オイシックスはECによって流通業務を省力化しているものの、生産者とじかに接したり、顧客を会社に呼んでモニターマーケティングをするなど、高付加価値を生み出すことに力を入れている。
前回は、オイシックス代表取締役の高島宏平氏に、創業、そして日本の食品流通のシステムに対して、同社がどのような課題と市場を見出し、ECによってどのようなビジネスモデルを構築したか伺った。同社の成長を支え、高いリピート顧客率を生み出した成功の要因はどこにあったのだろうか。
――顧客はどこでオイシックスを知ったのだと思いますか?
高島 いまだにあまり知られていないと思っています。最初はお金もなかったので、出版社とバーターのようなことをよくやりました。当時、雑誌メディアは「これからはWebにも取り組まなければ」と考えていた時期でしたから、1社1社訪問して、食に関するコンテンツをWebサイトに提供するので、バーターで記事を書いてもらえないか、とアプローチしていきました。まだアフィリエイトもなかった時代でしたから、自分たちでそのようなプログラムを作るしかありませんでした。
――オイシックスの顧客のリピート率は高いですよね。
高島 そうですね。食品の商品単価は非常に安いわけですから、1回いくらではなくて年間いくら買ってもらえないと成立しないのです。食品で利益を出すためには、食べ続けてもらうということが重要です。その時1度きりの顧客であっても発注数をこなすことでビジネスが成立するような「ピザモデル」はなかなか成立しません。むしろオイシックスは携帯電話の通話料に近いモデルだと思っています。最初から、リピート性の高い商材であるという点が生命線だという認識を持っていました。
――当初からCRM(顧客関係管理)を意識していたのでしょうか?
高島 立ち上げ当初からその意識は強くありました。CRMは、まず「聞く状態」を作るのがファーストステップだと考えました。当初はメールマーケティングしかありませんでしたが、次第にどのようなメールをどのように打てばいいのかという感覚をつかんでいきました。ネットのデータベースマーケティングというのは、コストを最小化するというよりは、いかに効果を最大にできるかという観点の方が重要なのです。
食は、感動を感じてもらいやすい商材なので、顧客との関係を作りやすいのです。食品は感想を書きやすいタイプの商品のようで、良い場合も悪い場合も反応が多く、喜怒哀楽に近いところで商売をしていたという気がします。
例えば、野菜を食べられない自分の息子が突然食べられるようになりましたという話とか、旦那さんに料理が上手になったねと褒められるようになったとか、些細なことでもメールをいただきます。
――パッケージやサイトのデザインにも、気を配っているように思います。
高島 デザインは、社内で制作しているのでカジュアルな感じですね。今まではこれで良かったのですが、今後はもう少し余計なものをそぎ落としたいというのはあります。
食べ物に関する仕事は、こうしたらどうだろうというアイデアを誰でも思い付きやすい。社員に対しては通販体験を奨励していますし、アイデアに困ることはないですね。
――社員の方に対して、ほかにも気を付けようと強調していることはありますか?
高島 体験を重視しています。「顧客のことを考えよう」と口では言うのですが、それ以上にインパクトがあるのは、じかに生産者と接したり、顧客と接することです。2ケ月に1回、購入者を社内に呼んで全社員の前でパネルディスカッションを開いています。顧客に直接オイシックスのサービスの便利なところや不便なところを言ってもらうのです。毎回テーマを決めており、1回に3、4人を招いています。購入者からの直接の声は貴重な情報になります。
全社員で産地を訪問したりもします。食品に対してどのような思いが込められているかなど、生産者から話を聞きます。ほかにも職人を呼んでパンを作るなど、やりたいことはいろいろとあります。
――創業当初と比べ変わってきたことはありますか?
高島 最初の頃は、顧客もインターネットで恐る恐る買っていたようなところがありましたが、最近は当たり前という意識になりました。それだけに最初から高いサービスレベルが求められるようになりました。
また、生産者である農家の人もインターネットがビジネスになるのだという方向に意識が変わってきています。これは大きな変化だと思います。
インターネットでは電子メールを活用してローコストで顧客との関係を築くことができる。郵送によるダイレクトメール(DM)とはコストが大きく異なり、事実上無料で送ることができる。ただ、近年ジャンクメールが増加しており、メールの効果が薄れているのではと懸念されている方も多いだろう。しかしながら、多くのEC成功企業は、メールをうまく活用し、ジャンクメールとならないような質の高いメール配信を行っている。オイシックスもそうした企業の1社だといえるだろう。同社は創業当初から、顧客に対して通り一遍ではない、決め細やかで丁寧なメールを送り続けてきたのである。
DMと異なり、電子メールではコストが低いため、好きなタイミングでいくらでも工夫を凝らしたメールを送ることができる。こういったメリットの部分を最大限に引き出すことが、顧客との関係をより良くするメールの活用法だろう。
そのためには、ターゲットを明確に絞りマーケティングコストを削減するという通常のCRM手法をとるのではなく、いかに多くメールを顧客に受け入れてもらい効果を最大にするかに知恵を絞ることが大切だ。顧客にとって無意味なメールの送信はジャンクメールとして扱われる原因になるため、1通として無意味なメールを送ることはできない。
メールがただのジャンクメールになってしまうのか、それともリピーターを生み出す武器になるのかは、メールの内容・タイミング次第であるといえるだろう。ECショップの運営者たちが日々絶え間ない文面の改良努力を行っている理由はここにある。
また、メール以外にもEC企業でありながら、ECの通常の発想を超えるきめ細やかさと、商品の質を決して落とさない努力。オイシックスの飛躍はこれらのバランスがとれた点にあるともいえそうだ。
面白いのは、ECによってさまざまな業務が省略化できるのかと思いきや、逆に手間を掛けている部分が多いことである。生産者とじかに接したり、顧客を社内に呼んでモニターマーケティングをするなど、目に見える、感じ取れるリアルな部分に手間を掛けている。これが、ユーザーが納得するような高付加価値と認識されているこつなのかもしれない。
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