Facebook日本進出から10年、個人情報不正利用問題が広告事業に与える影響は?今日は何の日?(2/2 ページ)

» 2018年05月19日 16時00分 公開
[織茂洋介ITmedia マーケティング]
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大企業から小さな会社まで

 Instagramは中堅・中小企業を含むビジネス活用も進んでいる。そこで、ビジネスプロフィールを利用しているアカウント向けに、ユーザーからのメッセージを1つの受信箱で受け取れる「ダイレクト機能」を実装したり、プロフィールページで予約や購入などができるアクションボタンを追加したり、ビジネス向け機能強化を行っている。

 ビジネス活用の成功事例としては、みずほフィナンシャルグループやネスレ日本、ウォンテッドリー、NTTドコモなどの事例が紹介され、認知向上からCPA(顧客獲得コスト)の低減、ブランドリフトと、あらゆる面でのFacebookおよびInstagram広告のメリットが語られた。

 人ベースのサービスであるFacebookは効果検証もより正確に行うことができる。ネスレ日本の例では、ラストクリックアトリビューションモデル(クリックだけに価値を認める評価)より、Facebook広告は実際には40倍もの効果があると評価できることが分かったという。

 海外進出支援では、岩手県の日本酒蔵元である南部美人が、米国ロサンゼルスでの消費増加を目的に実施したキャンペーン事例が紹介された。これは、南部美人の日本酒を扱うレストランの商圏居住者にターゲティングした広告を打つことで、レストランへの予約を促すという施策だ。Facebookのクリエイティブチームと共同で、モバイルを意識した質の高い動画を用意したこともあって、高い効果を得られたという。

人と社会を変える取り組み

 人と人のつながりを豊かにするという点ではMessengerの360度写真やHD動画への対応、カメラエフェクトの実装など機能強化はもちろん、アクティブシニアや女性起業家支援などの活動も精力的に行っている。

カメラエフェクト Facebook日本語版誕生10周年 限定カメラエフェクト

 また、スポーツ動画配信「DAZN」を運営するPerform Groupと共同で、6月中旬からJ2リーグとJ3リーグの試合を対戦クラブのFacebookページでライブ配信するというチャレンジも発表。日本プロサッカーリーグ(Jリーグ)の協力の下、地域に根差したサッカーコミュニティーの活性化を目指す。

 2018年5月に日本を含む23カ国で同日発売したVRヘッドセット「Oculus Go」においては、VR世界で他のユーザーと一緒にテレビ番組やゲーム、スポーツなどのコンテンツを楽しむということも可能になる。

 社会への貢献という点では、先述した有事におけるコミュニティー結束のための対応の他、ビジネス用SNS「Workplace by Facebook」を起点とした働き方改革を推進したいという。同ツールは社内コミュニケーションの効率化はもちろんのこと、企業内のさまざまなシステムとの連携も強化する方針だ。2018年の開発者向けイベント「F8」における発表によれば、連携するSaaSの中には「Marketo」や「Hubspot」の名前も入っている。

まずはユーザーに安心して使ってもらえるプラットフォームになることから

 今回の記者説明会は、フェイスブックジャパンのこれまでの10年を振り返り、これからの注力分野について語るという趣旨で開催されたものだ。しかし、2018年3月に明るみに出た英国の調査会社 Cambridge AnalyticaによるFacebookのプラットフォーム不正利用問題について、日本法人のトップが初めて公に語る場となったこともあり、質疑応答の時間においても、その話題への質問が集中した。

 日本でのビジネスにおけるインパクトについて、長谷川氏は「日本のユーザー、広告主にどう影響するかはもう少し注視する必要がある。ごく少数の広告主から(不正使用問題に関して)相談をいただいているのは事実だが、われわれとしては中長期的に安心して使ってもらえるプラットフォームになることが最優先だと考えている。そうなることでプラットフォームがもっと活性化し、その結果として広告主に対して貢献できる」と語る。

 今回、不正利用防止のためにプライバシーセンターの新設や、データ利用に関するポリシーの明確化、外部サイト履歴を削除する「履歴をクリア」機能などが提供される。また、セキュリティも強化し、そのための人的投資を従来の1万人から2万人へと倍増させた。2018年5月15日(米国時間)には、コミュニティー規定施行レポートで規定違反に対する措置件数を初公表するなど、情報公開にも積極的に取り組むようになっている。

 こうしたFacebookの方針が、同社の広告商品における提供ベネフィットにダイレクトに変更を与えるという認識はないと、長谷川氏は言う。ただし、これとは別にFacebookは3月に「パートナーカテゴリ」を半年以内に終了すると発表しており、その影響は否定できないようだ。

 パートナーカテゴリは、Facebookが保有する属性情報やオンライン行動データに基づくターゲティングを、Facebookのデータパートナー(日本ではCCCマーケティングとアクシオムジャパンの2社)が保有するデータ(例えば共通ポイントカードから取得するオフラインの行動履歴など)で補完するもの(関連記事:「Facebook広告に実購買傾向データを活用、CCCマーケティングがサービス提供」)。ターゲティングの精度を高めるために使われていたサービスが廃止されるわけだから、当然広告効果は下がる懸念がある。

 それでも「ユーザーから見て、Facebookに提供していないデータを使って広告が配信されることがベストなのかと勘案した結果、今回パートナーカテゴリを廃止するという結論に至った」(長谷川氏)ということは、結局のところ、ターゲティング精度という、これまでFacebookが訴求してきた価値よりも、信頼回復を優先させたことになる。

 オリヴァン氏は「利用者にとって良いFacebookであり続けることが結局は広告主にとっても良いことと考えている。(パートナーカテゴリーの廃止によって)ユーザーに関心のない広告が増えるということはあるかもしれないが、信頼性の方が優先順位は高い。Facebookを信頼するユーザーが増えることが、長期的には広告主の利益にもなる」と述べた。

 10年間順調に成長を続けてきたフェイスブックジャパンだが、節目の年にこれまでにない重い課題を背負った感はある。これを乗り越え、より強固なサービスとして次の10年も躍進し続けられるのか。

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