「鰻の成瀬」が快進撃 社長は飲食未経験→365店舗に急拡大、常連を増やす秘訣とは?(2/2 ページ)

» 2025年06月09日 06時01分 公開
[野本纏花ITmedia]
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モバイルオーダーを駆使 「出汁林」の顧客単価UP戦略

 次に、山本氏と同じく業界未経験で飲食店をオープンし、現在は神田・赤坂・渋谷・前橋で4店舗の飲食店を経営する、Dazyの林龍男社長のLINE活用事例を紹介しよう。

イベントに登壇したLINEヤフーの富永翔氏(左)、フランチャイズビジネスインキュベーション山本昌弘氏(中央)、Dazy林龍男氏(右)

 林氏が経営している4店舗のうち、赤坂にある「海老牡蠣酒場だるま」は、2022年10月にオープンした。しかし、立地の悪さから、通りすがりで新規客が来店するのはあまり期待できなかったという。例えば2023年5月の来客数は計535人のうち、予約有りが405人、予約無しの直接来店が130人だった。

 そこで林氏はLINE公式アカウントを開設すると同時に、LINEを活用したモバイルオーダーを導入した。客がテーブルに設置されたQRコードを読み込むと、LINEのモバイルオーダーが使えるようになる。その際、デフォルトでその店のLINE公式アカウントと友だちになるフローになっているため、来店客が増えれば増えるほどLINEの友だちも自動的に増えていく仕組みだ。

 その他、月100人のペースでInstagramやTikTokを使ったインフルエンサーマーケティングを開始。SNSでの認知を広げ、新規客が来店したらLINE公式アカウントでつながり、次の来店に向けて再来店を促すコミュニケーションを図っている。

 この好循環を生み出した結果、5カ月後には、月間の来客数は計902人へと増加。予約有りの来店が782人へと増えたそうだ。

林氏(提供:LINEヤフー)

 では、リピーターを呼び込むために、LINE公式アカウントでどんなメッセージを送っているのだろうか。この疑問に対し、林氏は「LINEのモバイルオーダーでは、来店日時・注文内容・注文金額が分かる。初めて来店してから、2回目の来店までの平均間隔が40日だとしたら、2回目の来店から30~35日まで使えるクーポンを配信して、3回目の来店を早める工夫をしている」と語った。この効果は絶大で、クーポンを配信した人のうち7.1%が、1週間以内に再来店したという。

 LINEのモバイルオーダーで取得したデータを活用した例を、もう一つ紹介しよう。林氏の経営する渋谷の「出汁林」は、昼は定食屋、夜は居酒屋という形態をとっている。オープン当初は圧倒的にランチ需要が高く、売上比率は昼が7割に対して夜は3割程度という状況だった。

 しかし、あるとき昼と夜の売り上げが逆転した。その理由をモバイルオーダーのデータ分析で探ってみると、「顧客単価が高い人は、全体の注文に対する揚げ物の比率が高い」という傾向を見つけた。

 そこで、QRコードを読み込んだらすぐに揚げ物のメニューが出るように、モバイルオーダーの画面レイアウトを変更。接客時に揚げ物をおすすめしたり、揚げ物のクーポンを配信したりもした。

 同様に、海老牡蠣酒場だるまでも牡蠣フライの無料クーポンを配布したところ、クーポンを利用した客の顧客単価が4980円から5800円に大幅アップするという現象が起きた。「クーポンで試して気に入ってくれたら、次に来たときに有料で牡蠣フライを頼んでくれるはず。だから、いかにリピーターの顧客単価と来店頻度を上げられるかを追求して、LTVの向上につなげています」(林氏)

クーポン配信などで再来店者の顧客単価がUP(セミナー資料より)

なぜ「鰻なのにコーヒー?」 背景にこれだけの狙いがある

 ここまで、LINEを活用しながら、常連客をつくって顧客単価を上げる方法を紹介してきた。次は、繁盛店をつくるための最後の必須要件である顧客満足度の上げ方について見ていこう。

 林氏は顧客満足度を高めるために、アンケート機能を活用して、客の声を集めている。客がモバイルオーダーを利用すると、翌日、LINEの公式アカウントから自動でアンケートが届くのだ。アンケートで聞いているのは、再来店意欲、接客サービス、料理の味、提供速度、清潔感について。これらの結果をもとに、週に一度、店長会議を開き、改善策を話し合っている。

 「自分の意見だけで従業員に改善策を提案しても、素直に受け入れてもらえないこともある。しかし、アンケート結果に基づいた提案であれば、『そういう意見が多いなら変えたほうがいいね』と、みんなが納得してアクションに移すことができます」(林氏)

 この取り組みを始めたところ、わずか2カ月で顧客満足度は大幅に改善した。

 他方、鰻の成瀬では、「食後のコーヒーはないの?」という客からの要望によって、コーヒーの提供を始めた。

 特に郊外の店では、回転率の上昇を狙うよりも居心地の良さを提供し、顧客満足度を上げながら顧客単価の上昇を狙ったほうが良いからだ。

鰻店でコーヒー? 顧客満足度を上げるための工夫(セミナー資料より)

 もちろん、立地が良くて回転率の上昇を狙いたいオーナーは、このコーヒーをメニューに入れない選択肢をとれば良い。

 「常連客がついて、売り上げが上がることで、サービスの質が上がり、『この店はコスパが良い』とお客さまが満足してくれて、また常連客が増える。飲食店を繁盛させる方法は、この繰り返しでしかない。常連客とつながり、次の来店を促すために、LINEはなくてはならないツールになっている」(山本氏)

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