前編でも指摘したように、中野BCは非連続・現状否定型の経営革新を相次いで構想し、そして実現してきた企業である。中野さんによる「梅酒事業への軸足シフト」もその革新の1つだが、それを可能にした社内要因のうち最も重要なものは、同社における理念群の浸透とキーワードネットワーキングの力だ。
社是「衆知をもって常に創造せよ」
経営信条「誠意 熱意 創意」
経営理念「手の届きそうな夢を持ち 技術・研究・開発で世界に通じるニッチトップのモノづくりを目指す」
綱領「産業人たるの本分に徹し、社会生活の改善と向上を図り日本文化の進展に寄与せんことを期す」
中野BC2代目の中野幸生社長が構築したこの理念群を長年、朝会で社員全員が唱和し、誰もがそらんじているという。毎朝の唱和自体は、少なからずの日本企業で実践されていることだが、同社の注目すべき点はその次である。
それは、理念群で述べられている抽象度の高い内容を、各自の日々の業務に落としこめるよう、部門ごとに、理念群をブレイクダウンしたキーワード群を構築し、それを壁に張ってあるというものだ。そして、ここでのポイントは、そうしたブレイクダウンしたキーワード群を構築したのもまた2代目社長だったという点である。
「『社員みんなで責任を分担しつつ、全員で経営するのだ』という思いが社長にはあるんです」
理念群を構築した本人が、こうした思いを込めて部門ごとにブレイクダウンしていったのだから、理念と部門キーワードとの整合性に矛盾はない。それによって、上位概念の理念と下位概念の部門キーワードが有機的に結びつく一方、部門ごとの横のキーワード同士も有機的に連関する、という縦横の「キーワードネットワーキング」が実現しているのである。
これを踏まえて、同社では会議を行う際にも、それがどんなテーマであれ、「理念群の精神に照らして適正か否か」「キーワード群の実現に寄与し得るか否か」という点から議論されるようだ。それもごく自然に、当然のごとくに、である。
多くの日本企業ではどんなにすばらしい理念を掲げていても、日々の業務から浮いた存在となってしまい、結局、機能しないのが悩ましい点である。しかし中野BCでは、理念に基づいた業務の推進、そして不断の自社革新という好結果をもたらしている。女性社員を中心とする梅酒の企画開発が成功裏に進んでいるのはある意味、必然なのである。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.