もう「踊ってみた」動画だけではない。急成長する広告配信プラットフォーム「TikTok Ads」の現状とこれからについて、「TikTok Ads Annual Marketing Event 2019」で明らかになった内容をまとめた。
短尺動画SNS「TikTok」の運営会社であるBytedanceは、日本において初の年次イベント「TikTok Ads Annual Marketing Event 2019」を2019年12月3日に開催した。同社はここで広告配信プラットフォーム「TikTok Ads」の日本における事業進捗を報告するとともに、2020年に向けてTikTok Adsの最新サービスに関する情報などを発表した。本稿ではそのハイライトを簡潔に紹介する。
2016年にサービスを開始したTikTokは現在まで世界150の国と地域にユーザーを拡大し、75の言語に対応する巨大なグローバルプラットフォームに成長した。モバイルアプリ関連の調査会社Sensor Towerによれば、2019年11月時点においてTikTokのアプリは全世界で15億ダウンロードを突破している。
TikTokは日本では2017年10月にサービスを開始し、2019年1月に現在のTikTok Adsにブランドを掲げて広告ビジネスを本格化させている。そしてわずか1年足らずの間にTikTok Adsは目覚ましい成長を遂げた。
現在、日本においてTikTok Adsは、TikTokに加え動画推奨アプリの「BuzzVideo」、後述するカメラアプリ「Ulike」の3つを軸に広告を配信している。また、独自のアプリ向けアドネットワークである「Pangle(TikTok Audience Networkから改称)」やクリエイター向けの公式動画クリエイティブ制作ツールである「TikTok AdStudio」も提供している。
ダンスやリップシンク動画が人気の若者向けSNSというイメージの強いTikTokだが、2019年に入ってからはコンテンツの多様化も進んだ。教育、ゲーム、スポーツ、グルメの4カテゴリーは特にコンテンツ数が急増している。
企業や自治体とのコラボレーション事例も続々と増えている。自治体との取り組みでは、横浜市と共に「#胸キュンチェック」というハッシュタグチャレンジを実施して乳がん検診の啓蒙に挑むなど、TikTok活用の幅を広げた。日本赤十字社と取り組んだ「#BPM100 DANCE PROJECT」ハッシュタグチャレンジでは、アジアの広告賞「Spikes Asia 2019」エンターテインメント部門で銀賞、ミュージック部門で銅賞を受賞した。TikTokを活用した作品が国際的な広告賞で受賞したのは史上初ということだ。
■TikTokが提供する主な広告商品
目的 | 商品名 | 内容 |
---|---|---|
リーチ | Take Over AD | アプリ起動時に全画面で広告を掲出 |
Infeed AD | コンテンツ間に挿入される15秒間の全画面広告。広告主アカウントへの誘導を目的とするブランディング促進型と、外部サイトやアプリダウンロードページへの誘導を目的としたアクセス促進型いずれにも対応 | |
エンゲージメント | ハッシュタグチャレンジ | 企業が出したテーマをハッシュタグに、UGC(ユーザー投稿コンテンツ)を募る。ブランドへのエンゲージメントを高めつつ二次拡散を促進 |
スタンプ | 顔認証・手認証など最先端テクノロジーを駆使したオリジナルスタンプやオリジナルフレームを開発し、ユーザーに提供。 | |
効果測定 | Brand Lift | アンケート調査を通じて認知度や好意度、購入意向スコアを測定。広告が与えた影響を数値にして可視化。 |
ユーザー層も幅広い年代に広がり、韓流ヒップホップグループBTS(防弾少年団)や俳優のウィル・スミス、シンガーソングライターのエド・シーランなど世界的な著名人も続々とTikTokアカウントを開設している。日本では嵐が満を持してTikTokに参入し、新曲「Turning Up」を使ったハッシュタグチャレンジを展開している。
Bytedance日本法人で副社長を務めTikTok Adsを統括する西田真樹氏は「この勢いをもって来年も進んでいく。新しいプロダクトも数々ローンチを控えている」と2020年のさらなる飛躍に向けた決意を語った。
Bytedanceがマクロミルの協力の下で実施した調査によると、TikTokの印象は他のSNSに比べて「面白い」「楽しい」など前向きな気持ちを表すキーワードで13ポイントも高く、逆に「面倒」「ストレス」などネガティブキーワードではスコアが2ポイント低いという。TikTok AdsのプランニングチームであるX Design Centerでクリエイティブストラテジーディレクターを務める廣谷 亮氏はその他にも幾つかの調査結果を挙げつつ「新しい発見や興味が広がる場。スキップされにくく、エンゲージメントが拡大する」と、広告媒体としてのTikTokの魅力を語った。
廣谷氏はTikTokのカルチャーを「meme(ミーム)」というキーワードで説明する。memは「文化的遺伝子」とも呼ばれ、海外のインターネット世界では、あるコンテンツのフォーマットがテンプレート化して、人から人へ、ものまねとアレンジを繰り返して少しずつ内容を変えながら広がることを指して使われる。
テレビCM全盛の時代には1つのコンテンツを1つのチャネルで何度も繰り返して届けるコミュニケーションが普通だった。インターネットやスマートフォン、タブレットなどの普及でマルチチャネルへのシフトが進んでいるが、基本的に素材は1つのままだ。TikTokの「まねして遊ぶ」文化では、素材を同じくしつつも新たなUGCが次々に生まれる。UGCが広がれば広がるほど人は動く。
ハッシュタグチャレンジの場合、3本の公式動画があるとすればその再生回数は通常300万〜500万回。そこに4本程度のインフルエンサー動画を加えると100万〜300万回程度再生数は増えるが、それで終わりではない。TikTokではこれらの動画に刺激されてUGC動画が1万本ほど生成され、その結果1000万〜1億回の再生を積み増すことができるのだ。
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