の多い駅では、当然トイレの利用者も増えることから、長蛇の列ができたり清掃が追い付かなかったりと、利用者は不快な思いをしがちだ。
女性トイレの場合、とりわけ顕著な問題になっているのは「待機列」だ。一般的に男性よりも女性の方がトイレで過ごす時間が長く、結果として「回転率」が悪くなり、トイレを待つ人が行列をなすことになる。そして、ストレスが募る――この課題に取り組むべく、あるクリエーターチームが立ち上がった。その1つの成果が、2017年1月31日までJR東日本 東京駅の女性トイレで掲出されていたまんが「おべんじょ物語」(編注:外部リンク)である。
「おべんじょ物語」のストーリーは、主人公の新米トイレ清掃員、戸井レンコ(22歳)が先輩清掃員の白美垣貴子と出会うところから始まる。貴子との出会いをきっかけに、レンコはトイレ清掃の奥深さを知り、同僚や後輩たちから「便器の錬金術師」とあがめられていた元トイレ清掃員の母、戸井礼華譲りの才能を覚醒させていくというものだ。
同コンテンツを制作するのは、チーム「トイレット・エンターテインメント」。生活課題に対して多様なアプローチでビジネスコンテンツを生み出すプラットフォーム「amidus」のメンバーと、それに共感したクリエーターたちで構成されたプロジェクトチームだ。同チームは「トイレをもっと、安らぐ場所へ。トイレをもっと、楽しい空間へ」「日本が誇るトイレの魅力を、もっと世界に発信するために」といった目標を掲げ、これまで見過ごされてきたトイレに関する課題を、エンターテインメントという切り口で解決に導くことを目指している。
きっかけとなったのは、メンバーの井上秀法氏(amidus)と井本善之氏(電通)の会話だった。2人は、いじめやLGBT、障がい者対応といった、社会の課題を解決するためのアイデアについて話していた。その中の1つが、都会の駅のトイレに関する課題だ。混雑をなくすにはトイレの個室を増やせばいいのだろうが、実際にはそう簡単にはいかない。大掛かりな改修工事が必要となり、膨大なコストが掛かるのは明らかだ。工事には時間も擁する。少なくとも短期的に問題が解決することは不可能だといえる。
しかし、待機列の人数は減らせなくても、「待機列のストレス」を減らすことならできるのではないか――そんな思いで一致し、2015年が終わりに差しかかるころ、井上氏がJR東日本に出向き、そのような課題に対してまんがというエンターテインメントコンテンツでアプローチをしていかないかと提案した。
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