なぜアドビは吉本興業とコラボしたのか 「Adobe Creative Cloud」担当執行役員が語る強いブランドをさらに大きくするために(1/2 ページ)

プロのクリエイターのツールとして圧倒的な市場優位性を誇る「Adobe Creative Cloud」だが、強い製品だからこそ抱えるジレンマもある。さらなる高みを目指して成長の地図を描くためのポイントが「市場の再定義」と「インサイト」だ。

» 2020年08月28日 09時00分 公開
[冨永裕子ITmedia マーケティング]

 一貫した顧客体験を提供するためにデータを活用してカスタマージャーニーを捉え、企業内の組織が連携して俊敏で最適な意思決定を行う――そのためのアプローチとしてAdobe(日本法人はアドビ)はDDOM(Data Driven Operation Model)を提唱し、DDOMを支援するためのツールとして「Adobe Experience Cloud」や「Adobe Experience Platform」を提供している。

 あらゆるものがサービス化する経済においては顧客との関係こそが生命線だ。Adobeは既存のソフトウェアパッケージ販売からSaaSにビジネスモデルを転換した代表的な成功企業といえるが、同社の原点となる「Adobe Creative Cloud」のマーケティング戦略においても、このDDOMが核となっている。具体的には「Discover」「Try」「Buy」「Use」「Renewal」の5ステージにおけるデータを1つのダッシュボードに集約し、関係者全員で共有している。これにより、ユーザーがWebサイトに来訪したか、それが何回目なのか、どの広告を経由したのかといった、ステージごとのKPIを確認しながら、施策の成否をより深く分析できる。もしもトライアルプログラムに登録するなどのコンバージョンが不足していたり、コンバージョンはしても有償での利用に至らずに離脱していたりといった課題が見つかれば、カスタマージャーニーをさかのぼって対策する。組織が一丸となって顧客中心の価値提案を実現するメソッドは、もともとの製品の強さと相まって、「Adobe Creative Cloud」をクリエイティブ市場における圧倒的王者の地位に君臨させ続けている。

 そのAdobe Creative Cloudのマーケティングを日本で統括するのが、2019年3月にアドビ執行役員に就任した里村明洋氏だ。里村氏はトップマーケター輩出企業として名高いP&Gで営業職とマーケティング職を担当した後にGoogleに移り、プロダクトマーケティングを経験している。里村氏に課せられた使命は、市場リーダーとしてのポジションを維持するだけにとどまらない。既存の市場で勝ち続けながら新たなニーズを開拓し、Adobe Creative Cloudをより一層強いブランドに育てることが期待されているのだ。

里村さん アドビ マーケティング本部 執行役員/ディレクター 里村明洋氏

 しかし、これは言うほど簡単なことではない。ターゲットが欲しがる機能を実装すれば単純に新規顧客の獲得が進むわけではないし、下手な改変で既存顧客の体験を損ねて離反を招くようなことはあってはならない。また、Adobe Creative Cloudは抜群の認知がある一方で、プロのクリエイターが使う製品というイメージが定着しており、それ以外の人にはとっつきにくい印象があるのも否めない。

 もともと強いブランドをさらに大きくするためには「ターゲット市場の再定義が必須となる」と里村氏は指摘する。

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