GoogleがサードパーティーCookieのオプトアウト機能の導入を見送った今回の決定は、業界と規制環境双方の進化に起因すると関係者は言う。
米GoogleはサードパーティーCookieに関する計画について(またしても)方針を変更した。これまで計画していた独自の仕組みの開発を断念し、このトラッキング技術を引き続きChromeで提供すると発表したのだ。
このニュースに対するマーケターの受け止め方は複雑だ。断片化したメディア環境におけるリーチ(到達範囲)の課題が解消する可能性がある一方で、顧客データの保護に向けた社内の計画を加速させる可能性もあるからだ。
今回の決定は、Cookie廃止計画の終了と同時に、規制圧力によりGoogleがChromeを手放す可能性を示唆しているようだ。同社のブログ投稿(外部リンク/英語)によれば、この方針転換の背景には、2019年に開始されたCookie代替策「プライバシーサンドボックス」に対するパブリッシャー、開発者、規制当局、広告業界からのフィードバックがあったという。2025年4月22日に開催された米IAB(インタラクティブ広告協会)の「公共政策・法務サミット」において、Googleの幹部はこの決定に至った背景について詳しく説明した。
「業界全体の進化や規制環境の変化、そして数年前にプライバシーサンドボックスを最初に発表してから現在に至るまでのあらゆる要素を見渡すと、それらは今もなお進化し続け、発展しています」と、Googleの政府対応・公共政策担当シニアディレクターであるギータ・ハリス=ニュートン氏は語った。「私たちは引き続き業界と連携し、この進化について考えながら、業界から寄せられるフィードバックに対応していくつもりです」
Googleは2024年7月、ChromeでサードパーティーCookieを廃止する代わりに、オンラインプライバシーに関する「新たな道筋」を模索すると述べ、2020年に始まった計画を中断した。Cookieのない未来のための計画を開発するためにこれまで業界全体で無数のリソースが費やされてきた。にもかかわらずGoogleは結局、ChromeにCookieを組み込んだまま維持することを決定したのだ。
今回のニュースは、Googleが2件目の反トラスト訴訟で敗訴した5日後に発表された。連邦判事はこの裁判で、同社がオンライン広告技術の主要部分において違法な独占を行っているとの判決を下した。2024年8月には同社が検索において違法な独占状態にあるとの判断が下されており、その結果、同社はWebブラウザブラウザとして人気のあるChromeの売却を余儀なくされる可能性がある。 こうした規制当局の圧力も、GoogleがサードパーティーCookie計画を再度見直すに至った一因だろう。
「このニュースは驚くべきことではありません。最終的にChromeを売却することになった場合に備え、広告ビジネスに悪影響を及ぼす可能性のある行動を取りたくなかったのでしょう」と、英国の検索インテリジェンス企業Captifyのグローバル最高プロダクト責任者を務めるアメリア・ワディントン氏はメールでコメントを述べた。「サンドボックスが機能していたのは、GoogleがChromeを所有し、サプライチェーン全体を完全に掌握していたからです。もしChromeを保有しなくなれば、他の企業と同様に、ターゲティングのためにCookieが必要になるでしょう」
GoogleはサードパーティーCookieを提供する現在のアプローチを維持することになるが、プライバシー保護ソリューションを完全に放棄するわけではない。前出のブログ投稿によれば、同社は Chromeのシークレットモードにおけるトラッキング保護機能を今後も強化するとともに、2025年第3四半期(7〜9月)には新機能「IPプロテクション」を導入する予定だ。また、今後数カ月のうちにプライバシーサンドボックスが果たすべき役割について業界からの意見を募り、「最新のロードマップ」と将来的な投資計画を公表する方針だ。
Cookie廃止をめぐるこれまでの展開は長く、ときに波乱含みであった。今回も同様に、Googleの最新の方針転換が広告業界にどのような影響を与えるのか、そしてマーケターがどう対応すべきかについては、意見が分かれている。IABの最高経営責任者であるデイビッド・コーエン氏や、IABテックラボのトップであるアンソニー・カツール氏のように、今回の動きを「相互運用性の勝利」あるいは「広告業界の進むべき方向性の確認」と評価する声がある一方で、これまで業界が積み上げてきたプライバシー重視の取り組みを損なうものだと批判する意見もある。
「消費者がこれまで以上にオンライン上でのトラッキングに敏感になっている今、Cookieへの依存を強化することは間違ったメッセージを送ることになります。インターネットが抱えているのはターゲティングの問題ではなく、“信頼”の問題なのです」と、コンテクスチュアルターゲティング広告を手がける米GumGumのグローバルプラットフォーム戦略・オペレーション担当エグゼクティブバイスプレジデント、アダム・シェンケ氏は、メールでコメントした。「ブランドは、この動きを“警鐘”と受け止め、オーディエンスからの信頼がさらに失われる前に、広告戦略の多様化を図るべきです」
業界全体がファーストパーティーデータやコネクテッドTV(CTV)、モバイルなどのCookieレスのチャネルに注目する中で、マーケターはすでにサードパーティーCookieから離れていると指摘する人もいる。
「マーケターはリーチ拡大のために今後もサードパーティCookieに依存し続けるのでしょうが、同時に、サードパーティーCookieを新しいデスティネーションやエクスペリエンスと統合し、相互運用性と全体にわたる統一されたビューを提供できるツールの重要性が増していくと予想しています」と、米LiveRampの最高コネクティビティエコシステム責任者を務めるトラビス・クリンガー氏はメールでコメントした。
ChromeにおけるサードパーティCookieの将来をめぐる疑問は終息に向かっているものの、Googleは反トラスト法との闘いからまだ脱却できていない。今回のGoogleの方針転換と同社をめぐる規制圧力は、広告業界がデジタル広告最大手であるGoogleに対し、他の分野における透明性と競争の強化を引き続き求めるよう促す可能性を示唆している。
テレビ広告の業界団体である米VABのショーン・カニンガム会長兼CEOは「先週、独占行為に対してGoogleに下された2つ目の重大な司法判断は、デジタル広告の在り方を『再構築』する可能性があると予想されます。またこの判決はマーケターに『次は動画広告慣行の不透明性を終わらせるべきである』とGoogleに伝える機会を与えました」と、メールでコメントした。
「マーケターは、Googleの動画広告における不透明性の深さと広がりが(今のところは)違法ではないことを理解しています。しかし今こそ、『本来なら違法であるべきだ』と声を上げ、業界に存在する透明性のダブルスタンダードを終わらせるよう要求すべきときです。こうした力学もまた、『再構築』される必要があるのです」と、カニンガム氏は続けた。
Googleが初めてサードパーティーCookieの廃止を発表してから5年以上が経過し、デジタル広告の在り方はすでに大きく変わりつつある。広告業界は、データの共同活用を目的とした「データクリーンルーム」の導入、より精度の高いターゲティングのためのID開発、マーケティングミックスモデリング(MMM)の高度化などに取り組んできた。こうした取り組みに積極的に関わってきた先進的な企業にとって、今回のニュースは「もはや意味のない話だ」と、独立系メディアバイイングと広告代理店業を手掛ける米Novusのデータ戦略・イノベーション担当シニアバイスプレジデント、マリ・ドクター氏は述べている。
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