創業以来、クリエイティブ支援の会社として確固たるポジションを築いてきたAdobe Systemsがマーケティング領域、そしてその先の顧客体験の提供においてもプレゼンスを高めてきた理由とは。
大手有力テクノロジーベンダーがクラウドへのビジネスシフトに苦闘する中、企業買収によりマーケター向けの製品群という新ジャンルをいち早く打ち立て、ビジネスモデルの転換に成功したAdobe Systems(以下、Adobe)。買収された側の企業の1つであるOmniture出身で現在はAdobeでバイスプレジデントを務めるジョン・メラー氏に、Adobeの事業戦略の方向性について聞いた。
――メラーさんはもともとOmniture出身と聞いています。時計の針を戻すことになりますが、まず2009年にAdobeと一緒になってからこれまでのいきさつを聞かせてください。
メラー氏 本当は買収されたのだから、一緒になったというのは穏やか過ぎる言い方かもしれません。しかし、Adobeの立場から見ると、先見性のある賢明なビジネス転換であったと思います。
――そもそもの話として、創業以来「Adobe Photoshop」や「Adobe Illustrator」などを提供してきたAdobeが、Omnitureが提供していた「SiteCatalyst(現Adobe Analytics)」などのマーケティング関連製品をポートフォリオの中に取り込んだのはなぜでしょうか。
メラー氏 Adobeの中核ビジネスはクリエイター向けの製品です。動画、写真、画像などの素材がメディアに載ったとき、最終的にどう機能するかを理解したいと考えました。狙いは「アートとサイエンスの融合」です。美しいクリエイティブで素晴らしい体験をしてもらうのはアート。体験提供のためにデータを集めるのがサイエンスと考えています。
――2017年3月に「Adobe Marketing Cloud」を「Adobe Experience Cloud」として刷新しました。リブランディングのいきさつを教えてください。
メラー氏 お客さまである企業と一緒に仕事をしたとき、Adobe製品の機能はクリエイティブの領域はおろかマーケティングを超えた領域まで使い込まれていることがよく分かりました。Adobeは将来を見据え、最終顧客の一貫した体験を構築して提供し、効果を測定して最適化するまでのループを全てカバーしようと考えました。顧客体験の向上にはパーソナライゼーションをしていかないといけません。そのためにクリエイティブとマーケティングのツールを合わせる必要がありました。Adobe Experience Cloudという新しい製品体系はAdobeにとって、とても重要になります。
――Adobe Experience Cloudがマーケティングを超えた領域で使われている具体的な事例を教えてください。
メラー氏 日本のお客さま事例ではイオンがあります。同社は小売事業だけでなく、金融事業も展開している。消費者はスーパーにも行けば、店舗の中のイオン銀行にも行きます。だから、それぞれに対してパーソナライズした体験を提供しないといけない。消費者とのインタラクションの内容や頻度の分析は、マーケティングだけでなく2つの事業にまたがります。
――企業から見れば別事業でも顧客体験は連続しているということですね。
メラー氏 もう1つの事例が日産自動車です。同社はマーケティングを強化し、もっと自動車を売りたいと考えていますが、それと同時に全社的なデジタル変革も進めています。これにより、ドライバーと車のインタラクションが変わり、ドライバーに合わせた運転環境を作ることもできるようになるでしょう。サービス部門とのやりとりもカスタマイズができるはずです。Marketing CloudからExperience Cloudへの進化は、お客さまの現在の使い方と将来の使い方のマッチングを踏まえたものです。Adobeはさらにお客さまとともに成長していく余地を拡大したいと考えています。
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