インターネット広告が拡大を続ける一方で、業界が直面するリスクも深刻さを増しています。その代表例が、MFA(Made for Advertising、広告を見せることだけを目的に作られたWebサイト)やアドフラウド(広告詐欺)の増加です。
MFAは広告収益を目的に生成AIなどを用いて粗雑なコンテンツを量産し、ユーザー価値の低いサイトに広告を誘導する仕組み。人の目では見えない極小の広告枠や、盗用コンテンツを活用したMFAは近年急増しており、2023年以降は広告配信の20〜30%がMFAサイトに表示されているという調査もあります。
一方、アドフラウドは広告配信そのものを不正に操作する行為です。クリック数やインプレッション数をボットで水増しし、広告主から不正に報酬を得る手法が横行しています。英ジュニパーリサーチによると、2023年の世界被害額は13兆円を超え、2028年には倍増する見込みです。特に自動配信を前提とした運用型広告ではこうした不正の温床となりやすく、企業が気付かぬうちに被害に遭っているケースも少なくありません。
数値だけで広告効果を測る時代は終わりつつあります。マーケターには今、“どこに出稿されたか”を可視化し、信頼できる配信先を選ぶ目利き力が求められています。
広告費の高騰やアドフラウドといった不正リスクが深刻化する中、広告に頼らない集客手段としてSEO(検索エンジン最適化)の重要性が改めて増してきています。
Statistaとsemrush.Trendsによれば、生成AI市場は2024年に670億ドルに達し、2030年まで年平均24.4%で成長すると予測されています。一方、SparkToroの調査では、Google検索は2024年に前年比20%以上増加。ChatGPTと比べても検索数は約373倍と、依然として検索は主要な情報接点であることが示されました。
ただし、SEOも決して不正リスクと無縁ではありません。MFAサイトが検索上位を一時的に占拠する事例が発生しており、Googleはスパムポリシーで「大量生成されたコンテンツの不正使用」を禁止したり、E-E-A-T(経験・専門性・権威性・信頼性)を重視したアルゴリズム強化により、そうしたサイトの排除に取り組んでいます。
SEOは信頼を築く手段である一方で、情報の出し手としての姿勢が問われる時代になっています。今こそ短期的な流入ではなく、持続的な成長戦略としてのSEOを見直すべきタイミングと言えます。
広告枠そのものの「安心」が脅かされる時代、マーケターは今こそ媒体や手法の「信用」を重視すべき局面に立っています。
健全性を欠いた媒体やブラックボックス化した配信ロジックは、広告主の信頼を大きく損なうリスクとなります。確かにCMやGoogleなど巨大プラットフォームはリーチの面で有利ですが、単に「どこに出すか」だけではなく、「誰にどう届けるか」が本質的な問いとなっています。
これからの広告戦略においては、短期的な流入や数値だけにとらわれず、SEOのような持続的で信頼性の高い集客手法を再評価し、ユーザーとの良質な接点を築くことが重要です。単に「目先の結果だけにとらわれるな」というのは簡単ではありませんが、苦労して積み上げてきたブランド価値を守るためにも、媒体選定や配信戦略を見直してリスクを事前に排除し、“安心”を確保することもぜひ真剣に考えたいですね。
田中雄太
たなか・ゆうた デジタルアイデンティティ SEOエヴァンジェリスト、コンサルタント。SEO集客からの売り上げ・問い合わせ増加など、セールスファネル全体のコンサルティングが可能。『薬機法管理者』の資格を有し、表現の規制が厳しい薬機法関連分野のマーケティングにも精通。
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