こうした体制の下、電通デジタルでは具体的にどのような領域でAI活用が進んでいるのだろうか。AIネイティブツインの活動は、すでに具体的な成果として現れている。山本氏はそのうち3つの領域を例に挙げた。
まず挙げられるのが、「∞AI 」(ムゲンエーアイ)による広告運用の革新だ。過去の配信データから効果的なクリエイティブを学習し、バナーを生成・改善できる電通デジタルが提供する統合ソリューションである。
「∞AIを導入した百数十社の平均で、約1.5倍のパフォーマンス向上が見られました。AIが『これが良い』と提示することで意思決定が早くなり、通常2カ月かかっていた企画から配信までのプロセスが、最短5日で完了するケースも出ています」
次に注目すべきは、リサーチ領域の革新だ。従来のリサーチでは、Web調査や実際の顧客へのヒアリングで、データを取得する必要があった。一方、電通デジタルでは仮想顧客に質問してマーケティング施策を計画できる「∞AI Customer Twin」を活用。過去のデータを学習したAIによって、まるでそこに顧客がいるかのようなリアルなデータ収集が可能になったのだ。
「例えば、従来のリサーチでは『あなたは何が好きですか』といった単純な質問への回答しか得られませんでした。しかし、このAIなら時系列に沿った深掘りが可能です」
具体例として山本氏が挙げたのは、化粧水の購買プロセスだ。
「『化粧水を買うきっかけは?』とAIに聞くと、『周りから肌荒れがひどいといわれた』『冬に肌の調子を指摘された』といった具体的な状況が返ってきます。さらに『最終的に何が決め手で購入しましたか?』と深掘りもできる。カスタマージャーニーのように、詳細な購買プロセスまで再現できるのです」
3つ目が、今後のマーケティングの在り方を大きく変える可能性を秘めた「Generative Engine Optimization」だ。SEOがWebサイトを検索エンジンで上位表示させるのに対し、生成AIに参照してもらうことを目指す新しいアプローチである。
従来のSEOでは、人間が読みやすいことが最優先だった。しかし、生成AIの時代には異なる考え方が必要になると山本氏は説明する。
「例えば、複数の商品のスペックを比較したいという要望に対して、従来なら読みやすいランディングページ形式で情報を整理していました。しかし、AIが参照する観点では、データベースのような形式の方が有用なのです」
具体的にはどういうことか。
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