黎明期を抜け出した新たなソーシャルメディアの活用形態は、米自動車メーカーFordの有名な事例で見ることができる。Fordは、Fiestaの新モデルを投入するに当たり、ソーシャルネットワークを利用してその名を広めた。具体的には、「ソーシャルメディアエージェント」と呼ばれるオンライン上で影響力のある人々に、ソーシャルメディア上でFiestaの草の根的なプロモーションを実施してもらうというものだ。Twitter、ブログ、ビデオ、オンラインイベントといったメディア上での呼び掛けや企画による販促の形を取り、既存のマスメディアには1ドルもコストを使わなかった。
エージェント達は、発売予定のFiestaに6カ月間乗り、600のミッションを実行し、動画やブログとしてFordのWebサイトにアップロードする(具体的なミッションは「有名な映画を自分風に作り替える」「犬とサッカーゲームをする」などであるが、そこで選ばれているミッションもFiestaの購買層を意識して“ジェネレーションY世代”[編注:米国で1975〜1989年に生まれた世代]の文化に合わせているように見受けられる)。
エージェントには何ら金銭的インセンティブは無いが、この取り組みは非常に大きな話題となり、相当数の認知度向上と実際の購買につながったと言われている(図1を参照)。
結果的に430万のYouTube視聴数と、50万のFlicker(写真共有サイト)のアクセス、300万のTwitterインプレッション、Ford車を所有していない購買層5万人の獲得といった圧倒的な効果につながった。
この取り組みで興味深いのは、先述のような「マスメディア補完型のソーシャルメディア活用」ではなく、ソーシャルメディアの中で成立していることである。マスメディアを補完する形でソーシャルメディアを活用しているわけではない。一連のマーケティング活動の1つとして、マスメディアとは別軸でソーシャルメディアを活用しているのである。「単独プロモーション型のソーシャルメディア活用」と呼べるのではないか。これは、黎明期の活用形態から一歩進んだ活用形態であると言えよう。この一連のプロモーションは現在も継続され、効果を上げていると思われるが、われわれが経営コンサルティングの観点で注目しているのは、プロモーションが単体で成功したかどうかではない。これら一連のソーシャルメディアを活用したブランディング戦略、企画、コミュニケーションプランが企業として一体的に統括されているという点である。
これらの一連の取り組みは、スコット・モンティーというソーシャルメディア担当のマネジャーによって統括されている。同氏自身がオンライン上のライターやマーケティングエージェンシーとして活躍した経験を持ち、メディアの活用方法を知り尽くした上で組織としてソーシャルメディアの活用戦略や企画全体を統括しているのである。
また、Fiestaの販促だけではなくExplorerなど他車種でも同様の手法を展開し、安全性の理解を促進するための三次元による運転教育といったさまざまな施策を実施するとともに、明確なKPIの設定とブランド効果の測定などを含めて業務全体のプロセスとしてのPDCAを確立しているところに強みがある。実際にオンライン上での認知度について、FordはGeneral Motors(GM)やChryslerを引き離しているというデータも出ている。先進的なのは単体でのプロモーション「方法」ではなく、自社のメディア戦略を作り出す力、それを支える組織的な強さ、業務プロセスとしての成熟度、最新のテクノロジーや市場動向に合わせてメディアミックスに改善し続けるモデルそのものである。
このように欧米市場では、ソーシャルメディア活用のさまざまな形態が模索され、改善と進化が絶え間なく進められている。幾つかの成功事例を見ると、ソーシャルメディアの特性を考慮した施策、その裏側で発生し得る危険性に対する対応が――アプローチの違いはあれども――着実にマネジメントのシステムとして確立され、実践されていることが分かる。ここで、改めて成功事例から見えてくるソーシャルメディアの特性と、その一方で注意しなければならない危険性についてマネジメントの視点で整理したい。
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