早稲田大学 恩藏直人教授がマーケティングの最新キーワードを解説する。第1回は「ゲーミフィケーション」。ゲームという視点でビジネスを捉え直すことで、新しい可能性が見えてくる。
「ゲーム」という言葉を聞いて、私たちは何を連想するだろうか。新作ゲームの発売日に、何時間も待って購入する熱狂的マニアの姿。徹夜をしてプレイに熱中しているファンの姿。他の支出を節約してまでも、お気に入りのゲームを購入する若者の姿。もし顧客たちが、自社の製品やサービスに対して、ゲームに対するのと同じように熱中してくれたらどうだろう。そうした状況を願わないマーケターはいないはずだ。
「ゲーミフィケーション」という言葉は、ゲーム(game)とフィケーション(fication)からなる。ゲームについては、私たちが親しんでいるコンピューターゲームなどをイメージしてもらえばよいだろう。フィケーションは接尾語であり、動詞と結びついて「……化」や「……すること」という名詞を作り出すだす。つまり、ゲーミフィケーションとは、ビジネスなどゲーム以外の分野に、ゲームの要素を持ち込むという意味である。
ビジネスをゲーム化するためには、ゲームを構成している4つの要素に注目する必要がある。第1に、何らかの数値をポイントとして示すこと。第2に、集団内でのランキングを明示すること。第3に、1人ひとりの独自性に合わせてカスタマイズすること。そして最後に、節目となるゴールを設定することだ。ゲームの要素がビジネスに取り入れられることにより、顧客の心をしっかりとつかみ、ロイヤルユーザーを増やすことが可能になる。
ゲーミフィケーションの成功事例としてナイキプラス(Nike+)が知られている。ナイキによるスマートフォン用アプリケーションで、スマートフォンを携帯すればゲーム感覚でジョギングでき、シューズやウェアなどナイキ製品に対するファン作りに貢献している。一週間に70キロを走るなどのゴールが設定でき、仲間と走った距離を競い合うことができる。スマートフォンにはGPS機能も付いているので、走行距離などをポイント化したり、自分に適した速度を把握したりすることも可能だ。ゲームという視点でビジネスを捉え直すことで、新しい可能性が見えてくる。
恩蔵直人(おんぞうなおと) 早稲田大学商学部卒業後、同大学大学院商学研究科へ進学。同大学部商学部助教授などを経て、1996年同学部教授。2008年9月から同大学商学学術院長兼商学部長。主な著書に「競争優位のブランド戦略」(日本経済新聞社)、「マーケティング」(日経文庫)、「コモディティ化市場のマーケティング論理」(有斐閣)など。
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