分析するデータが豊富にあっても、“正しい”分析をしなければ事業の役に立たない。ブレインパッドとLINEヤフーの専門家は「問いの立て方に注意してほしい」と話す。
LINEヤフーは2024年1月18日、データ活用に関するソリューションや事例を紹介する「LINEヤフー Data Conference 2023」を開催した。
「消費者理解のためのアプローチ 〜実践例から学ぶ分析企画の考え方〜」と題したセッションでは、「自社Webサイトの新規訪問者数を増やしたい」という課題を例に、「問いの立て方」や「市場の定義」「ターゲットの深堀り」といった分析のプロセスが解説された。
Webサイトの訪問者数を増やしたい場合、「どのような経路で訪問しているか」「どのようなユーザーが訪問しているか」「どのコンテンツに多くのユーザーが訪問しているか」など、“よくある分析”が幾つかある。ただ、ブレインパッドの田浦將久氏(シニアリードデータサイエンティスト)は「早速これらの分析に着手したくなると思うが、一度立ち止まってほしい」と注意を促す。
では、どこから分析を始めればいいのか。田浦氏は「分析を始める前に、まずは問いを立てる。『どのような問いに答えればその課題を解決できるのか』を分析プロジェクトのメンバーや営業担当、クライアントなどのステークホルダーとしっかり議論すべき」と述べる。
同氏はピーター・ドラッカーの「重要なことは、正しい答えを見つけることではない。正しい問いを探すことである」という言葉を引用し、分析担当者が陥りがちな2つのわなを挙げた。
1つ目は「正しい問いではなく“知りたい問い”に答えようとする」ことだ。同セッションに登壇したLINEヤフーの小川知紘氏は自身の経験から「データがたくさんあると『他にこれも分析してみたい』となってしまう」と述べる。自分が気になることが、本当に課題解決につながる問いなのか、注意して考える必要があるだろう。
2つ目は「使いたい分析手法から逆算して、その手法で答えられる問いを立てる」ことだ。上述したように、Web解析においては“よくある分析”が存在するが、“担当者が慣れている”というだけではその手法を選ぶ理由にはならない。正しい問いにこだわる姿勢が必要だ。
では、どうすれば正しい問いを立てられるのか。今回、田浦氏は「自社Webサイトの新規訪問者数を増やしたい」という課題を解決するために「自社Webサイトにとって誰が新規訪問者数になり得るのか」という問いを立てた。
この問いを立てるために、まずは必要な問いの洗い出しを行ったという。これは個人で行っても、プロジェクトメンバーとディスカッションをしながら行ってもよい。次に、洗い出した問いの中でより優先順位の高いものを絞り込んだり、複数の問いを組み合わせたりすることで、正しい問いに迫っていく。
「このプロセスを何時間も行うと、『この問いは分析ではなくクライアントに聞くべき』『この問いはデスクリサーチで解決できそう』というように問いが絞り込まれ、分析で解決すべき問いが見えてくる」(田浦氏)
ただ、洗い出した問いが膨大だと絞り込むのも一苦労だ。田浦氏によると、絞り込みのメソッドとしてそれぞれのメンバーが優先順位をつけたリストを持ち寄ってオーソライズする方法がある。どのような方法を取るにせよ簡単ではないが、このプロセスを省いてしまうと、分析結果をまとめるのが難しくなり手戻りが発生してしまう。分析担当者は問いの立て方が“一番の勝負どころ”と認識したほうが良さそうだ。
今回の「自社Webサイトにとって誰が新規訪問者数になり得るのか」という問いに答えるには潜在的な顧客まで含めて探索していくことになるため、田浦氏によれば、ただ現状の訪問者を分析するだけでなく「どの市場を狙うか」という戦略に踏み込んだ分析が必要になる。
今回の場合、LINEヤフーが持つ検索行動のデータを基に、自社Webサイトや競合サイトに訪問しているユーザーの検索行動を分析し、ターゲットになり得る潜在顧客層を特定する。結果的に5つのターゲット層が存在することが分かったが、競合サイトに取られている層はどこか、自社の強みを生かして訴求できる層はどこか、といった要素を踏まえて「マーケティング層」と「経営関連層」にターゲティングした。
次に、ターゲット層を深堀りし施策の検討に入っていく。小川氏によれば、検索行動や接触媒体のデータから、それぞれの層がどのようなコンテンツに関心を持っているか分析し、その結果を基に短期、中長期の施策案を整理した。短期の施策は既に実行され効果も出ているそうだ。
今回の分析ではより良い問いを突き詰めた結果、戦略に立ち返ってターゲットを特定し、それを深堀りすることで施策案を導き出した。今回はWebサイト拡大のためのプロモーション施策を打つことになったが、田浦氏によればサービスそのものや価格、顧客接点などの改善のための分析でもこの視点が役に立つという。
データ基盤の整備が進み手元に分析可能なデータがたまってきても、何から始めればいいか分からないという人は多いだろう。本稿で紹介したように、まずは「正しい問い」にこだわるところから始めてみるのはいかがだろうか。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.