日本型ユニコーン企業を目指す「ハイブリッドスタートアップ」という考え方Supership森岡康一氏がスタートアップ支援のキーパーソンと熱論(1/2 ページ)

日本の未来を開くスタートアップのエコシステムとはどのようなものか。

» 2018年10月16日 18時00分 公開
[織茂洋介ITmedia マーケティング]

 Supershipは2015年にデジタルマーケティングやメディア領域のスタートアップ企業群をKDDI傘下で統合して誕生した企業だ。データを核に世界進出も視野に入れた同社は、自らを「ハイブリッドスタートアップ」と位置付ける。新しい価値を創造しつつ、大企業のリソースを活用することで急成長を成し遂げるという、いわば「いいとこ取り」を狙った新しい事業の在り方といえるだろう。

 本稿では、2018年10月11日のSupership事業戦略発表会における同社代表取締役社長の森岡康一氏と内閣府政策統括官(科学技術・イノベーション担当)の石井芳明氏によるパネルディスカッションから、日本におけるハイブリッドスタートアップの存在意義と可能性についてまとめる。

パネルディスカッションは事業構想大学院大学学長の田中里沙氏がモデレーターを務めて行われた(左から田中氏、石井氏、森岡氏)

スタートアップと大企業の連携で日本のイノベーションを推進

 2015年のSuperShip立ち上げ時に代表取締役社長の座に就いた森岡氏は、Yahoo! JAPANを経てFacebookの日本法人設立時に副代表として活躍した経歴を持つ。森岡氏は「ハイブリッドスタートアップこそ日本のスタートアップ市場を盛り上げる最も有効な手法の1つになる」と語る。

 石井氏は経済産業省出身で中小企業政策に長く携わり、日本のスタートアップ支援のキーパーソンとして知られる。2018年6月に閣議決定された政府の新たな成長戦略「未来投資戦略2018 『Society5.0』『データ駆動型社会』への変革」では、ベンチャー支援の方向性として、2023年までに20社のユニコーンを創出することが示されている。その実現に向けて動き出した具体的な取り組みが「J-Startup」プログラムであり、石井氏はこれに深く関わっている。J-Startupプログラムでは、有識者による推薦で「J-Startup企業」として有望企業を選定し、大企業などと政府が官民一丸でサポートする。「幅広い支援に加えて世界に勝てるロールモデルを作ることが重要。KDDIが先行しているような大企業とスタートアップの連携事例をもっと広げたい。トップランナーが成功することで日本の大企業が変わっていくことをわれわれは期待している」と石井氏は語る。

森岡康一氏 森岡康一氏

世界のユニコーン企業の8割弱は米国と中国に集中、日本は?

 そもそもなぜ大企業とスタートアップの連携が必要なのか。石井氏はイノベーションの必要性を強調する。「新しいことに取り組んで行かないと経済は元気でいられない。しかし、イノベーションを起こし続けるのは難しく、特に大企業にはなかなかできない。イノベーションの多くは小さく新しくよく分からないところで始まるが、大企業は主軸の授業に予算も人員も投入せざるを得ないからだ」(石井氏)

 そこで、小さな市場でも突っ走るスタートアップと連携することが大事になる。森岡氏は「インターネット時代は破壊的イノベーションでなければ新しいものが生まれない。その点においてスタートアップは強い。大企業の力を使いながら破壊的イノベーションを進める」と語る。

 大企業はいわゆる「イノベーションのジレンマ」に陥りがちで、他方のスタートアップにはリソースが不足している。両社が連携することでイノベーションが加速するというわけだ。

 世界には「ユニコーン」と称される、10億ドル以上の企業価値を有する企業が220社存在するといわれる。そのうち半分が米国企業で、中国企業が27%、日本企業はごくわずかだ。日本のスタートアップ企業が世界の中でユニコーンとして飛躍するために何が必要なのか。

 石井氏は「スタートアップ企業の目線がもう少し高くならなければいけない」と、課題を挙げる。「基準を上げないと世界で戦えない。国内のマーケットで満足するのではなく、いきなりグローバルの市場を取っていくスタートアップが増えなければいけない。しかし、スタートアップはグローバルに出たくてもそもそも拠点がない。その点でも大企業と連携できる。大企業は数百億、数千億、数兆という市場を見る目線を持っている。目線を高くした後のオペレーションでもうまくつながるといいと思う」。

 ユニコーンに挑むために「ハイブリッド」は有効な手法といえそうだ。しかし、ただ形だけの連携では意味がない。森岡氏は大企業の「本気」を引き出す必要があると語る。「大企業が本気にならないのは、スタートアップの側にも問題がある。なかなか支援してくれないと怒るのではなく、どうすれば本気の支援を引き出せるのかを(スタートアップ側も)本気で考えなくてはいけない。本気の支援してもらえるとスタートアップは目の色が変わる。成功させるために団結し、ビジョンを大きく持てる」

 お互いを本気にさせるために何が必要なのか。大企業とスタートアップのマッチングイベントを多く手掛ける石井氏は、入口の時点で具体的なイメージを持って臨むことが重要だと語る。「スタートアップは大企業から何を引き出そうとしているのか、逆に大企業は自分のプラットフォームの中でスタートアップに何を使ってもらおうと思っているのか、最初に会うときからある程度明確でないといけない」

石井芳明氏 石井芳明氏
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