クエやサンマの梅酒も試す!? 発想を広げたことが成長のカギ――中野BC・中野幸治さん(後編)嶋田淑之の「この人に逢いたい!」(1/6 ページ)

梅酒ビジネスにおいて、この5年間で売り上げを25倍にした中野BC。躍進の立役者である同社3代目の中野幸治専務にその経緯を尋ねると、マーケティング部門の改革や先入観を排除した商品開発をしたことがカギとなったのだという。

» 2010年11月12日 08時00分 公開
[嶋田淑之,Business Media 誠]

嶋田淑之の「この人に逢いたい!」とは?:

 「こんなことをやりたい!」――夢を実現するために、会社という組織の中で、あるいは個人で奮闘して目標に向かって邁進する人がいる。

 本連載では、戦略経営に詳しい嶋田淑之氏が、仕事を通して夢を実現する人物をクローズアップしてインタビュー。どのようなコンセプトで、どうやって夢を形にしたのか。日々、現場でどのように発想し、どう仕事に取り組んでいるのか――徹底的なインタビューを通して浮き彫りにしていく。


 長い不況に加え、そもそもお酒を飲まない若者が増えている影響で、日本のお酒業界はここのところ低迷を余儀なくされている。しかし、そういう中にあって、この5年間で市場規模が2倍になった成長分野がある。それは梅酒だ。

 そんな状況下、梅酒を販売し、5年間で売り上げを25倍にした企業、それが中野BCだ。先週掲載した前編では、中野BCの三代目、中野幸治専務が同社に入社するまでの道のりを振り返るとともに、中野BC創業から彼の入社直後までの同社の状況をご紹介した。そこで見えてきたものは、“梅酒ビジネス25倍”の前提として、そもそも社内に革新を恐れない企業風土があったということであった。

 そこで後編では、そうした背景を踏まえた上で、「5年間で売り上げ25倍」という急激な成長を、どのようにして実現していったのかを明らかにしたいと思う。

 →なぜ梅酒ビジネスで売り上げを25倍にできたのか――中野BC・中野幸治さん(前編)

中野BCの中野幸治専務

マーケティング部門には20代女性社員を

 前編の最後で、中野BCに入社した中野さんがマーケティング部門を見て、思わず激怒したという話をご紹介した。なぜ激怒したのか、その理由を聞いてみた。

 「梅酒の顧客ターゲットの主力は、明らかに若い女性でした。ところが弊社では、パッケージも含めて、50代以上の男性社員ばかりで商品開発をしていたのです。『いくら何でも、これはおかしいだろう!』と、私は怒ったんですよ。早速、若い女性を加え、そして、徐々にその数を増やしていくことにしたんです」

マーケティングスタッフ第1号の安達愛さん

 具体的にどういう女性をマーケティング部門に配属し、どのような教育指導を行ったのだろうか?

 「女性のマーケティングスタッフ第1号は、それまで電話応対などを担当していた当時20代後半の社員です。ネイルアートに凝っている子で、『流行への感度が高い』と判断して配属しました。続いては高卒新人、そして大卒新人を相次いで配属しました。

 彼女たちに対して、私は『自分がお金を出して買いたいと思える梅酒を作りなさい』と常々言ってきました。ただ、そうは言っても、何の情報もなく『ただアイデアを出せ』と言うのは無理な注文です。そこで、東京のレゲエクラブで開かれるお酒のイベントに連れて行ったり、都内で流行の先端を行っているようなお店に連れていくなど、ことあるごとに情報感度を高められるよう努めてきました」

 こうしたマーケティングセクションの再編成とともに、中野さんは中野BCのその後の命運を左右する重大な決意を固める。それは、日本酒を主力とする企業から、梅酒を主力とする企業へ軸足を移行する、というものである。

 「当時、和歌山県内でも、日本酒の蔵元の数は急速に減りつつありました。それで、純米酒などを手作りへと転換するなど、日本酒部門の革新を進めたわけですが、その一方、『日本酒の事業だけに依存していては危ない』という思いがありました。早急に事業構造の転換を図らないといけなかった。

 ちょうどそのころ、長年の努力が実を結んで緑茶梅酒が人気を集めるようになっていましたし、世の中の健康志向もあって、『この先、梅酒の時代が来るのではないか』との読みもあった。そういう中で、今後は梅酒(カクテル梅酒)事業に軸足を移していこうということになったんです」

マーケティング部の女性社員たち
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