債権回収にマーケティングオートメーション活用、イオングループ傘下のサービサーの取り組み効率的かつ顧客のストレスを少なく(1/2 ページ)

債権回収の場においても、チャネル横断やコミュニケーション最適化の視点はやはり重要だ。エー・シー・エス債権管理回収の取り組みについて紹介する。

» 2019年06月19日 07時00分 公開
[冨永裕子ITmedia マーケティング]

 債権回収会社(サービサー)とは、金融機関などから委託を受けた(または譲り受けた)特定金銭債権の管理回収を行う専門事業者である。1999年に施行された「債権管理回収業に関する特別措置法」で生まれた業態であり、法務大臣の許可を得た専門企業が業務を担う。2019年現在の国内登録事業者数は約80を数える。

 イオンフィナンシャルサービス傘下のエー・シー・エス債権管理回収は、その中でも個人の債権回収に特化した会社だ。同社は常時約40万件以上の債権を取り扱う。その中には、同じイオングループのクレジットカードローン債権の他、住宅ローンやマイカーローンなどがある。また、グループ外でも100社以上からの債権買い取りおよび受託の実績があり、最近では兼業申請の認可を得た上で電気やガス料金の集金代行も手掛ける。

 現在、同社はAIなどのテクノロジーを駆使したデータドリブンかつ新しい債権回収プロセスを構築しようとしている。その背景と具体的な取り組み内容について、「SAS FORUM JAPAN 2019」における代表取締役社長の表寺 務(おもでら・つとむ)氏の講演内容を基に紹介する。

エー・シー・エス債権管理回収 代表取締役社長の表寺 務氏

規制業種での差別化はデータドリブンで

 債権回収会社が顧客にアプローチする時のチャネルは「電話」「文書(手紙のこと)」「SMS」「法的手続き」「訪問」の5つに限定される。業務プロセスが規制の下にあり、もともと他社との差別化をすることが難しい業態ではあるが、そうは言っても、回収担当者やオペレーターの属人的なスキルに依存していては大きなビジネス成長が望めない。そこでエー・シー・エス債権管理回収では、大量のデータを分析し、科学的なアプローチによる新しい債権回収プロセス構築で差別化しようと考えた。

 まずは、SASのソリューションを駆使してデータ活用基盤を整備するところから始めた。業務システムのデータやMicrosoft Excelなどのさまざまな形式で保管されているローカルデータをここに集約したのだ。この基盤構築では、不要な個人情報を抽象化することも重要であったと表寺氏は強調する。

 基盤が出来上がったことで、属性データやトランザクションデータを用いて、債権回収スコアリングモデルの構築が可能になった。同社が作ったモデルは約40本。そのうち、債権状況別やアプローチチャネル別評価スコアリングモデルなどを含む平均18本のモデルが毎月稼働中だ。

 2018年の終わりからは、モデル構築の自動化にも取り組んでいる。モデル構築には人的リソースが必要だが、ご多分に漏れず専門知識を持った人材確保は困難だ。AIを活用して最適なモデルを選択できるモデリングツールを導入した結果、モデルの1本当たり構築スピードが従来の約5倍に改善した。気になる精度についても、人間がやる場合と比べて遜色のないようになった。

債権回収業務の生産性とブランドロイヤルティーを同時に向上させる

 同社が進める取り組みの中でも興味深いのは、債権回収業務の最適化に「SAS Marketing Automation(以下、MA)」と「SAS Marketing Optimization(以下、MO)」を導入したことだ。マーケティング業務におけるチャネル横断型のコミュニケーション最適化の事例は多いが、債権回収業務で同様の取り組みを進める例は珍しい。国内で債権回収会社という同じ業態の事例を探そうとすると難しいが、SASが持つ海外事例の中に債権回収プロセスへの適用事例があったことが導入に踏み切る決め手になった。

 2018年から2019年にかけて取り組んできた業務最適化の狙いとして、表寺氏は「債権回収業務における生産性の向上」と「ブランドロイヤルティーの向上」の2つを挙げた。同社としては、延滞債権回収の成果は改善したいが、そのために入金をしつこく迫って顧客(返済が遅延しているとはいえお客さまであることには変わりはない)のストレスになるようなことはしたくない。法律を守りながらも無理のない回収行動を行うようにしたいと考えたのだ。

       1|2 次のページへ

Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.