世界同時不況という逆風をはねのけて増収増益を続けるIBM。そのビジネス成長を支える柱となるのがビジネス・インテリジェンスの進化系ともいえる新機軸である。
2008年のリーマン・ショック以降に広がった世界的な金融危機の煽りを受けて、苦境から抜け出せずにいる米テクノロジー企業がある中、米IBMは堅調に利潤拡大を続けている。同社の第3四半期(7〜9月期)決算は、売上高が前年同期比3%増の242億7100万ドル、純利益は同12%増の36億ドルと増収増益で、特にBRICs(ブラジル、ロシア、インド、中国)を中心とした新興国市場の成長が著しい。
今後のさらなるビジネス拡大に向けて、IBMは「Smarter Planet」「成長市場」「クラウド」「アナリティクス」という4つの領域で成長戦略を打ち出している。特に力点を置くのがアナリティクス分野である。2006年以降、総額120億ドルを投じてカナダのCognosや米SPSSなどの企業を買収したほか、約7000人の専任コンサルタントや約300人のリサーチャーを配置するなど、大規模な先行投資を行っている。
そうした中、同社が10月末に発表したビジネス分析ソフトウェアの最新版が「IBM Cognos Business Intelligence V10.1(Cognos 10)」だ。5年ぶりのメジャーバージョンアップとなる新製品の特徴について、IBMでCognosブランドを統括する、ビジネスアナリティクス部門 ゼネラルマネジャーのロブ・アッシュ氏は、「ユーザーエクスペリエンス(ユーザー体験)」「コネクト(接続性)」「モバイルおよびオフライン利用」「プラットフォームのケイパビリティ(能力)」を挙げた。
アッシュ氏が特に強調したのはユーザーエクスペリエンスである。「新製品の開発コードを書く何年も前にユーザーインタフェース(UI)専門の研究センターを立ち上げて、画面デザインの設計や操作性の改良に取り組むなど、UIにかなりの時間と資金を投資した」とアッシュ氏は振り返る。例えば、ダッシュボードに新規データを追加したり、既存データを移動させたりする際にはドラッグ&ドロップで容易に操作できるほか、ソフトの利用方法を示したチュートリアルをビデオ映像で用意するなど、ユーザーの使い勝手を重視した。(関連記事:ボーイングなどで導入、IBMがビジネス分析ツールの最新版を発表)
米国での発表を受けて、日本IBMは11月10日に記者やアナリストに向けた具体的な新製品説明会を開催した。
Cognos 10で追加された主たる機能が、1つの画面でさまざまな分析ツールを利用できるWebベースの統合ワークスペース環境「Cognos Business Insight」だ。従来のソフトではビジネス分析を行うに当たり、レポーティングやトレンド分析、What-if分析、予測分析などそれぞれに対して個別ツールを使う必要があったが、新製品では複数の分析ツールを横断して利用できるようになった。
同社ソフトウェア事業 ビジネス・アナリティクス事業部長の国本明善氏は「これまでのビジネスインテリジェンス(BI)ツールは基盤が統一されておらず、作業に応じて別々の分析アプリケーションを立ち上げる必要があったため、ワークフローが分断されていた。Cognos 10ではそうしたシステム上の制約から開放され、より効率的なビジネス分析が可能となった」と力を込める。
新製品はモバイルデバイスやオフライン環境での利用も強化した。モバイルについては、既に対応しているResearch In Motion(RIM)製の「BlackBerry」やMicrosoftの「Windows Mobile」といったスマートフォンに加えて、Appleのスマートフォン「iPhone」やタッチパネル端末「iPad」にも対応する。オフラインでの利用については、「Cognos Active Report」と呼ばれるレポート作成機能によって、飛行機の中などインターネットに接続できない環境でもWebブラウザで経営データや分析レポートを閲覧できるようにファイルを変換する。
このように、Cognos 10では機能を拡張することで、ターゲットとなるユーザー層をより企業のビジネス部門にシフトしている。ライセンス体系についても、分析データを活用するビジネス部門のユーザーが基準となっており、価格はビジネスユーザー100人の利用で1852万5000円(税抜)。
販売目標について、国本氏は「2011年6月までに100件の受注を目指す」としており、特に製造業と金融業を重点顧客ととらえている。
Cognos製品はBIツールとして広く認知されているが、IBMでは今後、企業内に散らばる情報の抽出、集約から、モニタリング、分析、予測、意思決定までを行うビジネス・アナリティクス(BA)ツールとして世に訴求したい考えだ。
同事業部 Cognos クライアント・テクニカル・プロフェッショナルズの京田雅弘氏は、「BIに対するユーザーのニーズは変化している。これまでは情報の可視化やデータ集計の短縮などが求められていたが、現在は、経営の意思決定を行い、ビジネスを向上させるための情報活用が多くの企業で重要なテーマとなっている」と意気込んだ。
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