トリプルメディアを駆使、「情熱の系譜」舞台裏デジタルPRの仕掛け方(1/2 ページ)

2社が合併して誕生した協和発酵キリンは、企業ブランドを消費者に浸透させるために、テレビ、Twitter、iPadを中心としたプロモーション活動を展開した。同社の取り組みからトリプルメディアを駆使したプロモーション活動の勘所を探る。

» 2010年08月26日 08時00分 公開
[野崎耕司(ビルコム),ITmedia]

 インターネット環境やデジタルデバイスの進化に伴い、企業はデジタル領域に精通したプロモーション戦略「デジタルPR」の視点を持って、消費者にメッセージを届けていく必要がある。プロモーションにおいては、「マスメディア」「ソーシャルメディア」「自社メディア」というトリプルメディアの有機的な活用が効果的だ。今回は、トリプルメディアの活用で企業の認知度向上を目指した協和発酵キリンの事例を紹介する。

なぜ協和発酵キリンがトリプルメディアを選んだのか

 2008年10月、協和発酵とキリンファーマの合併により誕生したのが、協和発酵キリンだ。誕生してから日の浅い同社は、ある課題を抱えていた。それは、社名・業態の認知度が低く、「がん、腎、免疫疾患などの領域において、抗体技術を中心としたバイオテクノロジーに強みを持つ」という同社の企業ブランドを確立できていないことだった。

 そこで協和発酵キリンが着手したのが「情熱の系譜」プロジェクトだ。これは同社の企業ブランドの浸透を目的として、テレビ番組のコンテンツを中心に、マスメディア、ソーシャルメディア、自社メディアにリーチを拡大させるというデジタルPRの取り組みだ。ブランドの一般的な浸透を目的として策定した「ブランド構築3カ年計画」の初年度のプロジェクトとして走り出した。

 ここで情熱の系譜プロジェクトの概要を紹介したい。2社の合併から生まれた協和発酵キリンの企業哲学は、「(合併前の両社の情熱を受け継ぎ)新しい歴史を創る製薬会社」である。このプロジェクトでは、同社の成立過程を踏襲する形で、「先代から受け継がれる情熱を現代の偉人が受け継ぐ流れ」というコンセプトが設定された。社名やブランドを前面に出さずに、協和発酵キリンという企業の世界観に共感してもらう情熱の系譜プロジェクトの狙いは、社名および業態の認知度の間接的な向上にある。

 プロジェクトの対象は、30〜40代の男性のビジネスパーソンと設定された。事前のブランド調査で、50〜60代の層では既に企業ブランドが認知されており、これ以外の層にアプローチする必要があったからだ。子育てや親世代の罹患などを体験する30〜40代は、比較的医療に関心を持ちやすい。協和発酵キリンの「抗体医薬事業」をはじめとする専門的な内容も共感してもらえると考えられた。

情熱の系譜 情熱の系譜のWebサイト

トリプルメディアで多様な対象にリーチする

 情熱の系譜プロジェクトの核は、テレビ東京のミニ番組「情熱の系譜」である。これは男性ビジネスパーソンに人気のテレビ番組「カンブリア宮殿」と「ワールドビジネスサテライト」の間の時間(午後10時54分〜11時00分)に放映する番組だ。

 30〜40代の男性ビジネスパーソンは、各メディアへの接触頻度や時間にばらつきがあり、テレビ番組だけで情報を届けるのは難しい。それを打破するのがトリプルメディアの活用である。

 協和発酵キリンはミニ番組「情熱の系譜」を主軸に、さまざまなメディアと接触する対象にリーチするため、マスメディア、ソーシャルメディア、自社メディアの3つを活用し、戦略的に情報を伝えていった。多様なメディアに接触するターゲットにアプローチするには、単一のメディアを活用するだけでは足りない。トリプルメディアに率先して取り組むことは、「新しい歴史を創る製薬会社」というプロジェクトのコーポレートメッセージの体現にもつながる。

トリプルメディア戦略

メディア環境が大きく変化し、消費者が接触するメディアが多岐にわたるようになった中、従来の「マスメディア一極集中型」の時代は終わりを迎えつつある。企業はマスメディアで市場に広くリーチしながら、ソーシャルメディアによる話題喚起で他社との差別化を図り、自社メディアで消費者のファン化を促進していくことが求められる。この3つのメディアの特徴をつかみ、一連のシナリオに沿って消費者にアプローチを図ることを「トリプルメディア戦略」と呼ぶ。


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