法人営業でメールマガジンを採用している企業は多いが、同じような失敗に陥るケースが後を絶たない。よくある失敗例から営業力を高めるためのヒントをつかみ取ろう。
「メールマーケティングとはメールマガジン(以下、メルマガ)の配信だ」と考えている人もいまだ多い。メルマガ配信だけに目を向けると、どうしても華やかなコンテンツを頻繁(ひんぱん)に配信しているECサイトのメルマガなどを参考にしてしまいがちだ。
すると、私信を装った「メルマガ神話」(前回の記事を参考)のようなノウハウを「良い方法」と考えてしまう。しかし、メルマガ神話は疑わなくてはいけない。前回紹介したように、私信メールの方がメルマガよりも効果がでるケースもある。営業力を上げるという視点において「メールマーケティング=メールマガジンの配信」という方程式は通用しないのだ。
元来、メールは送信者と受信者の間でやり取りをする情報である。送り手がメールを書き、受け手はそれに返事をする。だがメルマガになった瞬間に、送受信者の間にはこのような関係性がなくなることが多い。知らない担当者から届いたメルマガに返信もできず、問い合わせをしても送り手とは異なる担当者から返事がくる――。一般的なメルマガの発信者と受信者の関係とはこのようなものである。
さらには「このメールはシステムから送信しているので、返信しないでください」という断り書きが入っているケースもある。送信用と受信用のメールアドレスを分けたほうがメール配信システムにとって好都合だからだ。しかし、1人の読者としてその断り書きを読むと、企業自らが顧客とのコミュニケーションを絶っているとしか思えない。
こんな現状を見ていると、本当にメルマガは顧客の心に響いているのかと不安になってしまう。もしあなたが配信を担当していて、同じようなケースが思い当たるのならば、メルマガの存在意義から問い直すべきだ。そこでWebマーケティングで営業力を高めるための3つのヒントを紹介したい。
1つめのヒントは「私信メールこそ原点」だということだ。知っている人から本人あてに来るメールに勝る配信方法はない。メルマガの大量配信を重視するあまり、1人1人の読者を大切にするという本分を忘れてはいないだろうか?
メールマーケティングでは、「効果重視」と「効率重視」のラインを明確に切り分けておく必要がある。個人から個人に送る私信メールは「効果重視」の方法だ。メールが開封される確率は高いが、1通1通の配信には時間がかかるのが難点となる。
一方、一括配信を行うメールマガジンは「効率重視」の方法だ。大量に配信できるが、顧客1人1人の心に強く響く方法ではない。少々、内容を私信「風」に体裁を変えたところで、私信メールに比べて効果は劣るだろう。
「メールマーケティング=メールマガジンの配信」と考えてしまう人は、メルマガに過度に頼っているのかもしれない。メールマーケティングの本質は「効果」と「効率」を両立すべく、あらゆるメール配信方法の組み合わせを設計することにある。
例えば、メルマガを配信した後に私信メールを送るという組み合わせだ。メルマガでは有料セミナー案内を送り、私信メールで割引価格で提示する。そして私信メールでは「以前の商談で伺った課題のヒントになる内容があるのでぜひお越しください」など、なぜその顧客に来てほしいかをピンポイントで説明する。
メールを受け取った側は、知っている担当からの私信メールを読み、セミナーに参加できなくとも返信を送る可能性が高い。若干の手間は掛かるが、成功率を上げるメール配信の組み合わせの1つだ。
2つ目のヒントは、「メールマガジンを送るためにメールマガジンを作っていないか」という点を考えてみてほしい。メルマガの本来の目的は、メッセージや新サービス、キャンペーン情報を相手に届けることである。
だが、コンテンツ作りには当然手間が掛かる。これに疲弊した担当者は、メルマガ配信そのものを目的化してしまうことが多い。定期配信に追われ、コンテンツ集めが重荷になり、内容や質へのこだわりが薄れてくるのだ。
相手にとって価値の低いコンテンツのメルマガを送っても、読んでもらえる確率は低い。そのまま配信を続けると、読者には「読まないクセ」がついてしまい、配信リスト全体が「眠った存在」になる。深い眠りに入った顧客は、一筋縄では目覚めない。
立ち返らなければならないのは、メルマガでどんな有益な情報をどのくらいの頻度で提供できるかということだ。有益な情報を出せないままメルマガを発行しようとすると、いずれ無理が出る。コンテンツが生み出せるペースをつかみながら、配信頻度を検討しなければならない。
「メルマガは定期的に送るものだ」という神話に惑わされる必要はないのである。
月1回のメルマガ配信を思い切ってやめた企業がある。定期配信にこだわらず、配信頻度を半分にして、コンテンツの作り込みに時間やコストを掛けることにしたのだ。「事例紹介」や「市場調査」といったコンテンツを充実し、「サービス試用期間」や「初期無料」などのキャンペーンも実施した。
有益なコンテンツができたタイミングでメルマガを配信するため、担当者にも無理がなく、高い質の内容を維持できるようになった。この企業では、頻繁にメルマガを配信していた時より、コンバージョン率などの成果が上がっている。
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