SHOWROOM前田裕二社長らが語る「スマホファーストの次」スマホとエンタメの未来(1/2 ページ)

スマホファーストの考え方が定着した今、エンターテインメント領域のトップランナーたちは次の世界をどう見ているのか。【更新】

» 2018年09月03日 06時00分 公開
[やまもとはるみITmedia マーケティング]

 スマートフォンアプリ分析プラットフォーム「App Ape」を展開するフラーは2018年8月24日に「Fuller Mobile Conference 2018」を開催した。本稿では「スマホファーストの次を探そう」をテーマに掲げたこのイベントのオープニングパネルディスカッションの内容を紹介する。テーマは「スマホ×エンタメの未来」。SHOWROOM代表取締役社長 前田裕二氏、meleap CEO 福田浩士氏、セガゲームス 上席執行役員CSO 岩城 農氏の3人が登壇し、フラー CEO 渋谷修太氏がモデレーターを務めた。

トップランナーが語るエンタメの未来とは

エンタメ成功の鍵は「共感と落差」「体験」「コミュニティー」

 スマートフォンが日々の生活に欠かせない存在となり、映像や音楽コンテンツの視聴、読書にゲームといったエンタテインメントの領域においても、スマホファーストの時代となった。そして今、関係者の関心はこの先の展開へと向かいつつある。新たなテクノロジーと斬新なアイデアでエンタテインメント業界のトップを走る3人は、自社の現状をどう捉え、スマホの先に広がる未来をどう見ているのだろうか。

 ライブ配信サービスを展開するSHOWROOMは、米アプリ調査会社App Annieが2017年9月に発表した日本国内の動画配信アプリの収益性ランキングで、Netflixを抑えて1位を獲得するなど、動画ビジネス界でその存在感を高めている。

 前田氏はSHOWROOM成長の理由として、リアルタイム視聴に徹底的にこだわり抜いていることを挙げる。ポイントは3つ。発信者と視聴者が同じ時間を共有できるようにしていること、視聴者の存在を可視化していること、視聴者の発言を促進してライブを双方向のコンテンツとしていることだ。

前田裕二氏

 「ヒットするエンタメコンテンツの鍵は『共感と落差』にある」と前田氏は分析する。アイドルや声優のオーディションプラットフォームともなっているSHOWROOMでは、時にアイドルが本音や弱みを見せたり、ライブ中に予想外のハプニングが起きたりすることがある。そんなとき、視聴者はそのギャップに親近感や共感を抱き、応援したいという気持ちになるのだという。ライブ動画コンテンツには、視聴者が感情移入できるよう「余白をあえて作ることが重要になる」というのが、前田氏の見立てだ。

 meleap福田氏は、テクノスポーツという新たなスポーツの形を世界に発信している。ヘッドマウントディスプレイとアームセンサーを装着し、AR(拡張現実)技術を使い自らの体を動かしながらチームプレイで楽しむ「HADO」は、国内はもとより世界15カ国で40店舗を展開している。2016年より世界大会も開催しており、プロ化も視野に入れている。そんな福田氏が重視しているのが、HADOのプレイヤーに店舗での出会いを楽しんでもらうことだ。

福田浩士氏

 福田氏は「ゲームならばネットを介して自宅でもできるが、HADOは店舗に来て楽しんでもらうスポーツ。そこに行けば仲間がいて楽しい時間が過ごせる。『HADOの後のビールはうまい』という体験を大切にしたい」と考えている。

 セガゲームスの岩城氏は、スマートデバイスでのゲーム開発や国内エンタメコンテンツの海外への発信、デジタルマーケティングと、幅広い業務を担っている。特に意識しているのは「作ることと届けること、その両方をやること」だ。ゲーム開発企業としては、質の高いゲームを作ることがもちろん最優先の課題だが、ユーザーにその存在を知ってもらい愛着を持ってプレイしてもらうこともまた、同じくらい大切になっている。

 「そのための仕掛けとして重要視しているのが、コミュニティーだ。コミュニティーに集うユーザーの熱量が高まることで、拡散力も増していく。コミュニティーを通じて、ユーザーとの距離を縮めていきたい」(岩城氏)

視聴者数ではなく、どれだけ心に届いたか

 自己紹介に続いて、3人がそれぞれ専門領域として関わる動画、スマホゲーム、AR/VR(仮想現実)について語られた。

 前田氏は「これから動画は『幅』でなく『深さ』の時代になる」と語る。幅とは、どれだけ多くの人に届いたか。視聴率やリーチ数に代表される既存の評価軸はこれに当たる。深さとは、1人のユーザーの心にどれだけ深く届いたか。具体的には、動画の視聴時間の長さや発信者への共感や応援の気持ち、視聴者が視聴中にコメントするといった行動に現れる。SHOWROOMが追求しているのは後者で、これからは視聴者の心に深く刺さる動画を作る人が勝つ時代になるという。

 「SHOWROOMでは、この深さを投げ銭(注)という直接課金によってマネタイズできている。今後は広告でも深さが重要になる。深く刺さる動画はインプレッション当たりの単価が10倍、100倍になるということも起こるのではないかと考えている。深さを取る方法は『クオリティー』か『リアリティー』。お金をきちんとかけてユーザーの共感を呼び起こすか、逆にお金を使わずに、予定調和ではない、ドキドキを埋めるものを作る」(前田氏)

注:SHOWROOMでは 「ギフティング」 と呼ばれる行為。視聴者がSHOWROOM内でポイントを購入し、それをギフトの形にして配信者にプレゼントすることができる。【更新:2018年9月12日14時00分 注釈を追記しました】

岩城 農氏

 深さが重要にであるという点では、スマホゲームはもともと「パレート最適」型、つまり2割のユーザーが8割の収益を生み出すようなビジネスモデルになっている。岩城氏は、「アクティブユーザーを単純に見るのではなく何分プレイしているのか、週何回遊んでいただいているのかといったことは、当然見ている。深さを求める上では、質に振り切る一方、別レイヤーで『見る側』に注目している」と語る。ゲームを観戦する側をビジネスに取り入れるという発想は、前述のコミュニティー重視の視点と重なる。

 質重視の反対方向で「参加可能性を高めるため、コンテンツに余白が生まれることは大事」と前田氏も同意する。「飲みに行ったスナックで、ママが酔いつぶれて寝てしまったところに別のお客さんが来てしまい、仕方ないので自分がカウンターに入ってビールを出しているというような状況。このコンテンツは自分が入り込まないとダメになってしまうのではないかとドキドキする感覚は、エンゲージメントを引き上げる」(前田氏)

 AR/VRについて、岩城氏は「新しいジャンルは作る努力が実りやすいので最初から行きたい。スマートグラスは楽しみで仕方ない」と期待をにじませ、福田氏は「ARとVRは別物と分けて考えている。ARは日常に溶け込むものであり、まだちょっと時間がかかるかもしれないが、VRは相性の良いジャンルも出てきている」との認識を示した。

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