「グローバルファースト」で世界に売り込む方法「4YFN」登壇のベンチャー起業家に学ぶ(1/3 ページ)

世界に対して自らのビジネスを売り込むためにはどうすればいいか。ITジャーナリスト占部雅一が、スペインで開催されたベンチャー企業イベントに登壇したある日本人起業家の軌跡をたどりながら、その方法を探る。

» 2017年03月23日 07時00分 公開
[占部雅一株式会社ドーモ]

 2017年2月28日、スペイン・バルセロナで開催された「4YFN(4 Years From Now)」というイベントで、IoTに関する事業を営むベンチャー起業家によるピッチ(プレゼンテーション)が行われていた。世界中から選ばれこの場に集結したのはたった8人。欧米の投資家と企業人がほとんどを占める聴衆を見渡しながら、1人の日本人がステージに立った。萩原智啓(はぎわらともひろ/敬称略)、48歳。アクアビットスパイラルズのCEOだ。

4YFNの壇上に立つアクアビットスパイラルズ CEOの萩原智啓。ピッチの様子は関連リンクを参照

4YFNは多くの投資家と企業が注目するベンチャー企業イベント

 4YFNは毎年2月後半に開催される世界最大のモバイル見本市「Mobile World Congress(MWC)」の分化会として併催されている。文字通り「今から4年間」の間に飛躍が期待されるベンチャー企業を支援するためのネットワーキングイベントだ。

 エスパーニャ広場の目の前に位置する歴史ある会場でこのイベントが開かれるのは、2017年で4回目となる。4YFNは年々活況を増し、今回は600以上のスタートアップ企業と700以上の投資家と企業が集まり、多くの展示とさまざまなカンファレンスを開催した。参加者は全体では1万8000人以上になる。

 日本ではほとんど類がないが、世界的なIT系見本市には、サブイベントとして必ずこうしたスタートアップイベントが併催されている。例えば毎年1月にラスベガスで開催される家電製品の大規模見本市「CES」における「Eureka Park(ユーレカパーク)」や3月にテキサスで開催される「SXSW」における「Startup Village(スタートアップビレッジ)」などがそれに当たる。

 4YFNはスタートアップ企業のためのマーケットプレースである。それ故、多くの投資家と企業が集まり、デジタル社会の未来のため、「青田買い」に懸命になっている。

 萩原の率いるアクアビットスパイラルズは、近距離無線通信(NFC:Near Field Communication)とQRコードを併用してWebへアクセスするサービス「スマートプレート」を展開している。

 これは、Androidであれば端末を専用プレートにかざして、iPhoneであればQRコードを使うことによって、Webにアクセスする仕組みを提供するものだ。個々のプレートIDはクラウドで管理しているので、リンク先のコンテンツを柔軟に変更できる。また、アクセス解析ができることを特徴としている。

 アクアビットスパイラルズは、IoTならぬHoT(Hyperlink of Things)、モノのハイパーリンクでリアルとネットが融合する世界を作ることをミッションとする。スマートプレートは現在、ピザハットや東急電鉄、三井不動産、オートバックスなどで使われ始めており、リアルからネットへアクセス可能な情報通信プラットフォームとして、オムニチャネル施策の観点から注目されている。

 それにしても、なぜ萩原は日本から遠く離れたバルセロナに来て自社のビジネスの新しいチャンスを得ようとしているのか。なぜスタートアップのためのイベントに参加し、ピッチを行っているのか。

 1つの理由は、日本と世界のカルチャーの違いだ。

 現時点でNFCを使えるのはAndroid端末のみ。iOS端末は未対応だ。日本はiPhoneとAndroid両方で同じように利用できないという理由でスマートプレートの採用に二の足を踏む傾向がある。日本は他の国と比べて圧倒的にiPhpneユーザー比率が高いといわれる。調査会社Kantarによると、日本のスマートフォン市場におけるiOSのシェアは2017年1月時点で49.5%。Androidの49.0%を上回る。ちなみにGartnerの調査によると、2016年第四四半期におけるスマートフォン販売台数は、全体で約4億3154万台。うちAndroidは約3億5267万台で、Androidの販売シェアは81.7%だ。

 とはいえ、日本においてもAndroidだけで半数近くのマーケットはある。それなのに、そこでチャレンジしようとせず躊躇(ちゅうちょ)してしまう。そういう国民性と言ってしまえばそれまでだが、実にもったいない。萩原はそう感じている。

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