アドビが考える生成AI時代のデジタルアセット管理 「コンテンツサプライチェーン」最適化はなぜ重要か?「Adobe Content Hub」を提供開始

アドビが新製品「Adobe Content Hub」の提供を開始した。同社が提唱するコンテンツサプライチェーンの課題がこれによりどう解決するのか。

» 2024年08月17日 14時00分 公開
[織茂洋介ITmedia マーケティング]

 2024年3月に開催されたAdobeの年次イベント「Adobe Summit」で同社CEOのシャンタヌ・ナラヤン氏が語ったテーマは「AI時代における顧客体験管理」だった。パーソナライズされた体験がますます重要視される中で、企業が使うコンテンツも加速度的に増加していくことが見込まれている。そこで課題となるのが、コンテンツの素材となるデジタルアセット(画像、動画、文書、音声ファイルなど)をいかにしてスムーズな施策実行に利用できるかだ。

 本稿ではAdobe日本法人のアドビが2024年8月9日に開催した記者向けの勉強会の内容を基に、AIの存在を前提としたコンテンツ生成の在り方とそこにおけるデジタルアセット管理(DAM)の重要性、DAMの価値を最大限に引き出す新製品「Adobe Content Hub(以下、Content Hub)」について解説する。

Content Hubでできること

 コンテンツを提供するためのプロセスは、ワークフローとプランニング、制作とプロダクション、アセット管理、配信とアクティベーション、インサイトとレポーティングという5つに分かれる。この一連の流れをアドビは「コンテンツサプライチェーン」と呼んでいる。

 「Adobe Experience Manager(以下、AEM)」はこのコンテンツサプライチェーンを最適化させるためのソリューションで、コンテンツ管理システム(CMS)の機能を担う「Sites」とDAM機能を担う「Assets」という2つの主要なモジュールで構成されている。The Coca-Cola Companyなど世界の名だたる企業が利用するAssetsは、グローバル規模で散在するさまざまなデジタルアセットを一元化し、メタデータタグなどを付与してガバナンスを保った形で管理する。

 Content Hubは、Assetsに蓄積されたブランド承認済みのデジタルアセットを、外部パートナーを含む組織横断で効率的に活用する手段を提供するツールだ。もともとAEMにも外部に対してデジタルアセットを共有するための簡易な仕組みは提供されていたが、Content Hubはそれをより直感的に使えるUIを用意し、さらには生成AI「Adobe Firefly」によってコンテンツをリミックス可能にする仕組みを備えているのが特徴だ。

Content Hub(画像提供:アドビ、以下同)

 DAMに蓄積されたデジタルアセットの数が増えるほど、適切な素材を迅速に見つけ出し、再利用することは困難になる。また、コンテンツ作成には多くの人が関わるが、さまざまなデジタルアセットが無秩序に作成されることで、ガバナンスが適用されにくくなる課題もある。Content Hubは承認されたコンテンツをキーワードによって検索・絞り込みすることで、使用可能な素材の発見と再利用を促進する。見つかったアセットは共有やダウンロードが簡単にできる。将来的にはContent Hubのライセンスを持たない外部のエージェンシーなどのユーザーにアクセスを提供する計画もある。

 また、Firefly搭載の「Adobe Express」を使ってコンテンツをリミックスし、さまざまなチャネルに最適化された形でのバリエーション作成を支援して施策に合ったコンテンツを作り出すことができる。

 さらに、デジタルアセットの使用状況に関する分析(ファイルタイプ、画像の特徴など)が可能で、ここで得られたインサイトに基づき使用頻度の高い特定のファイルタイプやビジュアルスタイルにリソースを集中させるなど、コンテンツ改善に役立てることもできる。また、機密保持を要するコンテンツ配信におけるガバナンス制御も提供する。

 アドビ デジタルエクスペリエンス事業本部 ソリューションコンサルティング部 シニアソリューションコンサルタントの今井裕志氏はContent Hub提供の狙いについて「社内外のステークホルダー間でのブランドアセットの取り回し、これに関わるオーバーヘッドを短縮して、プロセスに関わる時間を減らしていきたい」と語る。

Content Hubの管理画面。ブランド承認済みのアセットを簡単に検索、編集、リミックス、配信可能に

アドビはマーケター手動のコンテンツサプライチェーン強化を自ら実践

 アドビが実施した調査によると、日本のマーケターの生成AI活用は諸外国の半数程度にとどまる。その内容も例えば会議の文字起こしやデータの分析などの社内業務が中心で、クリエイティブ領域での活用はあまり進んでいない(関連記事:「マーケターの生成AI活用に見る日本と世界の温度差――アドビ調査」)。

日本のマーケターはクリエイティブ領域での生成AIをあまり活用していない

 アドビ プリンシパル ビジネスデベロップメントマネージャーの阿部成行氏は日本のこうした状況を「チャンス」と捉え、次のように話す。

 「新しいテクノロジーがもたらす不安は、ツールやプロセスが確立されていない状況がもたらす。逆にそれがきちんと確立されて利用が進むことによって解消していく。われわれのソリューションによって懸念点のいくつかは解決できる。そういった意味では日本という市場に対しては潜在的なビジネスポテンシャルが大きいと捉えている」

 コンテンツサプライチェーンの考え方を提供すべくアドビがマーケター向けに提供するコンテンツ作成アプリケーションが「Adobe GenStudio」だ(関連記事:「マーケティングチームのための生成AIアプリケーション「Adobe GenStudio」でできること」)。Content Hubの諸機能は今後GenStudioにも搭載される予定だ。

 アドビは「カスタマーゼロ」として自社のソリューションを使ってその有用性を実証する取り組みを続けている。クリエイター向けイベント「Adobe MAX」のメールキャンペーンで「Adobe Illustrator」の「テキストからベクター生成」機能を使ってみたりFacebook広告のクリエイティブのバリエーションを増やし、コンバージョンの高いものテストしてみたりした。また、GenStudioを使ってマーケティング部門だけで広告を内製化することも試みているが、阿部氏によればそれぞれ着実に成果を出している。

アドビが実践する生成AIのマーケティングへの活用の試みと成果

 アドビによる生成AIのマーケティング業務への活用は、徐々にユースケースを高度化させている。阿部氏は「最終的には『生成AIファースト』へプロセスを拡張したい」と述べ、その中軸となるデジタルアセット管理の重要性を強調した。

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