マーケターとクリエイターがAIに仕事を奪われないための心得5選【後編】Marketing Dive

AIが進化し、マーケターやクリエイターの活動に影響を及ぼしている。AIはクリエイターにとって脅威なのか。コンテンツマーケティング会社の創設者に、AIと共存するための心得を聞いた。

» 2024年09月04日 07時00分 公開
[Jordan MitchellMarketing Dive]
Marketing Dive

 OpenAIのAIチャットbot「ChatGPT」をはじめとする生成AIが進化し、マーケターやクリエイターが一から制作してきたコンテンツと遜色ないコンテンツが短時間で制作されるようになった。マーケターやクリエイターはAI技術とどのように共存の道を歩んでいけばよいのか。本稿では前編に続き、マーケターやクリエイターがAI技術と共存するための心得を、コンテンツマーケティング会社Growth Stack Mediaの創設者ジョーダン・ミッチェル氏が解説する。

マーケターとクリエイターがAIに仕事を奪われないための心得5選

  • 心得その1:クライアントと緊密な協力関係を構築する
  • 心得その2:テクノロジーを活用する
  • 心得その3:自分を守る法律を把握しておく
  • 心得その4:最新の動向を把握する
  • 心得その5:明るい見通しを持つ


心得その3:自分を守る法律を把握しておく

 米国のNO FAKES Actは、個人の同意なしにその人の声や肖像を模倣したコンテンツをAIが生成することを禁止し、アーティストやミュージシャン、俳優を含む全ての人を保護することを目的としている。例えば女優のスカーレット・ヨハンソンは、ChatGPTが生成した合成音声が自身の声に酷似していると懸念を表明した。メディアは著名人に注目しがちだが、クリエイターや一般人の権利が見過ごされる傾向にあることに注意が必要だ。

 マーケターやクリエイターの中には自分の作品が生成AIを使って複製利用されても構わないと考える人もいるかもしれない。NO FAKES Actのような法律や現在の制度では、適切なクレジットの表示や報酬の支払いにつながることは少ない。著作物を無断でコピーする海賊版や著作権侵害行為の抑止という点では、行政機関や司法機関の成果は限られている。特に、規制の策定や実施の速度が新技術の進化に追い付かないことが問題だ。

 過去数十年間、デジタルコンテンツに関する著作権侵害の訴訟で重大な罰則を課した判例は多くない。ユーザー同士が音楽ファイルを送受信するためのサービス「Napster」を展開していた運営会社が、裁判で敗訴した例がその一つだ。政府がMP3ファイルの共有の取り締まりに苦労したのであれば、民間組織との協力関係を強化しなければ、AIの開発ペースに追い付くことは期待できない。

心得その4:最新の動向を把握する

 生成AIツールが自分のオリジナル作品を気付かないうちに盗み、大規模言語モデル(LLM)のトレーニングに使用することをクリエイターは認識しておく必要がある。生成AIツールを使用する際は利用規約を読み、生成AIが入手したデータをどのように二次利用するか把握しておこう。特に、プロンプト(生成AIに対して出す質問や指示)やコンテンツをアップロードする場合には注意が必要だ。利用規約には、これらの行為がコンテンツの再利用の同意と見なす条項を含む可能性がある。もしNDAを締結済みのコンテンツをアップロードすれば、自分自身だけでなくクライアントにも問題が生じる可能性がある。

 AIが生み出すコンテンツはますます洗練されつつある。例えば、Luma AIが2024年1月にリリースした生成AIツール「Dream Machine」は、テキストと画像から質の高い動画を素早く生成する。このツールは実際の物理法則を驚くほど正確に理解し、実写と見分けがつかない動画も生成できる。AI技術が進化するに連れて、クリエイターが一から作成したコンテンツとAIが生成するコンテンツを区別することはますます困難になるだろう。

 AI技術の進化がクリエイティブ業界に及ぼす影響について常にアンテナを張っておくことも大切だ。SAG-AFTRA(全米映画俳優組合)をはじめとした業界団体や組合に加入し、その分野のプロフェッショナルとつながりを持ち、クリエイターの権利を守る取り組みに参加することも一考だ。

心得その5:明るい見通しを持つ

 AIはクリエイターの活動に影を落とすだけではない。AIツールを適切に使えば、コンテンツの制作時間を短縮できる。クリエイティブな仕事への参入障壁を下げ、多くの人々に自由な自己表現の機会を提供するかもしれない。

 アイデア出しやたたき台の作成、制作中の画像や動画のリッチ化、長文からの要点の抽出など、AIツールはさまざまな方面で活用できる。一方で、クリエイティブな作業にAIツールを効果的に活用する方法や予算を最適化する方法、オーディエンスを購買行動に導くユニークなコンテンツを創作する方法は、依然として人間の想像力から生み出される。

 クリエイターのコミュニティーにとってAIが肯定的な存在になるためには、クリエイターの権利をより強力に保護する必要がある。クリエイターのクレジットを表示できるようにすること、報酬を保証できるようにすることが、人間の創造性とAIが共存するための基盤となる。

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