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» 2018年06月15日 07時00分 公開

山口義宏がマーケティング賢人と語る:「ビジネスに貢献するデザイン」に必要なこと――福本 徹氏:後編 (1/2)

デザインのロジックを可視化することでデザインの仕事はどう変わっていくのか。アイディーネットの福本 徹氏と戦略コンサルタントの山口義宏氏が語り合った。

[山口義宏,ITmedia マーケティング]

 「価値」を形に置き換えて伝えるデザインという行為において、重要になるのが、ビジネス側とクリエイター側のコミュニケーションだ。

 工業デザインを出発点に日用品のパッケージデザインから企業の商品企画、コンセプト作成まで手掛けるアイディーネットの福本 徹氏は、「インフォームドデザイン」を提唱する。これは医療の現場における「インフォームドコンセント」にヒントを得たメソッドで、デザインで伝えるべき価値を正しく表現するために、必要な要素を洗い出し、伝達に最適なロジックを整理してクライテリア(判定基準・指針)に落とし込むものだ。

 福本氏がインフォームドデザインを着想し、デザインを軸にしつつ仕事の領域をマーケティングや戦略立案に広げてきた理由とは何か。

福本 徹氏 福本 徹氏
アイディーネットCEO。デザインプロデューサー。名古屋大学未来社会創造機構 社会イノベーションデザイン学センター客員准教授。愛知県立芸術大学美術学部卒業後、東芝のプロダクトデザイナーとしてキャリアをスタート。その後、コンサルティング会社でハンスムートやルイジコラーニ、ポルシェデザインなどの著名海外デザイナーのローカライズとコラボレーション、マーケティング部門での商品戦略策定業務に従事した後、独立。デザインとマーケディング機能を同一の次元でサポートし、大手企業の商品企画やブランディングなどを数多く手掛ける。

デザインの川上へさかのぼる理由

山口 インフォームドデザインは、ビジネス側がデザイナーとうまくコミュニケーションを取るのに最適な手法であるという話をしてきました。一方で、デザイナーが自分の価値を上げるためのアプローチとしてもインフォームドデザインは有効だと感じています。デザインという単一のスキルで最高のものを作ろう、100点を取ろうと努力することは、職人の矜持(きょうじ)としてもちろん素晴らしいことですが、一方でその追求だけで、デザイナーとして評価やフィーを高めていけるのかというと、実は難しい場合も多いと感じることがあります。福本さんがインフォームドデザインを確立するに至ったいきさつを教えていただけますか。

福本 工業デザイン専攻で愛知芸大を卒業し、東芝のデザイナーとして働き始めた当初、デザインの現場にはロジックと呼べるものがありませんでした。いや、あったのでしょうけれど、言葉にして教えてもらえないのです。新人デザイナーはカタログをポーンと渡されて「こんな感じだから適当にやっといて」と言われるだけ。こっちは手探りで必死に自分なりの提案をするのですが、上司にあっさりとダメ出しされてしまうという世界です。なぜダメなのか聞いても明確に答えてもらえない。

山口 デザイナーの仕事とはそういうものだと何となく思われていたのでしょうね。

福本 もともと言葉で伝えることが大事だという思いはずっとあったのです。子どもの頃、言葉を操るのが下手で、口げんかなどで負けてしまう悔しい経験を繰り返していたので。それが社会に出て、論理的な意思決定がなされない場に身を置くようになってあらためて、ものごとはロジカルに進めなければいけないと思い知りました。

山口 右脳集団特有の非効率なコミュニケーションが、インフォームドデザインの原点になったわけですね。

福本 東芝を辞めて参画したコンサルティング会社で、デザイナーに加えてマーケティングプランナーの仕事が発生するようになりました。この2つの職能は一般的には相いれないとされますが、顧客に対して「どう伝えるか」を考える上で、デザインは重要なアプリケーションになります。そして、商品企画をデザインでサポートしていくうちに、商品企画そのものまで手掛けるようになりました。

山口 徐々に川上に上っていったと。

福本 その後、1994年に独立してアイディーネットを起業しました。社名のアイディーはもちろん、インフォームドデザインの頭文字です。当初は携帯電話や家電の商品企画からデザインまでが守備範囲でしたが、そこからさらに、デザインマネジメントやデザインフィロソフィーの策定支援まで手掛けるようになりました。

山口 より上流の仕事に軸足を移していったのはどういう動機からでしょう。

福本 端的に言えば、単価を挙げる必要があったからです。パッケージデザインの仕事も多く手掛けてきましたが、いまだに10万円、5万円程度の予算でご相談いただくケースも少なくありません。チームを抱えている以上、そういう仕事では採算が合わないし、無理して請け負ったとしても疲弊するだけです。自分が疲弊するだけならまだしも、スタッフを疲弊させてはいけない。また、会社を運営するからには、ただ生きていくだけでなく、より社会に貢献したいですよね。そのためにも、やはり川上にたどり着かないといけないと考えました。

山口 それをやれたのはなぜなのでしょう。

福本 一般的にコンセプトメークにおいては、誰かに何を伝える仕組みを整えるわけですが、インフォームドデザインでは、伝えるべきこととデザインすべき要素が対応する形になるのでコンセプトに曖昧な点があるとその部分が顕在化します。そこでクライアントと膝を突き合わせながらコンセプトの最適化をサポートするようになりました。

山口 デザイナーの中にももちろん、マーケティング視点でクライアントにアドバイスができる人はいます。でも、アドバイスに耳を傾けてもらえることと、そこにコンサルティングフィーを払ってもらえることの間にはやはり壁があると思うのです。その壁をどう乗り越えられたのでしょうか。

福本 これはもう、全てお客さまのおかげですね。起業したときから私自身は「デザイナー」という肩書を外しています。まず、出発点はそこです。そのためか、依頼のほとんどは社内にデザイン部門を抱える非デザイン部門からのものでした。現場で私が話す内容がデザイナーのそれとは異なることと、それまでの実績が論拠となりマーケティングやブランディングまで依頼できると評価してくださったお客さまからコンサルティングフィーを含んだ仕事をいただけたことが壁を乗り越えるきっかけになったと思います。さらに、新たにいただいた仕事でデザインよりも川上の実績を作ることでお客さまがどんどん広がってきました。仕事をいただくこと自体ももちろんですが、よい実績を作る機会をくださったお客さまには本当に感謝しています。

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