4つの新サービスとは別に、「Special Offer」という非公開の枠もある。年間利用額上位の会員だけに届く、招待制の特別体験だ。
内容はほとんど公開されていない。堤氏が明かしたのは、JR九州の豪華寝台列車「ななつ星 in 九州」の貸切ツアーや、祭りの特別観覧席といった事例だ。定員は30人程度で、先着順で受け付けるという。
なぜ非公開にこだわるのか。「非公表だからこその優越感がある」と堤氏は言う。加えて運営上の理由もある。「30人しか呼べないイベントを大々的に告知するわけにはいかない」。希少な体験を、それを求める人だけに届けるためには、あえて公開しない方がいいのだ。
興味深いのは、この非公開性自体がマーケティング装置として機能している点である。JCBはSpecial Offerの「存在」だけは公表している。ただし内容は見せない。「『なんか分からないけれど、いっぱい使ったらいいことがありそう』と思ってもらう」と堤氏は狙いを明かす。あえてモヤモヤさせることで、利用意欲をかき立てる仕掛けだ。
富裕層向けサービスで今後注力する領域を尋ねると、「ただのぜいたく体験ではなく、意味ある消費」という言葉が返ってきた。
単なる高額消費への回帰ではない。「自分にとって価値があるもの」「ここでしか得られないもの」への支出を厭わない──そういう選別的な消費行動が広がっている。予約困難店へのアクセス、テーマパークの貸切、非公開のラグジュアリー列車ツアー。いずれも「お金を出せば誰でも買える」ものではない。
堤氏は音楽やスポーツの領域にもニーズを感じていると話す。「JCBは日本で一番の老舗カード会社。いろんなところと組んで、スペシャルなものを出していきたい」。パートナーシップを武器にした「お金で買えない体験」の拡充は、今後も続くだろう。
ザ・クラスの年会費5万5000円は、アメックス・プラチナの16万5000円、三井住友Visa Infiniteの9万9000円、JAL Luxury Cardの59万9500円と比べれば控えめだ。だが「目指したくなるブランド」として、ゴールドやプラチナで実績を積んだ人が次のステージとして手にする——その設計に、JCBの戦略がある。
価格競争には乗らず、パートナーシップと非公開の希少体験で差別化する。「持っててよかった」と思える瞬間を、いかに設計できるか。その答えが、2025年のリニューアルに凝縮されている。
野村が捨てた「資産3億円未満」を狙え SMBC×SBIが狙う“新興富裕層”の正体
夫婦ともに「年収700万円」超 SMBC×SBI新会社は、なぜ“新興富裕層”に目を付けたのか?
NTT・楽天・ソフトバンクが「金融三国志」開戦か──通信会社の新戦局、勝負の行方は?
DXの“押し付け”がハラスメントに!? クレディセゾンのデジタル人材育成を成功に導いた「三層構造」とはCopyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.